【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか

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親切なあなたへ③


子供の頃から一緒に育っていた犬がいる
ミニチュアダックスで、胴の長い
足の短い犬
茶色い毛で寂しがりやで臆病な犬
散歩に行く前は嬉しがるくせに、いざ外に出ると帰りたがる気分屋


私が寝ていると、いつも横で眠る

寒い日も、暑い日も


暑いから離れてほしいと思いつつも
横で眠る犬に安心感を感じて
いつしか何も言わずにそれが私の日常になった

小学生の頃も
中学生になっても

高校生になってもいつも家に帰れば
あの子が隣にいて
それが当たり前で




だから、ある日……私に届いた連絡に
電話を落としそうになった


突然、あの子が倒れたと


学校から急いで帰ったのを覚えている
暑い日、汗だくでも構わずに走った


噓であってほしい、これが夢であれば
そう思っても目の前の現実は変わらない


昨日まで、一緒に
元気だったあの子は
私が帰ってきても横になって
起き上がらない

か細い息をしていて
くんと鳴いていた


病気であまり長くないとお医者さんに言われたらしい
延命のためには動物病院に入院しないといけなくて

入院しても
いつ亡くなるかわからないって


だから、せめて最後は家族一緒にと
母は入院しないで帰ってきた



母は心配そうにあの子を撫でていて
大人になって
普段は帰ってこない兄もその日は帰ってきていた


私は、ただ泣いて動けなかった
座りこんで泣いて
隣にいつもあった暖かさを感じない
いつもの当たり前が
日常が突然無くなって


泣いていると、あの子が起き上がり
ヨタヨタと、倒れそうになりながら私の隣で横になった


気づいたんだ

この子が寂しがり屋だって思っていた
けど、私の隣にはいつもこの子がいて

この子がいたから
私は…一人じゃなかったんだって

私のためにこの子は隣にいてくれたんだ


「ありがとう」と
収まらない涙と共に呟いた
子供の頃から一緒にいた
それが日常で
変わらないはずだったのに
でも、あなたを失うのは

悲しいよ
寂しいよ







あの子は数日後に亡くなった
夜、家族がリビングに集まっていると
横になっていたあの子が
普段は鳴かないのに大きく鳴いた

全員が駆け寄ってあの子を見に行くと
小さく、小さく鼻を鳴らして
そして亡くなった


その時のことは
実はあまり覚えていない
泣いて、泣いて…人生で一番泣いて

気づいたら、次の日で
あの子に触れると
固くなって冷たかった

その時…もうあの子があの世に行ってしまったのだと分かって
涙が止まらなかった













私はあの子を忘れない
今でも…
きっと隣にいてくれるのかもしれない

思い出せば、寝ていたあの子を
散歩を嬉しがって
ご飯に喜んで跳ねるあの子が浮かぶ


はっきりと、くっきりと

私が寂しいと思ったら
あの子の写真を見る
きっと隣にいてくれるんだ
そう思うと、元気がでるから



いつまでも
私はあの子の親切を忘れない
一緒にいてくれてありがとう




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