【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか

文字の大きさ
25 / 30
証明編

23話グレアルフside

しおりを挟む
 これは……夢でも見ているのだろうか?
 一度は諦めていた、自身の人生。もう希望など持ってはいけないと自分に言い聞かせていたはずなのに。

「貴方を支えさせてください。グレアルフ」、と笑って言うリディアは、俺にとって正に女神のように見えた。
 胸が熱くなる程に感動するのは、救われたという安堵からだろう。
 リディアが貴族家、学園の価値に気付いて自身の過ちを認めた事が今はただ嬉しく思う。

「ようやく分かってくれたな。リディア」

 呟いた言葉、リディアは返事をせずにただ微笑みで返してくれる。
 それだけで充分な肯定だと受け取り、早速俺はリディアと今後を話す。

 リディアの計画では、貴族家へと見せる研究レポートは彼女が全て書いてくれるようだ。
 俺にはそれを貴族家の前で読むことを頼まれる。
 お安い御用だ、その程度。こんなに従順でお人好しなら、初めから飼いならすように優しく接しておけば……と今になって思う。

「では、貴族家へ招集を行うのは五日後という事で」

 リディアの言葉に、俺も学園長も文句などあるはずもなく頷く。
 手筈は全てリディアが揃えてくれた、学園長は式典だと言って貴族家を招待して、俺はリディアが用意したレポートを読むだけの簡単な作業。
 ここまでお膳立てされれば、サルでも出来る。俺達は出る幕もなくリディアの準備に付き従う。

(……?)

 ふと、自分の考えが誘導されているような感覚を覚えた。
 俺はリディアの言う通りに従っている、それで人生を救われるからだ。だが……傍から見れば従順なのは俺と学園長ではないか?
 生じた疑問へ、もっと問いかけるべきだと心の警鐘が高鳴った。

「グレアルフ、貴方の未来を私に支えさせてください」

 生まれた疑問をかき消すように、リディアが俺へと囁く。
 これほど言ってくれるリディアを疑う事などすれば、また状況は悪化しかねない。俺に出来ることはただ信じて彼女を待つだけと結論を付けた。

「分かった、俺はお前を信じている」

 そうだ、リディアはこうして俺の元へと帰ってきてくれた、疑う必要など何処にある。
 一度は諦めていた人生に再び灯った希望の光、手放す訳にはいかない。リディアを信じてただ待つのみ、それが俺に出来る事だ。

   ◇◇◇

 そうして、五日の時を過ごしてリディアの要請通りに学園の広間へと呼ばれる。
 貴族家は学園長が招集しており、あと数時間もすればこの広間へと集まる手筈だ。陽を遮断するため、窓には漆黒のカーテンが引かれ、少し薄暗い。
 そんな中、リディアは広間で先に到着しており、俺と学園長は遅れて集まった。

「待たせたな、リディア」

「いえ」

(……?) 

 違和感は隣に立つ学園長も同様に感じたようだった。五日前の時とは違い、よそよそしく、何故か目も会わせようともしない姿。
 とはいえ、そんな些事を気にする必要はない。俺は手を伸ばしてリディアが用意している筈のソレを要求した。

「リディア、研究レポートは作ってくれているのだろう? それを早く」

「いえ、作ってなどおりませんよ」

 ?
 頭に浮かぶ疑問、嫌な考えが脳を駆け巡り、信じたくないと声が震えた。

「な、何言ってるんだよ。リディア? 言ったはずだよな、用意すると……だから貴族家の方々も呼んで」

「……」

「おい、なんとか言えよ。おい、リディア!」

「分かっているのでしょう? 貴方達は自分達で用意してくれたのです、自らの首を絞める場所を」

「っ!?」
 
 隣に立つ学園長が、ようやく気付いたように震えている。
 恐れていた事をリディアは行ったのだ、疑いはしたが彼女のお人好しを信じていた俺達は情けなくも、垂らされた一本の糸に疑いもせずに掴まり、こんなに稚拙な罠にかかってしまった。

 最初から、リディアが協力するという言葉はウソであったのだ。
 俺達はただいたずらに時間を浪費し、貴族家を自ら呼び出していた。

「私が、貴方達に協力する未来などあるはずがありません」

 冷たく言い放たれる言葉に、悔しさで拳を握る。
 目の前の平民の女に騙された事が心を激情に染めて、止められない衝動が身体を動かす。

「俺を馬鹿にしたのか? 平民のお前がっ!」

「はい、その通りですよ」

「っ! この野郎ッッ!」

 駆られた激情、握った拳を止めることなどできずにリディアへと放つ。
 その拳は彼女に届く事はなく、大きな手に受け止められる。
 何処に隠れていたのか、目の前にはアルバート公がおり、俺を鋭く睨み付けていた。

「グレアルフ、助かりました。皆さんの前で本性を出してくれて」

「は?」

 ヒラリと、陽光を遮断していたカーテンが開いていく。
 そこには多くの貴族家の方々がひそみ隠れていたのか、俺を静かに見つめる。
 幾重もの視線が、俺を射貫いているのだ。

「アルに頼み、事前に貴族家の方々に集まってもらいました。言っていた通り、平民である私を虐げた報い、それを貴方には受けてもらいます。申し訳ありませんが、平民に手を出すとこうなるという見せしめとして、貴方を使わせてもらいます」

 貴族家の方々と共に、講師達がいるのが見えた。
 彼らも協力していたのだろう、俺と学園長に分からぬように隠し通していたのだ。
 全ては俺が暴行する間際を目撃し、平民を虐めていた確証を得る目的。
 さらに今から実際に罰せられる俺を他貴族達に知らしめるため、見せしめにされたのだ。

 灯りかけていた希望と、お人好しだと信じていた女が。恐ろしい程の牙を俺へと向けている。
 みっともなく縋っていた俺と学園長は、その凶刃に完膚なきまでに追い込まれ、絶望した。

「グレアルフ。お、お前は……なんてことを……」

 呟かれた言葉、視線を向ければ今は最も会いたくない人がいる。
 俺の父が、膝をついて泣き出しそうになる程に頭を抱えている。実父が泣き出している姿に、俺はとんでもない事をしてしまったのだと、自覚が訪れた。
 
 もう、遅いというのに。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...