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証明編

最終話

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「こっちだよ、リディ」

 アルに手を引かれて辿り着いたのは、村はずれの野原。特に何もない場所だけど、私とアルにとっては思い出深い場所だった。
 ここでよく遊び、かけっこをして……花が咲く時期は花冠を作ってもらった。

「さ……さて」

 今さら私とアルにも緊張が襲ってきて、気恥ずかしさから視線が泳ぐ。だけど、そっと頬を撫でる風と共にアルは口を開いた。

「リディ、ここで君と約束した事。伝えるって約束したよね?」

「う、うん」

『絶対にリディにまた会いにくるよ。その時は––––』

 過去にアルが言い残した言葉を思い出しながら、鳴り止まない鼓動を抑えるために深呼吸をする。これから彼が言う言葉を待ち望む自分を抑えながら、続く言葉を待ち続けた。

「僕は君とまた会った時に、ずっと伝えたい事があったんだ」

「教えて、アル」

「それは……君と、ずっと友達で居たい。そう言うつもりだった」

 友達……。

 高鳴った鼓動が止まったようにさえ感じた。期待しすぎていた自分が急に恥ずかしくなって、顔が熱くなって逃げ出したくなってしまう。
 だけど、アルは言葉を続けた。

「それを、伝えるのは止めて。リディには別に言いたい事ができた」

「……」

「ずっと、隣に居て欲しい。子供の頃に君と一緒に過ごした時間が忘れられない。君へ抱く想いは友達への想いなんかじゃない」

「……アル、私も……私も同じ気持ちだよ」

「好きだ。リディ」

 肯定の言葉なんて必要なかった。嬉しくて……心に突き動かされて彼に抱きついてしまう。
 あの時、私を救ってくれた彼の腕の中で、私は感涙にむせぶ気持ちを抑えて笑いかける。

「私も……アル」

 お互いに言葉はなく、口付けを交わす。
 誰も居ない中で、友達として出会った場所で……私達は恋人となった。
 今度こそ、彼は愛してくれると信じて。

 ありがとう、アル。
 私を救ってくれた、貴方と共にこれからも歩んでいきたい。

 それが、私の望む未来です。

 ふわりと揺れる風は祝福の声のように、草木のさざめきを起こす。
 見つめ合う私達は、笑い合って母の元へと帰る。友人としてでなく恋人同士として。






   ◇◇◇





 十年の月日が流れて、学園は大きく変わった。
 第三者機関が設けられ、貴族だけでなく平民達にも開けられた学園の門は多くの生徒で行き交う。
 笑顔で話し合う彼らを見ていると、広がっていた身分の差は少しずつ縮まっているように見える。


 だけど、未だにこの学園では見えない差別があるのかもしれない。
 それでも……私は二度と同じ過ちを繰り返す者が出ないように……今日も教室へと向かう。


「皆さん、席についてください」


 学園で研究を続けながら授業を行う私を、生徒達はリディア講師と呼んでくれる。
 その肩書に負けぬよう、自身の心構えはあの日から変わらずに持ち続けていくと決めていた。

 二度と、私のような生徒や、他者を追い詰める生徒を出さぬため……私は今日も左手の薬指にはまる指輪をそっと撫でて、いつものように声を出す。

「では、授業をはじめます」

 大人として、講師として。
 リディア・ディオネスとして、君たちを見守っていく。
  
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