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10話
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アルの屋敷にお世話になりつつ、無心になるためにお仕事を手伝わせてもらって早二週間が過ぎた。
相変わらずご飯の時はアルが食べさせてくるし、緊張やら照れやらで胸が苦しい以外は平穏な日々だ。
きっと、彼がこの平穏を作ってくれているのだろう。
「アル、もらっていたお仕事……一旦、終わったよ」
「えぇ! 相変わらず早いね、もう終わったの?」
私は任されていた仕事の紙を手渡す、彼はざっくりと確認してから頷いた。
「完璧だよ、ありがとうリディ。給金はしっかりと出すから好きに使って」
「ううん、アルにはお世話になっているから……これぐらいはさせて、お金なんて要らないよ」
「いやいや、僕も本当に助かってるから! 正当な働きにはしっかりと対価をもらわないと!」
「わ……わかった。ありがとう、アル」
しっかりと私が働いた分のお礼として、手渡されたお金。
それを握った時に、私は彼の役に立って……しっかりと評価されているのだと感じた。
ただグレアルフを手伝っていた時とは違う、認められているという充実感が胸を満たす。
「本当に助かったよ。リディがやってくれなかったら、僕は泣きながら徹夜していたんだよ?」
「ふふ……アルなら少し想像できるかも」
「やっぱり、僕って泣き虫のイメージついているんだね」
冗談で嘆くアルにクスリと笑ってしまう。
アルは不思議だ、柔らかい雰囲気と明るい口調で私の嫌な考えも吹き飛ばして、自然と笑わせてくれる。
本当に心の休まる存在だ。
「リディのおかげで、しばらくは暇になったし。良かったら出かけない?」
「で、出かける……?」
アルは私の渡した書類を机に置き、笑って頷く。
「まだ昼だし、どうかな?」
「で、でも……私、お金もなにも持ってないよ?」
こんな時にグレアルフに言われた『貧乏人』という言葉が私の心に浮かぶ。
出かけるにしても、お金のない私なんかが釣り合うの?
「? お金なんて必要ないよ。行こう!」
疑問を跳ね飛ばすように、アルは私の手を引く。
明るい表情につられるままに一緒に外に出た。
朝日がまぶしく、目を細めてしまう程にいい天気だ。
「リディと一緒に行きたい所があるんだ。行こう!」
そう言うアルに着いていく。
十分程歩いた距離でたどり着いたのは、綺麗で透き通った水の流れる川だった。
「どうして、こんな所に?」
「それはね、こうしたいから!」
「っ!?」
突然、アルは川へと飛び込んだのだ。
大きな水音と共に、腰辺りまで水に浸かったアルは大きく笑う。
「リディも来なよ! 冷たくて気持ちいいよ」
「で、でも!」
「おいで、リディ」
アルの笑う顔と、私を誘う声は無邪気だった子共の頃と重なる。
貴族になったアルに対して、どこか遠くに感じていた距離間、壁が無くなっていく。
変わらない……昔と同じで、どれだけかっこよく、凛々しくなってもアルは私の記憶の中と変わらないままだ。
それが分かった瞬間、嬉しくて手を伸ばすアルの元へ、私も駆けてしまった。
無邪気な子共の頃に戻ったように。
「~~っ!!」
バシャリと飛び込み、水の中へ。
少し深かったけど、アルがしっかりと支えてくれるおかげで溺れる不安はなかった。
「あはは、昔みたいだね。僕もリディもこうして水遊びしてた」
「ふふ、もっと浅い川だけどね。ここは少し深いよ」
「確かに、でも……ここならこんな事も出来るね」
「きゃっ!?」
水の中で私を抱えるように持ち上げたアルは、背中に私を乗せるとゆっくりと泳ぎ出す。
「このまま、遠くまで行っちゃおうか?」
「な、何言ってるのアル。ふふ……あはは」
本当にアルと一緒にいると、子供の頃に戻ったみたいだ。
無邪気に不安もなかった頃に戻してくれる。
時間も忘れて、お互いの気の済むまで泳いだ後。
服を乾かすために私とアルは陽の当たる花畑で座り込む。
そこでアルはなにやらコソコソとしていた。
「なにしてるの? アル」
「ふふーん、これをリディに」
ふさりと、頭に乗せてくれたのは花冠だった。
昔と同じ、拙いながらも可愛らしく、色とりどりの花で作った冠を私の頭にのせて彼は笑う。
「リディ、まだまだ不安はいっぱいあるかもだけど……僕は変わってなんかないよ。だから、安心して一緒にいてよ」
「……ありがとう。アル」
私の不安を感じ取ってくれていたのだろう。
アルにはかなわない。
子供の頃と変わらないって彼は言ってるけど、充分に大人になっているんだから。
「でもね、変わりたいと思ってる事もあるんだ」
「?」
アルは先程までの無邪気な表情から一転し、顔を真っ赤にしながら手を伸ばす。
不思議に思っていると、そっと彼は私の手を握って指を絡めた。
「ア、アル……」
「だめかな? 僕はリディとこうしていたい」
「……………………だ、だめじゃ…………ない」
お互いに顔を赤くしながら、手を握り合う。
鼓動が鳴り止まなくて、花畑の中で私とアルは友達に戻りながら、
別の関係にも少しだけ変わっていった。
その最中、私はふと考える。
アルと共に過ごす時間を過ごす内に、心の中にあった怯えや恐怖は少しずつ薄れている。
私は……私は……。
全てを告発するために、もう……学園へ戻るべきなのだろうか。
目の前にある幸せを感じ取りながら、私はこの先について……ようやく考える事が出来てきた。
アルのおかげで。
相変わらずご飯の時はアルが食べさせてくるし、緊張やら照れやらで胸が苦しい以外は平穏な日々だ。
きっと、彼がこの平穏を作ってくれているのだろう。
「アル、もらっていたお仕事……一旦、終わったよ」
「えぇ! 相変わらず早いね、もう終わったの?」
私は任されていた仕事の紙を手渡す、彼はざっくりと確認してから頷いた。
「完璧だよ、ありがとうリディ。給金はしっかりと出すから好きに使って」
「ううん、アルにはお世話になっているから……これぐらいはさせて、お金なんて要らないよ」
「いやいや、僕も本当に助かってるから! 正当な働きにはしっかりと対価をもらわないと!」
「わ……わかった。ありがとう、アル」
しっかりと私が働いた分のお礼として、手渡されたお金。
それを握った時に、私は彼の役に立って……しっかりと評価されているのだと感じた。
ただグレアルフを手伝っていた時とは違う、認められているという充実感が胸を満たす。
「本当に助かったよ。リディがやってくれなかったら、僕は泣きながら徹夜していたんだよ?」
「ふふ……アルなら少し想像できるかも」
「やっぱり、僕って泣き虫のイメージついているんだね」
冗談で嘆くアルにクスリと笑ってしまう。
アルは不思議だ、柔らかい雰囲気と明るい口調で私の嫌な考えも吹き飛ばして、自然と笑わせてくれる。
本当に心の休まる存在だ。
「リディのおかげで、しばらくは暇になったし。良かったら出かけない?」
「で、出かける……?」
アルは私の渡した書類を机に置き、笑って頷く。
「まだ昼だし、どうかな?」
「で、でも……私、お金もなにも持ってないよ?」
こんな時にグレアルフに言われた『貧乏人』という言葉が私の心に浮かぶ。
出かけるにしても、お金のない私なんかが釣り合うの?
「? お金なんて必要ないよ。行こう!」
疑問を跳ね飛ばすように、アルは私の手を引く。
明るい表情につられるままに一緒に外に出た。
朝日がまぶしく、目を細めてしまう程にいい天気だ。
「リディと一緒に行きたい所があるんだ。行こう!」
そう言うアルに着いていく。
十分程歩いた距離でたどり着いたのは、綺麗で透き通った水の流れる川だった。
「どうして、こんな所に?」
「それはね、こうしたいから!」
「っ!?」
突然、アルは川へと飛び込んだのだ。
大きな水音と共に、腰辺りまで水に浸かったアルは大きく笑う。
「リディも来なよ! 冷たくて気持ちいいよ」
「で、でも!」
「おいで、リディ」
アルの笑う顔と、私を誘う声は無邪気だった子共の頃と重なる。
貴族になったアルに対して、どこか遠くに感じていた距離間、壁が無くなっていく。
変わらない……昔と同じで、どれだけかっこよく、凛々しくなってもアルは私の記憶の中と変わらないままだ。
それが分かった瞬間、嬉しくて手を伸ばすアルの元へ、私も駆けてしまった。
無邪気な子共の頃に戻ったように。
「~~っ!!」
バシャリと飛び込み、水の中へ。
少し深かったけど、アルがしっかりと支えてくれるおかげで溺れる不安はなかった。
「あはは、昔みたいだね。僕もリディもこうして水遊びしてた」
「ふふ、もっと浅い川だけどね。ここは少し深いよ」
「確かに、でも……ここならこんな事も出来るね」
「きゃっ!?」
水の中で私を抱えるように持ち上げたアルは、背中に私を乗せるとゆっくりと泳ぎ出す。
「このまま、遠くまで行っちゃおうか?」
「な、何言ってるのアル。ふふ……あはは」
本当にアルと一緒にいると、子供の頃に戻ったみたいだ。
無邪気に不安もなかった頃に戻してくれる。
時間も忘れて、お互いの気の済むまで泳いだ後。
服を乾かすために私とアルは陽の当たる花畑で座り込む。
そこでアルはなにやらコソコソとしていた。
「なにしてるの? アル」
「ふふーん、これをリディに」
ふさりと、頭に乗せてくれたのは花冠だった。
昔と同じ、拙いながらも可愛らしく、色とりどりの花で作った冠を私の頭にのせて彼は笑う。
「リディ、まだまだ不安はいっぱいあるかもだけど……僕は変わってなんかないよ。だから、安心して一緒にいてよ」
「……ありがとう。アル」
私の不安を感じ取ってくれていたのだろう。
アルにはかなわない。
子供の頃と変わらないって彼は言ってるけど、充分に大人になっているんだから。
「でもね、変わりたいと思ってる事もあるんだ」
「?」
アルは先程までの無邪気な表情から一転し、顔を真っ赤にしながら手を伸ばす。
不思議に思っていると、そっと彼は私の手を握って指を絡めた。
「ア、アル……」
「だめかな? 僕はリディとこうしていたい」
「……………………だ、だめじゃ…………ない」
お互いに顔を赤くしながら、手を握り合う。
鼓動が鳴り止まなくて、花畑の中で私とアルは友達に戻りながら、
別の関係にも少しだけ変わっていった。
その最中、私はふと考える。
アルと共に過ごす時間を過ごす内に、心の中にあった怯えや恐怖は少しずつ薄れている。
私は……私は……。
全てを告発するために、もう……学園へ戻るべきなのだろうか。
目の前にある幸せを感じ取りながら、私はこの先について……ようやく考える事が出来てきた。
アルのおかげで。
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