【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか

文字の大きさ
3 / 5

親切なあなたへ③

しおりを挟む

子供の頃から一緒に育っていた犬がいる
ミニチュアダックスで、胴の長い
足の短い犬
茶色い毛で寂しがりやで臆病な犬
散歩に行く前は嬉しがるくせに、いざ外に出ると帰りたがる気分屋


私が寝ていると、いつも横で眠る

寒い日も、暑い日も


暑いから離れてほしいと思いつつも
横で眠る犬に安心感を感じて
いつしか何も言わずにそれが私の日常になった

小学生の頃も
中学生になっても

高校生になってもいつも家に帰れば
あの子が隣にいて
それが当たり前で




だから、ある日……私に届いた連絡に
電話を落としそうになった


突然、あの子が倒れたと


学校から急いで帰ったのを覚えている
暑い日、汗だくでも構わずに走った


噓であってほしい、これが夢であれば
そう思っても目の前の現実は変わらない


昨日まで、一緒に
元気だったあの子は
私が帰ってきても横になって
起き上がらない

か細い息をしていて
くんと鳴いていた


病気であまり長くないとお医者さんに言われたらしい
延命のためには動物病院に入院しないといけなくて

入院しても
いつ亡くなるかわからないって


だから、せめて最後は家族一緒にと
母は入院しないで帰ってきた



母は心配そうにあの子を撫でていて
大人になって
普段は帰ってこない兄もその日は帰ってきていた


私は、ただ泣いて動けなかった
座りこんで泣いて
隣にいつもあった暖かさを感じない
いつもの当たり前が
日常が突然無くなって


泣いていると、あの子が起き上がり
ヨタヨタと、倒れそうになりながら私の隣で横になった


気づいたんだ

この子が寂しがり屋だって思っていた
けど、私の隣にはいつもこの子がいて

この子がいたから
私は…一人じゃなかったんだって

私のためにこの子は隣にいてくれたんだ


「ありがとう」と
収まらない涙と共に呟いた
子供の頃から一緒にいた
それが日常で
変わらないはずだったのに
でも、あなたを失うのは

悲しいよ
寂しいよ







あの子は数日後に亡くなった
夜、家族がリビングに集まっていると
横になっていたあの子が
普段は鳴かないのに大きく鳴いた

全員が駆け寄ってあの子を見に行くと
小さく、小さく鼻を鳴らして
そして亡くなった


その時のことは
実はあまり覚えていない
泣いて、泣いて…人生で一番泣いて

気づいたら、次の日で
あの子に触れると
固くなって冷たかった

その時…もうあの子があの世に行ってしまったのだと分かって
涙が止まらなかった













私はあの子を忘れない
今でも…
きっと隣にいてくれるのかもしれない

思い出せば、寝ていたあの子を
散歩を嬉しがって
ご飯に喜んで跳ねるあの子が浮かぶ


はっきりと、くっきりと

私が寂しいと思ったら
あの子の写真を見る
きっと隣にいてくれるんだ
そう思うと、元気がでるから



いつまでも
私はあの子の親切を忘れない
一緒にいてくれてありがとう




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

おしごとおおごとゴロのこと の えほん

皐月 翠珠
絵本
ゴロは決めました 憧れのぬいぐるみのところで 一生懸命働こう と 田舎から上京したゴロは 慣れない都会に右往左往 でも ゴロは頑張ります 全力で“おしごと” をします ぶん:皐月翠珠 え:てぃる

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

処理中です...