死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか

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書籍化記念話

閑話ー楽しい日々を願ってー

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 閑話。
 時系列は、シルウィオがカーティアに想いを伝えた頃です。
 

   ◇◇◇◇◇◇ 




 私は今日も、庭園に建ててもらった宮とも呼べぬような小屋から出て、大きく伸びをする。
 すると、そんな私の耳に元気な鳴き声が聞こえた。

「コケェ! コケェ!」

「コッコちゃん、おはよう」

「コ!」

 言葉が分かっているかのような反応に笑いつつ、私は今日も畑作業に勤しむ。
 実った作物に満足していると、声がかけられた。

「カーティア様」

 振り返れば、ジェラルド様が私の傍まで来ていた。

「ジェラルド様。どうかしましたか?」

「陛下がカーティア様をお呼びです。お聞きしたいことがあると……」

「シルウィオが?」

 アイゼン帝国皇帝のシルウィオ。
 彼が私を呼ぶのは珍しい事ではない。
 しかし、いつもはグレインが呼びにくるはずなのに、今日はジェラルド様とは珍しい。

「来ていただけますか?」
 
 ジェラルド様は何処か不安そうに聞いて来る。
 私は不思議に思いつつも、断る理由もないため了承した。
 すぐに畑作業用の衣服から着替えて、ジェラルド様の案内に導かれてシルウィオの執務室へと向かう。

 いつもは庭園で集まるのに、ますます珍しい。

「陛下、カーティア様をお連れしました」

「あぁ」

 執務室へと入れば、シルウィオが執務の手を止めて私を見つめる。
 護衛騎士であるグレインもいるようだ。
 シルウィオは私の椅子を用意してくれたので、有難く座らせてもらう。

「カティ、聞きたい事がある」

「どうしたのですか? シルウィオ……」

「その……」

 どこか言い淀むようなシルウィオ。
 そんな彼の後方で、グレインやジェラルド様が励ますような視線を送っているのが不思議だった。

「カティ、その……明日の夜は、なにか予定はあるか?」

 少しの沈黙の後、意を決したように聞いてきたシルウィオ。
 だが、私は思わず反射的に返事をしてしまう。

「明日の夜は、久しぶりに本を読む予定ですよ。楽しみにしていた本があるんですよ!」

 明るく笑って言えば、シルウィオは無表情のまま固まる。
 そして、「そうか……」と何処か落ち込むような声で返答をした。

 どうしたのだろうか? と不思議に思っていると……
 ふと、シルウィオの背後にいたジェラルド様が大きな手振りをしている事に気付く。
 ジェラルド様は手に紙を持ち、何かを書いて見せてきた。

『陛下は、明日の夜をカーティア様と過ごしたいようです!』

 え?

『明日はカーティア様の誕生日ですよね? なので陛下は一か月前から、この日を休むために頑張っておられました!』

 そうか、すっかり私自身が忘れていた。
 確かに明日は、私の誕生日だ。
 それをシルウィオは遠回しに、一緒に過ごしたいと誘うつもりだったのだろう。

 ジェラルド様のおかげで気付いた私は、慌ててシルウィオを見つめた。

「でも、本はいつでも読めるので……時間は空いているかもしれません」

「っ……なら––」

「良かったですね! 陛下! これでカーティア様の誕生日を一緒にお祝いできますよ!」

 パッと表情が明るくなったシルウィオだったが……
 その途中で、感極まったらしきグレインが嬉しそうに真実を打ち明けてしまった。
 途端に、シルウィオの動きがピシリと止まる。

「っ!! グレイン! 来い!」

「え? ジェラルド様? 陛下が楽しみにしておられたので、カーティア様にもお伝えしようかと……」

「いいから来い!」

 きっとグレインは素直なので、シルウィオが隠そうとした事実を何気なく伝えてしまったのだろう。

 ジェラルド様はそんなグレインの手を取り、これ以上口を滑らせぬよう慌てて部屋の外を出て行った。
 残されたシルウィオは無言のままだ。

「……」

 相変わらず、素直になれないシルウィオ。
 グレインに真実を打ち明けられて、恥ずかしいのだろう。
 でも、こんな姿が見られるのはグレインのおかげだなとも、私は思ってしまうのだ。

「シルウィオ?」

「……」

「こっち見て、シルウィオ」

 ぐいっと彼の頬を両手で挟んで視線を合わせると、顔を赤くしている。
 いつも通り照れているのが、可愛らしい。
 そんな彼に微笑みながら、私は声をかけた。

「ちゃんと言ってくれれば、私はいつでも貴方のために予定を空けますよ」

「……カティ」

「だから、ちゃんと言ってください」

「……」

「シルウィオ」

「カ、カティの誕生日を祝いたい。だから……明日の夜は一緒がいい」

「はい。私もシルウィオが祝ってくれるなら、嬉しいです」

 顔を真っ赤にしながらも、ちゃんと言えたシルウィオ。
 彼が愛しくて髪を撫でれば、嬉しそうに私の隣に座ってきた。
 ギュッと抱きしめられる。
 こんな時は素直に嬉しさを伝えてくる彼が私は大好きだ。


 ジェラルド様とグレインには感謝しないといけないだろう。
 こんな彼を見られたのは、彼らのおかげだ。



 私がアイゼン帝国で過ごす日々は、こうした幸せの連続で、心から幸福だと思える。

 こんな日々に感謝しつつ、今日も楽しみながら生きていこう。
 楽しく過ごそうと思い続けた日々が、この幸せを作ってくれたのだから……
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