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証明編

24話

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「ありがとう、アル」

「大丈夫だった? リディ」

 優しく、問いかける彼の言葉に、肯定の意味を込めた頷きを見せる。
 本当にアルは私が思う以上の事をしてくれた、貴族家の方々に別口で連絡を行い、会場へ来てもらう手筈を整えてくれたのだ。講師達も私の説得によって協力をしてくれた。これで彼らの罪悪感は少しでも晴れたのかもしれない。

「グレアルフ、君についてはアルバート公より聞かせてもらった。リディア嬢への差別行為、暴力行為、脅迫は許されるものではない」

 一人の貴族の言葉に、周囲は肯定するように頷く。

「さらに、この学園の長でもある学園長でさえ、それらの行為を止める訳でなく、今まで類似した行為を隠蔽していた事は許されぬことだ」

 グレアルフ、学園長は今から言い渡されるであろう判決に戦慄しているのか、手先は震えて顔は青みを帯びる。
 聞きたくないと目を閉じたとしても、処罰は変更なく言い渡された。

「我らは、学園長の即刻解雇および教育職からの更迭を言い渡す。また、リディア嬢への暴行、侮辱行為を働いた加害生徒も全て退学の処分後、個々に行った犯罪行為を処罰させてもらう。皆、相違ないな?」

 頷く面々、グレアルフの父でもあるミレニア伯爵でさえ擁護はなく頷く。
 学園に実子を通わせている方も多くいるだろうが、目の前で見ていた先程の光景が否定を許す雰囲気を作らない。

「そ……そんなぁ。わ、私の未来が……」
 
「……」

 学園長は膝をつき、身体を震わせながら泣きわめき出した。
 職の辞任だけでなく、教育職に二度と関わる事を許されない判断はかなり重く。今後一生を後ろ指を刺される人生となるだろう。
 
 グレアルフも同様に、全てを諦めたようにただ静かに俯く。

「グレアルフ、お、お前は何という事を!」

 ミレニア伯はグレアルフへと拳を振るい、肩を揺らした後に私へと頭を下げた。
 その手はグレアルフの頭を掴み、共に頭を下げさせた。

「我が愚息の愚行、本当に申し訳ない。グレアルフ、謝罪せんかぁ!」

「す……すまな、かった」

 ミレニア伯は本気で激昂しているのだろう、ここまで騒ぎが大きくなってしまったのだ。もはや甘い処罰など出来まい。グレアルフを許さぬ姿勢を見せる事で他貴族家へせめて誠意ある姿勢を見せているのだろう。

「では、今回の対応で相違なければ、彼らの処分を決定しましょう」
 
 言い渡された処罰、貴族家の方々が納得したように頷く中で私はただ一人。手を上げる。
 決定に否を突きつけるために。

「少し、よろしいでしょうか」

「? リディア嬢、辛い経験をしただろう。学園は我ら貴族家で再度、統治を行う。安心してくれ」

「いえ、その事に私は否を唱えたいのです」

「は?」

 私からの予想もしない否定におかしな声を出しながら、周囲は訝しみの視線を向ける。その中でそっと私の背を押すアルに勇気づけられながら、私は考えを話す。

「失礼ながら、貴族家の方々だけに学園の統治を任せても……再び差別から生まれる出来事を止められるとは思えません」

「な……何を言っているのだね。君は」

「なので、学園の監査を行う第三者機関を設ける事を私は要望します」

 ざわめく会場、集まる視線に物怖じはしない。
 凛と伸ばした姿勢で、彼らを見渡す。

「貴族家の方、平民階級代表。また商家の方などで構成された機関を設け。学園での出来事を公正、中立的な立場で判断してもらいたいのです」

「それは、我らに任せてもらっても……」

「私は……正直に言ってしまうと貴族家の方々を完全には信用できません。皆さまの根底には平民階級を差別する意識がある事を」

 言った言葉に、間髪入れずに言葉を紡ぐ。

「だからこそ、今、目の前で見せたのです。平民階級を差別する思想がもたらす結末を……」

 グレアルフと、学園長の顛末。これらを見せられて自己の心構えを直すことを考えた者は少なくないだろう。

「今まで学園に隠蔽されていましたが、過去に生徒達を追い詰めていた方も、きっとこの中にいるはずです。だからこそ、信用など出来ません」

「……」

「二度と……私と同じ苦しみがないように、学園には第三者機関による監査が必要です。付け加えるなら、この学園で階級など関係なく、望む者を受け入れる体制を整えましょう。これから……私達の意識を変えていきましょう、どちらかを蔑むのではなく、分かり合えるように」
 
 周囲が顔を上げ、視線を会わせている。
 同意するように頷く者もいる中、最後の言葉を紡いだ。

「こんな事は、私で最後にしてください。皆さんのお力添えをお願いします」

 下げた頭。
 静まり返った会場の中で、一つの声が静寂を崩す。

「私は……その考えに賛同する」

 顔を上げれば、そこではアルの父親であるフレーゴ様が温和な表情で挙手していた。
 公家の賛同、それに追随するように次々と賛同の声が上がって、拍手による同意が送られてくる。
 
 貴族家の方々の思想を否定はせず、共同して意識をなくそうという呼びかけは、彼らの体裁は保ちつつ同意し易い状況を作り出せた。
 これからは、私も含めて全員の行動で差別の意識を変えていく。その土台は作れただろう。
 
「リディ、君が皆の考えを統一したんだよ。これで、貴族家にも差別を排除する意識が芽生えた。これから少しずつ減らしていけるはず」

 私も、そう信じたい。
 未来は分からない、本心なんて誰にも分からないけど……。少しは意識を変える事が出来たのかもしれないと思いたい。

「リディア嬢」

 呼ばれた声、主はフレーゴ様だった。
 彼は私とアルを見て、その頭をゆっくりと下げた。

「私の考えが、時代遅れだった。君達は皆の考えを変える行動を起こして、実際に変え始めた。君の事を否定など出来るはずない。無礼な言動の数々、申し訳なかった」

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