黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚辺境伯爵令息

国王に呼ばれて

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アーネスト・リオ・ラムダは、ラムダ王国の王太子である。

品行方正、文武両道、皆を惹きつけるカリスマ性と、王家の色である黄金の瞳を持って産まれた、誰もが認める王子だ。


今夜は、そんな彼が立太子してから行われた夜会の中でも、最も規模が大きく、国外からの貴賓や大使も大勢やって来る重要な催しであった。

南方の諸国と共同開発していた薬が完成し、北方の大国との和平条約の結び直しが叶い、東に隣接する帝国より交易条件の緩和が提示された事による祝宴だ。
国を挙げて各国に、感謝と今後の更なる発展を約束するための大々的なパーティー!

その出端が挫かれた。

まさかの弟によって…
なぜ弾劾を?なぜ断罪を?貴族を集めた夜会の最中に?
最早、国家転覆でも狙っているのかと疑いたくなる愚かさだ。
一度はそのショックで倒れたアーネストだったが、運ばれる途中で飛び起きて会場に向かい、事態の修復に奔走した。

幸いにも、まだ本格的に始まっておらず、参加者達も下位貴族がほとんどだったため、なんとか持ち直して開会宣言をしたが、諸外国の大使方から質問が止まらない。

「デイビッドはどこだ?」

このセリフを聞く度に、アーネストの胃を針が刺さるような痛みが襲った。

南方諸国で育つ薬草の薬効を解明し、流通させたのはアーネストだ。が、そもそも見つけたのも、栽培方法を確立し、畑を広げ人材をかき集めたのはデイビッドだった。
雪害に喘ぐ北の国々に物資を届け、産業の立て直しを助けたのも、動いたのはアーネストだが、険しい岩山を切り開き安全な経路を確保したのはデイビッドだ。
帝国に新たな農法を伝え、病害に強い作物を送り、国交を強固にしたのも…交渉はアーネスト、農法の改良と、作物の研究を完成させたのはやはりデイビッドで…。

諸国の重鎮達はアーネストを讃えはするが、所詮はただの窓口。
真の功労者が誰か良く知っている。

言えない…
今夜の主役を、自国の王族と貴族が、皆して醜男だの豚だの笑い者にし、追放を宣言してしまったなんて。

(デイビッド……頼む…戻って来てくれ……)

泣きそうになりながら、国王の入場までなんとか時間を稼ぐアーネストだった。




その頃、医療棟であれこれ悩んでいたデイビッドたちの元へは、国王の使いがやってきていた。

「デイビッド・デュロック伯爵令息殿!陛下がお呼びです!お急ぎを!」

「げ!」

「げ!とは何ですか。ご令嬢の事は私が見ていますから、ほら早く行ってきて下さい!」

「さっさと行きな!!」

シモンズ医師に蹴り出され、しぶしぶ廊下を歩いていくと、兵士に守られた客間へ通された。


中へ入ると、正面に国王と宰相、サイドに両親が座っていた。

「デイビッド・デュロックが陛下にご挨拶を…」
急いで跪こうとすると、王がそれを手で止める。

「よい。どうか座ってくれ。先の騒動、息子が真に申し訳ない事をした。この場で謝らせて欲しい、すまなかった…」

「いえ!その様な事は…お気になさらず、あの程度気にもなりませんので!」

下げた頭の向こうで、王と両親が微笑んでいるのがわかる。

「流石は大国を相手に渡り歩くだけあるな。そこらの小者が敵う相手ではない。良い息子を持ったものだ。なぁデュロック?!」

「ははは!ですがちと頭に血が上り易く…」

「父の申す通りです。もっと上手く…穏便に収めることもできたのではないかと…」

「いや、誰であろうとあの馬鹿は騒いだろう。良くぞ声を上げてくれた。王家に必要なのは、過ちを犯した時に諌めてくれる存在だ。そなたのように…」

夜会が始まる前だと言うのに、国王の顔は酷く疲れていた。

「クロードと側近共は捕らえてある。どうか今一度会場に戻ってもらえんだろうか?皆がそなたを待っている。アーネストを助けてやってくれ。」

「それは…もちろん…ですがその前に、無礼を承知でお願いがございます。」

「ランドール家の令嬢のことか?」

「ご存知でしたか…今、シモンズ医師に診て頂いております。下賤な噂を広める者もいるようですが、どうか手厚い保護をお願い致します。」

「承知した。クロード達の起こした騒ぎについては、事実関係から残らず調べておくので安心するといい。そなたにもあり得ん沙汰を下したと聞いたぞ?アレの言った事は気にせず放って置けば…」

「いえ、それに付きましては、敢えてお受けしようと思っております。」

「なにっ?!」

国王は驚いてガタンと椅子を鳴らしてしまう。
ちらっとデュロック夫妻の方を見ると、穏やかに笑っていた。

「ど…どういうことだ?」

「私は、クロード殿下により、この王城への立ち入りを禁止され、王都からも追放されるとのこと。あの場にいたどの貴族も、それに賛同しておりました。ならば、本当にこの王都から離れてみようと思います。」

「それは……デュロック!子息はこう申しているが…お主はそれで良いのか?」

「ははは!息子がそうしたいなら、好きにすれば良いかと。ご安心下さい、王家との付き合いは変わらず継続致しますので。まずは市井の様子見…と言ったところでしょうな。デュロック家が去った王都がどうなるか、あの場にいた連中にはその身を持って知ってもらおうと言うことでしょう!大切な息子を貶し、笑い者にしてきてた連中には少し痛い目を見てもらわないと!ははは!」

国王を相手に愉快そうに笑う父親を見て、デイビッドは内心苦笑いをした。
(そうとう頭にきてんな…)
肝の座り方といい、気の短さといい、親子である。

「そうか…確かに、追い出した相手から恩恵だけ預かろうなどと虫の良い話は無いな…あまり混乱の出ない程度に頼みたいが…」

「そうですなぁ…どうする?デイビッド。まずは貴族用の嗜好品から質を落としつつ量を減らすというのはどうだ?」

「それでいきましょう。私とて、無辜の民の暮らしを脅かすつもりはありませんので。無論、陛下の下へは変わらずお届け致します。」

「うむ…わかった、そこは好きにすると良い…あとは、クロードの処分だが少し時間をもらいたい。野放しになどするつもりは無いが、学園にだけは通わせて構わないだろうか?」

「陛下にお任せ致します。こちらから何か罰を望むようなことはありません。ただ、二度と同じ過ちを犯さぬように…クロード殿下は王家とデュロックの交わした誓約を反故にする所でしたので。我が家が、今後も臣下として変わらぬ忠誠を尽くし続けられるよう、今一度ご配慮頂きたく存じます。」

恭しく頭を下げ、部屋から出ていったデイビッドを、国王はそっとため息をつきながら見送った。


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