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第三話
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エメラルダはヒロインも調査済みである。
名前をオレット。栗色の瞳に桃色の髪を持つ乙女であり、”黄昏のキミ”のヒロインである。
物語の冒頭は正門前で始まる。ヒロインが選んだメインヒーローに転びそうになったところを抱き止められて、運命の出会いを果たすのである。
つまり、エメラルダは今、正門前にたたずんでいる。
恐らくはもうすぐだと思いながらもかれこれ十分はそこに点在しており、正門前から動かないエメラルダに視線は集まっていた。
何かがある。
それを周りも感じ取っているのである。
しかも、そこにいるエメラルダは先ほどから終始笑顔なのである。
何故かと問われれば、先ほどビショップが窓辺にいたのを確認済みだからである。
ビショップが窓辺に立ったのはほんの数分だ。そしてエメラルダがビショップを見つめたのは一秒足らず。それでもエメラルダにはあの人影がビショップであったという絶対の自信があった。
自分がビショップを見間違えるわけがない。
だからこそ笑みがこぼれてしまう。
ヒロインは正門前でヒーローと出会うのである。つまり、ビショップは選ばれていない。
ゲームの途中でシフトチェンジもあり得るが、現段階としては喜びがあふれてしまう。
ヒロインがビショップ狙いでないということが嬉しくてたまらない。
そして、今から来るであろうヒロインの選んだ相手と、全力でくっつけてやろうとエメラルダは考えていた。
「来た。」
エメラルダはじっとその姿を見つめた。
オレットは薄桃色のワンピースを着ており、古い馬車から降りると門をじっと見上げている。
きっと乙女ゲームの中では今まさにオープニングが流れている事であろう。それを私も思い出して気合を入れる。
絶対にヒロインなんかにビショップ様を奪われてなるものか。
闘志を燃やしながらじっとその光景を見ていると、王家の馬車が現れ、そして第一王子であるラシッドと護衛のレオナードが姿を見せた。
どちらだ。
一体、どちらを攻略しようとしているのだと見つめていると、令嬢たちにぶつかられてよろめいたヒロインを、護衛のレオナードが受け止めた。
レオナードか!
良かったと思わずほっとしてしまう。何故かと問われれば、第一王子であるラシッドには、公爵令嬢であるフィリアナという婚約者がいるからである。
もし第一王子のラシッドと結ばれた場合、乙女ゲームの世界とはいえフィリアナが正妃に、オレットは側妃に収まることになるであろう。そして言ってしまえば、王の寵愛だけで王宮を生き抜けるほど甘くはない。
ヒロインオレットが幸せになる為にも、レオナードの方がよいであろう。
そう、じっと見続け続けたのがいけなかった。ラシッドがこちらに気が付くと、エメラルダに柔らかな笑みを向けて歩み寄ってきたのである。
「エメラルダ嬢。ますます美しくなったな。」
エメラルダはラシッドに美しくカテーシーを行うと、挨拶を述べた。
「ラシッド殿下。お久しぶりでございます。」
「あぁ。ここは学園だ。殿下呼びは止めろ。」
「申し訳ありません。ラシッド様。」
ラシッドはにこにこと笑みを深めるとエメラルダに腕を差し出した。
それは、自分がエスコートするから一緒に行こうと言うラシッドの合図なのだが、ここでこの冗談に乗るわけがなかった。
「お戯れを。フィリアナ様に怒られてしまいます。」
「固い事を言うな。フィリアナはこの学園にはいないし、いいだろう?」
学園は基本的には一年制である。だが、第一王子であるラシッドは学びを深めるために二年学園に通っている。つまり、フィリアナは卒業しているのである。
だが、だからといって、エメラルダがその手を取るわけにはいかない。
その時であった。
エメラルダはその視線を受けた時、全身が幸福感に包まれた。
ビショップがこちらの様子に気づき、そしてやってきてくれたのである。それだけでもエメラルダにとっては天にも昇る心地であった。
「兄上。今日はゆっくりと来られたのですね。」
「なんだビショップか。ふん。婚約者を迎えにおでましかな?」
ビショップは優しげな笑みを浮かべたまま答えた。
「エメラルダ嬢。久しぶり。俺は兄上を迎えに来たんだよ。さぁ行こう。」
「ん?エメラルダ嬢をエスコートしにきたのではないのか?」
その言葉に、ビショップの顔は一瞬引きつりそうになる。
エメラルダは期待のこもった瞳でビショップを見つめると、それにビショップはやんわりと断りを入れた。
「すまない。兄上を至急教員室へと呼ぶようにとの話なんだ。エメラルダ嬢。また今度ね。」
「は、はい。」
エメラルダは歩き去っていくビショップの背を見送った。
ラシッドから自分を庇ってくれたのだとエメラルダは胸が高鳴り、はぁと、大きく息をついた。
「かっこいぃ。」
去っていく姿も愛おしく感じた。
「くくく。」
笑い声を堪えていたラシッドは、人気がなくなるとやっと笑みをこぼした。
「兄上。」
「悪い。ふふ。お前は本当に可愛い奴だよなぁ。」
「あんな場でエメラルダを試さないで下さい。」
足を止めると、ビショップはラシッドに真剣な表情を向けた。
それにラシッドも視線を返すと言った。
「エメラルダ嬢はあまりにも完璧すぎる。何か裏がありそうだからなぁ。ちょっかいをかけて試していかないと心配だ。」
それについてはよく話題に上がるものであった。
第二王子として第一王子よりも後ろ盾の低い家へと婚約者を決めたはずなのにもかかわらず、エメラルダはその単身だけで人を引き付けすぎる。
それ故に、いらぬ詮索を生んでいた。
「俺も気を付けますから。」
「あぁ。そうしておけ。あと、先ほどレオナードに支えられた女にも気をつけろ。」
「?すみません。見ていませんでした。どんな女です?」
「栗色の瞳に桃色の髪をした女だ。あれはやり手の女だぞ。まぁレオナードに気がある様子だったが、気を付けるのに越したことはない。」
「はい。分かりました。その者についても調べておきます。」
「あぁ。」
兄の笑みに、ビショップは小さくため息を漏らした。
はっきり言えば、そんな見ず知らずの女などどうでもいい。
エメラルダ以外に恐ろしい者なんてビショップには今の所なかった。
名前をオレット。栗色の瞳に桃色の髪を持つ乙女であり、”黄昏のキミ”のヒロインである。
物語の冒頭は正門前で始まる。ヒロインが選んだメインヒーローに転びそうになったところを抱き止められて、運命の出会いを果たすのである。
つまり、エメラルダは今、正門前にたたずんでいる。
恐らくはもうすぐだと思いながらもかれこれ十分はそこに点在しており、正門前から動かないエメラルダに視線は集まっていた。
何かがある。
それを周りも感じ取っているのである。
しかも、そこにいるエメラルダは先ほどから終始笑顔なのである。
何故かと問われれば、先ほどビショップが窓辺にいたのを確認済みだからである。
ビショップが窓辺に立ったのはほんの数分だ。そしてエメラルダがビショップを見つめたのは一秒足らず。それでもエメラルダにはあの人影がビショップであったという絶対の自信があった。
自分がビショップを見間違えるわけがない。
だからこそ笑みがこぼれてしまう。
ヒロインは正門前でヒーローと出会うのである。つまり、ビショップは選ばれていない。
ゲームの途中でシフトチェンジもあり得るが、現段階としては喜びがあふれてしまう。
ヒロインがビショップ狙いでないということが嬉しくてたまらない。
そして、今から来るであろうヒロインの選んだ相手と、全力でくっつけてやろうとエメラルダは考えていた。
「来た。」
エメラルダはじっとその姿を見つめた。
オレットは薄桃色のワンピースを着ており、古い馬車から降りると門をじっと見上げている。
きっと乙女ゲームの中では今まさにオープニングが流れている事であろう。それを私も思い出して気合を入れる。
絶対にヒロインなんかにビショップ様を奪われてなるものか。
闘志を燃やしながらじっとその光景を見ていると、王家の馬車が現れ、そして第一王子であるラシッドと護衛のレオナードが姿を見せた。
どちらだ。
一体、どちらを攻略しようとしているのだと見つめていると、令嬢たちにぶつかられてよろめいたヒロインを、護衛のレオナードが受け止めた。
レオナードか!
良かったと思わずほっとしてしまう。何故かと問われれば、第一王子であるラシッドには、公爵令嬢であるフィリアナという婚約者がいるからである。
もし第一王子のラシッドと結ばれた場合、乙女ゲームの世界とはいえフィリアナが正妃に、オレットは側妃に収まることになるであろう。そして言ってしまえば、王の寵愛だけで王宮を生き抜けるほど甘くはない。
ヒロインオレットが幸せになる為にも、レオナードの方がよいであろう。
そう、じっと見続け続けたのがいけなかった。ラシッドがこちらに気が付くと、エメラルダに柔らかな笑みを向けて歩み寄ってきたのである。
「エメラルダ嬢。ますます美しくなったな。」
エメラルダはラシッドに美しくカテーシーを行うと、挨拶を述べた。
「ラシッド殿下。お久しぶりでございます。」
「あぁ。ここは学園だ。殿下呼びは止めろ。」
「申し訳ありません。ラシッド様。」
ラシッドはにこにこと笑みを深めるとエメラルダに腕を差し出した。
それは、自分がエスコートするから一緒に行こうと言うラシッドの合図なのだが、ここでこの冗談に乗るわけがなかった。
「お戯れを。フィリアナ様に怒られてしまいます。」
「固い事を言うな。フィリアナはこの学園にはいないし、いいだろう?」
学園は基本的には一年制である。だが、第一王子であるラシッドは学びを深めるために二年学園に通っている。つまり、フィリアナは卒業しているのである。
だが、だからといって、エメラルダがその手を取るわけにはいかない。
その時であった。
エメラルダはその視線を受けた時、全身が幸福感に包まれた。
ビショップがこちらの様子に気づき、そしてやってきてくれたのである。それだけでもエメラルダにとっては天にも昇る心地であった。
「兄上。今日はゆっくりと来られたのですね。」
「なんだビショップか。ふん。婚約者を迎えにおでましかな?」
ビショップは優しげな笑みを浮かべたまま答えた。
「エメラルダ嬢。久しぶり。俺は兄上を迎えに来たんだよ。さぁ行こう。」
「ん?エメラルダ嬢をエスコートしにきたのではないのか?」
その言葉に、ビショップの顔は一瞬引きつりそうになる。
エメラルダは期待のこもった瞳でビショップを見つめると、それにビショップはやんわりと断りを入れた。
「すまない。兄上を至急教員室へと呼ぶようにとの話なんだ。エメラルダ嬢。また今度ね。」
「は、はい。」
エメラルダは歩き去っていくビショップの背を見送った。
ラシッドから自分を庇ってくれたのだとエメラルダは胸が高鳴り、はぁと、大きく息をついた。
「かっこいぃ。」
去っていく姿も愛おしく感じた。
「くくく。」
笑い声を堪えていたラシッドは、人気がなくなるとやっと笑みをこぼした。
「兄上。」
「悪い。ふふ。お前は本当に可愛い奴だよなぁ。」
「あんな場でエメラルダを試さないで下さい。」
足を止めると、ビショップはラシッドに真剣な表情を向けた。
それにラシッドも視線を返すと言った。
「エメラルダ嬢はあまりにも完璧すぎる。何か裏がありそうだからなぁ。ちょっかいをかけて試していかないと心配だ。」
それについてはよく話題に上がるものであった。
第二王子として第一王子よりも後ろ盾の低い家へと婚約者を決めたはずなのにもかかわらず、エメラルダはその単身だけで人を引き付けすぎる。
それ故に、いらぬ詮索を生んでいた。
「俺も気を付けますから。」
「あぁ。そうしておけ。あと、先ほどレオナードに支えられた女にも気をつけろ。」
「?すみません。見ていませんでした。どんな女です?」
「栗色の瞳に桃色の髪をした女だ。あれはやり手の女だぞ。まぁレオナードに気がある様子だったが、気を付けるのに越したことはない。」
「はい。分かりました。その者についても調べておきます。」
「あぁ。」
兄の笑みに、ビショップは小さくため息を漏らした。
はっきり言えば、そんな見ず知らずの女などどうでもいい。
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