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––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「あぁ、事前に君の父親とも話をつけておいた」
当事者である私抜きにして、男たちだけで考えた白い結婚のあらすじはこうだ。
私––––セシーリアは、伯爵令嬢として当然ながら政略結婚の駒となった。
父が取り次いだ縁談は同じく伯爵家のアロルドという男性。
十五の歳には決められて、とんとん拍子に婚約は進んだ。
そこに不満はない、貴族家に生まれたなら感情の伴わない結婚も役割の一つ。
家同士を結び、より良い経済活動を生むのは令嬢の大きな仕事だ。
しかし問題が生じたのは婚約が決まった後。
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
アロルドの独白は突然であり、恋情もない私には悲しみではなく、ただただ驚きのみがあった。
まさか……婚約が決まる今の今まで、隠していたというの?
「相手は公爵家次女の令嬢であり、公爵家が事を荒立てたくはないため……両家同意のもとで白い結婚となるように取り決めは進んだ」
公爵家の令嬢に手を出し、白い結婚が進んだ理由は至極単純。
アロルドが公爵家の令嬢の純潔を奪ってしまったが、相手側の女性も私にとっては加害者でもある。
最高位の貴族である公爵家は被害者であり加害者でもあるため、事を荒立てぬよう私とアロルドの婚約を自然に終わらせ、アロルドと次女を結婚させて収めたい目的があった。
公爵家としては次女という駒は失うが、汚名を被る事は避けられる。
アロルドの家も今後は公爵家に謝罪金という生き血を吸われ続けるだろうが、一家滅亡よりはましだ。
当の我が家としても、公爵家に恩を売り、多額の和解金をせしめる事ができるため娘に唾がついてもお釣りはくる。
「……というわけだ。これらは三家の合意のもとで正式に取り決められた。君に拒否権はない」
そうして一部始終を語ってくれたアロルドは、ご立派な合意書まで私に手渡す。
彼は艶めく茶色の髪を手ぐしで撫でながら、気まずさを隠すように青色の瞳を逸らす。
「署名してくれ、それで契約は成立だ」
三家で決められた合意。
私という当事者の意思には関係なく、私は生涯を一度身を捧げた女性として貰い手のいない生活を送るのだろう。
……
ん? いや待って。
なにそれ、最高じゃない?
「分かりました、アロルド……三家が望む事であれば三年間の白い結婚に同意します」
考えてみれば、さほど恋情があった相手ではない、元より恋情の絡む事のない政略結婚。
ゆえに悲しみも、今後は貰い手が居ない事への悲壮感はさほど無い。
むしろ和解金の一割でも私の権利を主張して勝ち取れば、気ままに生活も可能なら……
「問題……ないのか?」
「えぇ、なにも問題はないですよ」
驚き、唖然としているアロルドを尻目に躊躇なく合意書に署名する。
悲しむ顔でも浮かべると思っていたのだろうけど、見当違いよ。
「それでは三年間、よろしくお願いいたします」
そう告げて、確かに合意したはず。
三年間だけの生活だと思っていた……だから三年間を仮初の妻として過ごしていたの。
なのに。
◇◇◇
もう少しで三年を迎えるタイミングで、彼はとんでもない事を言い出した。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「あぁ、事前に君の父親とも話をつけておいた」
当事者である私抜きにして、男たちだけで考えた白い結婚のあらすじはこうだ。
私––––セシーリアは、伯爵令嬢として当然ながら政略結婚の駒となった。
父が取り次いだ縁談は同じく伯爵家のアロルドという男性。
十五の歳には決められて、とんとん拍子に婚約は進んだ。
そこに不満はない、貴族家に生まれたなら感情の伴わない結婚も役割の一つ。
家同士を結び、より良い経済活動を生むのは令嬢の大きな仕事だ。
しかし問題が生じたのは婚約が決まった後。
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
アロルドの独白は突然であり、恋情もない私には悲しみではなく、ただただ驚きのみがあった。
まさか……婚約が決まる今の今まで、隠していたというの?
「相手は公爵家次女の令嬢であり、公爵家が事を荒立てたくはないため……両家同意のもとで白い結婚となるように取り決めは進んだ」
公爵家の令嬢に手を出し、白い結婚が進んだ理由は至極単純。
アロルドが公爵家の令嬢の純潔を奪ってしまったが、相手側の女性も私にとっては加害者でもある。
最高位の貴族である公爵家は被害者であり加害者でもあるため、事を荒立てぬよう私とアロルドの婚約を自然に終わらせ、アロルドと次女を結婚させて収めたい目的があった。
公爵家としては次女という駒は失うが、汚名を被る事は避けられる。
アロルドの家も今後は公爵家に謝罪金という生き血を吸われ続けるだろうが、一家滅亡よりはましだ。
当の我が家としても、公爵家に恩を売り、多額の和解金をせしめる事ができるため娘に唾がついてもお釣りはくる。
「……というわけだ。これらは三家の合意のもとで正式に取り決められた。君に拒否権はない」
そうして一部始終を語ってくれたアロルドは、ご立派な合意書まで私に手渡す。
彼は艶めく茶色の髪を手ぐしで撫でながら、気まずさを隠すように青色の瞳を逸らす。
「署名してくれ、それで契約は成立だ」
三家で決められた合意。
私という当事者の意思には関係なく、私は生涯を一度身を捧げた女性として貰い手のいない生活を送るのだろう。
……
ん? いや待って。
なにそれ、最高じゃない?
「分かりました、アロルド……三家が望む事であれば三年間の白い結婚に同意します」
考えてみれば、さほど恋情があった相手ではない、元より恋情の絡む事のない政略結婚。
ゆえに悲しみも、今後は貰い手が居ない事への悲壮感はさほど無い。
むしろ和解金の一割でも私の権利を主張して勝ち取れば、気ままに生活も可能なら……
「問題……ないのか?」
「えぇ、なにも問題はないですよ」
驚き、唖然としているアロルドを尻目に躊躇なく合意書に署名する。
悲しむ顔でも浮かべると思っていたのだろうけど、見当違いよ。
「それでは三年間、よろしくお願いいたします」
そう告げて、確かに合意したはず。
三年間だけの生活だと思っていた……だから三年間を仮初の妻として過ごしていたの。
なのに。
◇◇◇
もう少しで三年を迎えるタイミングで、彼はとんでもない事を言い出した。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
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