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証明編
26話
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「背、凄く大きくなったね。お母さん抜かされちゃったよ」
学園では寮暮らしをしており、久しく会えていなかった母の腕の中は変わらず暖かい。
懐かしさと、嬉しさがこみ上げて……言葉は自然とこぼれていく。
「お母さん。私、辛い事から逃げて、情けなくて……お母さんにはもう二度と顔なんて見せられないと思ってた」
「……」
母はなにも言わなかったけど、背に当たる手は強く抱きしめられる。
それでも、吐き出す想いを聞いて欲しかった。
「でも私ね、お母さんに胸を張って会えるように、頑張ったんだ」
「リディア……」
ふわりと、抱きしめる力。母は私を優しさで包み込みながら、寝室で読み聞かせる子守唄のように私へと囁く。
「頑張ったね。でもね、情けなくてもいいんだよ」
「お母さん……?」
「情けなくたっていい。辛かったら逃げてもいい、貴方が苦しかったら、まずはお母さんに頼りなさい」
まっすぐに見つめられる視線は優しくて、されど言い聞かせるように厳しくもある。
私の考えを正したいという母の想いが胸に響き、目頭が熱くなっていく。
「立派になんてならなくていい、ありふれた人生でもいいのよ。辛かったら逃げて、私の元に帰ってきて泣いていい。貴方が無事でいてくれる事が私の幸せなの」
情けなくて母に会えないと思っていた私の考えを優しく正してくれる。自死まで考え込んでしまった私は間違っていた。情けなくとも頼る事が、母が最も安心できる選択だったのだと、ようやく分かった。
「一人で抱え込まないでねリディア。貴方には誰よりも、貴方の味方になりたい私が居るんだから」
母を見る瞳が潤んでいく、何にも代えがたい母の優しさを胸にしみこませ。私はまるで子供に戻ったように涙を流してしまう。
優しくて、大好きなお母さんに……私はもっと頼るべきだったんだ。
「お母さん……ありがとう」
「ふふ……私からも帰ってきてくれて、ありがとう」
お互いに、再会を喜びあって抱きしめ合う。
自然と涙がこぼれ落ちて、母も私も涙に濡れたままお互いに笑い合った。
子供の頃と同じ……憂いも、何もない純粋な笑顔で。
「さて、今日はせっかく帰ってきてくれたんだから。貴方の好きなシチューでも作ろうかしら」
「っ……うん。食べたい」
「貴方も食べていくわよね? アルバート君?」
そっと母の視線はアルへと向く、彼は頷いて笑顔を浮かべた。
「もちろんです。僕、おばさんのシチューが大好きですから」
「ふふ、この前は挨拶に来たと思ったら急に走っていくから心配だったけど、リディアの事を見てくれてたのね。ありがとう」
「僕もリディには助けてもらってましたから」
二人の談笑を見つめていると、お母さんが少しだけ好奇心に満ちた笑みを浮かべて私とアルを見つめる。
「ところで、貴方達ってどういう関係なのかしら? 聞いてもいいかな?」
「お、お母さん」
昔から、こういった話が大好きな母を止めようとしたけど、ふわりとアルが私の手を引く。
その仕草にアルを見つめると、彼は笑って母に答えた。
「おばさん、少しだけリディと話をしてきていいですか? 僕、リディとその件について話したい事があるんです」
「あら? なら、私はシチューの準備でもしようかしらね。若い二人でゆっくり話してきなさいね」
「はい、ありがとうございます」
ニヤニヤとする母と、話をとんとん拍子に進めるアルに置いていかれてキョトンとしていると、彼は私の手を引いて歩き出す。
「着いてきてくれる? リディ。君に言いたい事があるんだ」
「ア、アル?」
「二人で話したい」
そう呟かれて、断ることなど出来ずに静かに頷く。
お互い、何を言うのかを薄々は分かっていながらも……この時が来たのだと胸は激しく鼓動して、心が落ち着かずに顔が熱く、朱に染まっていく。
いよいよ、私とアルの関係が変わるんだ。緊張しながらも、心はその時をずっと……望んでいた。
◇◇◇
マリア(母)side
二人が歩いていくのを見送りながら、私は瞳を潤ませる。
気づけば立派に育っているリディアを見て、寂しく。されど嬉しくもある気持ちで満たされた。
これからもずっとお母さんと呼んで欲しい、ずっと私から愛を送らせて欲しい。
気にせず甘えて欲しい……尽きない願いは沢山あれど、真に望むのは娘の幸せだけだ。
何よりも、無事に帰ってきてくれれば、私はそれでいい。
願わくは、貴方の未来は……笑顔が絶えない日々となる事を母は願います。
「おかえり、リディア」
すっかり大きくなった娘の背を見送りながら、髪を撫でる風に呟きを乗せていく。
この気持ちがずっと貴方に届いていると信じて。
学園では寮暮らしをしており、久しく会えていなかった母の腕の中は変わらず暖かい。
懐かしさと、嬉しさがこみ上げて……言葉は自然とこぼれていく。
「お母さん。私、辛い事から逃げて、情けなくて……お母さんにはもう二度と顔なんて見せられないと思ってた」
「……」
母はなにも言わなかったけど、背に当たる手は強く抱きしめられる。
それでも、吐き出す想いを聞いて欲しかった。
「でも私ね、お母さんに胸を張って会えるように、頑張ったんだ」
「リディア……」
ふわりと、抱きしめる力。母は私を優しさで包み込みながら、寝室で読み聞かせる子守唄のように私へと囁く。
「頑張ったね。でもね、情けなくてもいいんだよ」
「お母さん……?」
「情けなくたっていい。辛かったら逃げてもいい、貴方が苦しかったら、まずはお母さんに頼りなさい」
まっすぐに見つめられる視線は優しくて、されど言い聞かせるように厳しくもある。
私の考えを正したいという母の想いが胸に響き、目頭が熱くなっていく。
「立派になんてならなくていい、ありふれた人生でもいいのよ。辛かったら逃げて、私の元に帰ってきて泣いていい。貴方が無事でいてくれる事が私の幸せなの」
情けなくて母に会えないと思っていた私の考えを優しく正してくれる。自死まで考え込んでしまった私は間違っていた。情けなくとも頼る事が、母が最も安心できる選択だったのだと、ようやく分かった。
「一人で抱え込まないでねリディア。貴方には誰よりも、貴方の味方になりたい私が居るんだから」
母を見る瞳が潤んでいく、何にも代えがたい母の優しさを胸にしみこませ。私はまるで子供に戻ったように涙を流してしまう。
優しくて、大好きなお母さんに……私はもっと頼るべきだったんだ。
「お母さん……ありがとう」
「ふふ……私からも帰ってきてくれて、ありがとう」
お互いに、再会を喜びあって抱きしめ合う。
自然と涙がこぼれ落ちて、母も私も涙に濡れたままお互いに笑い合った。
子供の頃と同じ……憂いも、何もない純粋な笑顔で。
「さて、今日はせっかく帰ってきてくれたんだから。貴方の好きなシチューでも作ろうかしら」
「っ……うん。食べたい」
「貴方も食べていくわよね? アルバート君?」
そっと母の視線はアルへと向く、彼は頷いて笑顔を浮かべた。
「もちろんです。僕、おばさんのシチューが大好きですから」
「ふふ、この前は挨拶に来たと思ったら急に走っていくから心配だったけど、リディアの事を見てくれてたのね。ありがとう」
「僕もリディには助けてもらってましたから」
二人の談笑を見つめていると、お母さんが少しだけ好奇心に満ちた笑みを浮かべて私とアルを見つめる。
「ところで、貴方達ってどういう関係なのかしら? 聞いてもいいかな?」
「お、お母さん」
昔から、こういった話が大好きな母を止めようとしたけど、ふわりとアルが私の手を引く。
その仕草にアルを見つめると、彼は笑って母に答えた。
「おばさん、少しだけリディと話をしてきていいですか? 僕、リディとその件について話したい事があるんです」
「あら? なら、私はシチューの準備でもしようかしらね。若い二人でゆっくり話してきなさいね」
「はい、ありがとうございます」
ニヤニヤとする母と、話をとんとん拍子に進めるアルに置いていかれてキョトンとしていると、彼は私の手を引いて歩き出す。
「着いてきてくれる? リディ。君に言いたい事があるんだ」
「ア、アル?」
「二人で話したい」
そう呟かれて、断ることなど出来ずに静かに頷く。
お互い、何を言うのかを薄々は分かっていながらも……この時が来たのだと胸は激しく鼓動して、心が落ち着かずに顔が熱く、朱に染まっていく。
いよいよ、私とアルの関係が変わるんだ。緊張しながらも、心はその時をずっと……望んでいた。
◇◇◇
マリア(母)side
二人が歩いていくのを見送りながら、私は瞳を潤ませる。
気づけば立派に育っているリディアを見て、寂しく。されど嬉しくもある気持ちで満たされた。
これからもずっとお母さんと呼んで欲しい、ずっと私から愛を送らせて欲しい。
気にせず甘えて欲しい……尽きない願いは沢山あれど、真に望むのは娘の幸せだけだ。
何よりも、無事に帰ってきてくれれば、私はそれでいい。
願わくは、貴方の未来は……笑顔が絶えない日々となる事を母は願います。
「おかえり、リディア」
すっかり大きくなった娘の背を見送りながら、髪を撫でる風に呟きを乗せていく。
この気持ちがずっと貴方に届いていると信じて。
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