【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか

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親切なあなたへ④

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私には祖父がいる


高校生の頃に亡くなって葬式に出た時
私は、泣けなかった


だって、いつも仏頂面で
なにも喋らない祖父はなにを考えているか分からなくて

たまに会っても、そこまで話さない
思い出もあまりなかった

だから、みんなが泣いている中で私は泣けない
ただ手を合わせていた


「最後におじいちゃんの顔をみましょう」

そう言われて、棺の中に眠る祖父の顔を見る



いつも仏頂面の祖父
思い出なんてない
はずだったのに

ふと思い出されたのは
幼き頃の思い出
小学校に入りたての頃だろうか




その日、祖父の前で私は母と喧嘩した
喧嘩といっても私が悪いし
母に反抗しただけかもしれない


膨れている私を、普段は話さない祖父が

「飯、食べにいこうか」と外に連れ出した


連れて行ってもらったのは個人経営のお店
お世辞にも綺麗な店ではなかった
周りもおじちゃんばかりで
雰囲気が怖かったのを覚えている

「何が食べたい?」そう聞かれて
私はメニューを見て、オムライスを頼んだ


「ん」と小さく返事した祖父はオムライスを頼む
届いたオムライスはフワフワで、私は美味しくて
夢中で食べた


「なぁ?」

祖父がオムライスを食べる私に小さく声をかける

「?」

首を傾げた私の口にソースがついていたのか
祖父は口元を拭ってくれると

「悪い事したらな、ちゃん謝らんといかん」

そう言った
普段は何も言わない祖父だけに私は素直に「うん」と返した

「なら、先ずはお母さんに謝ろうか」

「わかった」

驚くほどに素直に私は返事をしたと思う
きっと、そのころには目の前のオムライスのおかげで気分が晴れていたのだろう


帰って素直にお母さんに謝った
祖父はなにも言わずにタバコを吸いにいった








「不器用なおじいちゃんだったね」

母の言葉で
棺の中に眠る祖父との思い出が巡る

自然と涙がこぼれた
思い出なんてないと思っていた
きっと泣かないと思っていたのに

不器用で、普段は無口な祖父は
私に、生きる上で凄く大事な…

ー悪い事をしたら謝るー
を教えてくれていたんだ








「ごめんね」こぼれた言葉はその一言だった

高校生だった私は祖父が体調が悪いと聞いてもなかなか会いに行けなかった

いや、本当は会いに行けたんだ
部活や、友達や勉強…
理由をつけて会いに行く機会は多くはなかった

会いに行っても
いつもの仏頂面で何も言わない祖父を見るだけだったから


けど、葬式の後に聞いた話

祖父はいつも、私の事を聞いて嬉しそうにしていたらしい
私が会いにいった日は…いつもより機嫌が良かった

きっと、待っていてくれたのだろう




会いにいけなくて

ごめんなさい


あなたが教えてくれた事を忘れない
「ありがとう」もう伝えられないその言葉を私はいつも思い続けるんだ

忘れないよ、おじいちゃん

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