【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか

文字の大きさ
30 / 30
証明編

後日談~届けぬ、後悔~

しおりを挟む
 グレアルフside

 二年が経った。俺の犯した罪。それを償うために拘留されていた期間だ。
 ようやく解放され、久々に訪れた実家へと戻る。

 しかし……当然、俺に帰る場所など無かった。

「お前がやった事は殺人も同様なのだ。二度と、ミレニア家へ顔を見せるな!」

 泣き崩れる母、突き放す父に屋敷を追い出されて、行く当てもなくただ歩くしかなかった。
 貴族として生まれて、今まで何不自由なく暮らしてきた、そんな俺が野に放たれて何ができる。

 澄み渡るような青空の下で、その空に似合わぬ諦念を抱きながら……崩れそうになる足をただ進める。
 行く当てはないが、止まる場所もない。
 頼ろうにも貴族家は俺と関わる事すら、忌避するだろう。

「なんだよ。どうすれば……いいんだよ」

 ただ、無力感に包まれながら瞳を潤ませていく。
 こうして、呟く言葉に返してくれる者なんていない。



 ……そう、思っていた。



「あら? どうしたんだい?」

 明るい声が聞こえ、視線を向けるとそこには女性が居た。
 歳は四十後半程だろうか、茶色の髪を後ろにまとめて屈託のない笑顔で俺へと近づく。
 衣服は土にまみれて、手も薄汚れている。それでも嫌悪を抱かなかったのは、女性の笑顔に何処か見覚えがあったからかもしれない。

「なにか困っているのかい? こんな辺境の村にあんたみたいな若い子が来るなんて。迷子かね?」

 冗談なのか、本気なのか分からない軽口を叩く女性に思わず本音がこぼれ落ちてしまう。
 それが、目の前の女性の魅力なのかもしれない。

「行く場所がない、俺は……どうやって生きていけばいいのか、分からないんだ」

「……」

 いきなりこんな事を言われて、返す言葉などあるはずもないだろう。
 沈黙で答えた女性を置いて、再び歩き出そうとした時だった。その女性は俺の手を掴み、そっと農具を持たせる。

「な、なにを……」

「どうやって生きていくなんて、決まっているじゃない。生きていくために、生きるんだよ」

「は?」

「ほら、やる事がないなら。仕事でも手伝ってよ!」

「な、ちょ……」

 押されるように、俺は女性に引かれて農地へと駆り出される。
 そこでは今まで蔑んでいた農民たちがにこやかに俺を迎え入れてくれて、仕事の方法など丁寧に教えてくれる。
 気まずさを感じながらも、土を踏みしめて汗を流す作業は……どこか心の中に固まっていた悩みを洗い流してくれるような、不思議な感覚を覚える。

「筋がいいじゃない。いい仕事ぶりだねぇ」

「い、いくら何でもお世辞だと分かるぞ」

 俺なんかよりも何倍も早く作業をする女性に言葉を返す。この農地にいる者は老若男女問わず、俺などよりも力強く、元気であった。
 蔑んでいたはずの彼らだったのに、目の前で見せてくれる屈託のない笑顔と、裏表のない言葉は俺にはとても新鮮に思えた。

「はい、仕事は終わり。これ、給金だよ」

「え……べ、別に俺はいらな……」

「何言ってるの。これが生きていくために必要な事。覚えておきなよ」

 額に汗を流し、服は泥まみれになりながら渡されたお金。
 貴族だった俺にしてみれば、あまりにも少額だったのに、今まで持ったどんな貨幣よりも重く感じた。

(俺は……こんな事も知らずに、馬鹿にしていたのか)

 抱いた気持ち。今までの行動、言動がどれだけ浅はかであったのか身に染みて分かった。彼らの働きぶりは俺が一朝一夕で真似できる事でなく、その気力は今まで見たどんな貴族よりも力強い。
 そして、貴族や平民だとか……関係なく。見ず知らずの俺を、優しく迎え入れてくれた心の広さに自分の狭量を思い知らされる。

「あんた、いい仕事ぶりだから。しばらくここで働くかい?」

「え……それは……」

 俺を迎えてくれた女性の言葉に、心が揺らぐ。

「うちの娘もあんたと同じ歳ぐらいでね。今は学園を変える? ために頑張っているんだよ」

「っ……そ、その娘さんの名前を、聞いてもいいか?」

「? リディアっていうけど。知っているかい」

 偶然なのか、必然であったのか。期せずして出会ってしまったあいつの母親。
 屈託なく、明るい笑みを向ける女性の優しさが……今はただ眩しく、謝意が芽生える。

「あの子、今も頑張っていてね。次にまた帰ってきてくれるのが楽しみなんだ」

 女性の言葉に、気付いてしまう。
 平民、貴族なんて関係なく……それぞれが持つ家庭の幸せに差異なんてない。
 なのに、俺はその幸せを壊すような行為をしていたのだ。
 
 平民だと理由を付け、下劣な行為に言い訳をして……責任からも、罪からも逃げていた。
 それがどれだけ醜い行為だったのか、今になって分かるのは……きっと遅すぎるのだろう。

「行く当てもないなら、ここで世話になるかい?」

 再度、聞かれた言葉に……もう迷う事なんてなかった。

「いえ、俺はここに居る訳にはいきません。お世話になりました。今日の経験は……俺の宝です」

 俺には……後悔しかない。リディア……君にはどれだけの謝罪をしても、きっと償えないだろう。 
 

 きっと君は俺の後悔なんて、聞きたくもないはずだ。
 だから、俺の後悔など絶対に届けない。
 ただ、二度と関わる事もなく……君の人生から消えていくことが、俺の出来るせめてもの贖罪だと信じたい。

「ありがとう……ございました……」

 下げた頭は、今日一日俺を見てくれた農民の方々、リディアの母への感謝だ。
 今まで生きてきて、初めて抱いた、純粋な感謝だった。

「また困ったら、いつでもおいでね」

「……はい!」


 送ってくれた言葉に笑顔で答える。
 単純だけど、俺を優しく迎えてくれた彼らのために……生きていきたいと思う、今は何もない、だけど……立ち止まっているよりも、小さな一歩を踏み出すだけでも違うのかもしれないと信じる。


 落ち込んでいた心は……ようやく、生き方を見つけて上を向き始められそうだ。 


 すまなかった、リディア。
 二度と届かぬ謝罪と後悔。

 この気持ちを忘れぬと心に誓い。生きていくよ。

しおりを挟む
感想 70

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(70件)

tente
2023.03.24 tente
ネタバレ含む
2023.03.25 なか

yente様。
ご感想ありがとうございます🌸
最後まで読んでくださり、嬉しいです。

グレアルフリディアの母親と出会ったことで、変わるキッカケが貰えたかもしれませんね。許されない人生を歩むかもしれませんが、前を向けただけ、良かったのかもしれません。
(*˘︶˘*).。.:*♡

これからも、リディア達も含めて幸多き人生を歩むはずです。😊
ありがとうございました!

解除
るび
2023.03.19 るび
ネタバレ含む
2023.03.19 なか

るびさん、今回も読んで頂きありがとうございます。(*˘︶˘*).。.:*♡
こちらこそ、いつもご感想頂いて励みになっております

お仕事が上手くいかない時ってありますよね💦
私も失敗して不安になる事が多いタイプですが、るびさんのご感想にお元気を頂いております。🌼.*
私の作品も、るびさんの元気になれたならとても嬉しいです!!書いて良かった。
お互いに、明日も頑張りましょう٩(ˊᗜˋ*)و♪

これからも、書きたい作品を書き続けていきます!!
次回作は今も書き溜めておりますので、また投稿した際に、読んで頂けると嬉しいです。💐
今作も、ありがとうございました。
*⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝*

解除
夢梨(ゆめり)
ネタバレ含む
2023.03.18 なか

夢梨様、こちらも最後まで読んでくださり、ありがとうございます。(*ˊᵕˋ*)੭ ੈ❤︎

泥臭く見えても、リディアのお母様達が逞しく生きる姿にグレアルフも生き方を見つけることが出来ました💕︎
彼の今後の成長に関しては、読者様のご想像にお任せするようにいたしました。
(*˘︶˘*).。.:*♡

一輪の泥中の蓮の花。
美しい表現でリディア達を表してくれて、嬉しいです。
これからも、困難の中でも逞しく、咲いていくリディア達はまさに蓮の花ですね。💐*·̩͙𓈒𓂂𓏸
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!!🌼.*

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。