将軍の宝玉

なか

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番外編 恋文

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   冬の寒さも厳しくなってきた最近は、帰宅するとそのままシェリルノーラの部屋で寛ぐことが多い。帰れない日も、遅くなる日も多々あるが、以前より一緒の時間が増えた。
   そのせいか、まだ固さはあるが、シェリルノーラも寛いだ雰囲気が増えてきたように思う。

   冬前に丸め込んでベッドを大きなものに変えたので、寝るのも基本的に一緒だ。温かさを求めて無意識にすり寄ってくるのが愛おしい。風邪も引いていないし、一石二鳥だ。

   重い軍服を脱ぎ、先に汗を流してシェリルノーラの部屋に足を向ける。暖炉に火が焼べてあり、火照った体にはやや暑いが、このくらいにしておかないとすぐにシェリルノーラの身体は冷えてしまう。


   手紙を書こうとしていて、俺が遅くなるはずが、予定より早く帰ってきたからだろう。文机には宛名だけ書かれた封筒が置いてあった。

 以前、レイノルドの家族からの見舞い対して、体調が回復したシェリルノーラが返礼したことがあった。執事のダラスに相談したらしく、お返しの品がレイノルドが持ってきたバスケットに詰められていた。

   添えられた手紙は2通。レイノルドの妻に宛てた上品な封書と、可愛らしいカードは小さな娘たちに宛てたもの。その表にはお手本のようなきれいな字で宛名が書かれていた。
 それ以降、時折レイノルドの妻とは手紙のやり取りがあるようだ。

   「手紙の邪魔をしてしまいましたね。気にせず続きをどうぞ」

   差し出された冷えた炭酸水のグラスを受け取りながらそう告げると、小さく首を振られた。

「手紙は急ぎませんので、明日書きます。せっかく旦那様が早く帰ってこられたので、あの」

「ああ、そうですね。せっかく時間ですからね」

「いえ、あの、あっ否ではなくて、あの……」

   恥ずかしがって、焦って、否定してまた恥ずかしがる。

   少しずつ畏まった態度も解れてきたが、まだ伴侶とはいえないくらいの距離感だ。
   正直伴侶らしいことを、もっとしたい。しかし、今の初々しいさが微笑ましいと思える自分がいて、あまり若くなくて良かったとも思う。
   10年くらい早く出会っていたら、こうも自制できなかっただろう。しかし、10年前のシェリルノーラはまだ9歳の子供だ。そうなると今の関係もないわけで、今が必然なのだろう。

   グラスをテーブルに置いて、ソファに座るシェリルノーラの隣に座って、その手を取る。

「手紙はよく書く方ですか?」

   指先で手の甲を撫でながら聞くと、ぴくりと力が入るがそのままにさせてくれる。

「いえ、手紙を出すような相手もいなかったので。今も何を書いたらいいか、時間がかかってしまって。
   それに、お恥ずかしい話ですが、文字を書くのが苦手で。ずっと絵本程度の文字の読み書きしか出来なくて。随分大きくなってから練習したんです」

   そういえば、もらった手紙やカードは大事に箱に入れて引き出しにしまってある。持参した私物がほとんどなく、さらに物欲のほとんどない彼にとって、それらは宝物みたいなものなのだろう。

   王宮にいた頃、家族とのやりとりはなかったのだろうか。あの父親を知ると不自然なことのように思えた。

「そうだったんですね。でも、しっかりと芯の通った、きれいな字ですよ。あなたみたいな」

   そう告げると、何も言わず固まってしまったシェリルノーラの手を、そっと引き寄せこめかみに口付ける。そのまま膝の上に抱えて腕の中に納めると、微かに唸っているが聞こえないふりをした。
   しばらくすると腕の中で力を抜いて、胸にもたれてくる。

 夕食の知らせが来るまで、そのままその温もりを堪能しながら今日1日の報告を聞いていた。

   

   例年より寒さが厳しい。
 そんな中、7日ほどの冬場の軍事演習の監督者として屋敷を空け、北の演習場に来ていた。短期間だが、指揮官や分隊長たちの指導も兼ねたもので、雪が降る時期に毎年行われている。

   演習場には軍の施設がある。指揮官の部屋は質はいいが、実用的なものしかない殺風景な部屋だった。
   数年前までは名ばかりの前将軍の趣味で、無駄に華美な装飾が貴族の離宮のような佇まいだった。しかし、軍にふさわしくないと余計なもの売りはらい、改修させたのは現将軍だった。

   使えるものは残しておいたが、そのひとつである重厚な机で報告書を読み終える。今回、若い一団を選抜してきており、その成長を確かめられて、訓練としてはそこそこ満足のいくものだった。
   後半、さらに厳しくなるのについてこれたらだがな。そのことを知らず、今頃へとへとの兵士達は温かい夕飯にありついているだろう。

   残りの報告書を待つのも手持ち無沙汰だ。ふと思いついて、机の引き出しに仕舞いっぱなしになっていた文箱を取り出す。


   声は聞こえていたが気にしないでいると、近づいてきて手元を覗き込まれる。

「……お前、手紙だと情熱的すぎない?人を殺しそうな字で、こんな」

   人を殺しそうな字とは意味不明だ。確かにうまいわけではないが、読むのに苦労させるほどではないはずだ。
   大体人の手紙を覗くとは趣味が悪い。

「黙れ。手紙なんてこんなもんじゃないのか?」

「いつもそんななわけ?」

「?初めて書くからな」

「そうだよな、お前が恋文書くとか、人生何が起こるかわかんないね」

   部下に修正を指示していた報告書を机の脇に置くと、レイノルドはそんなやつだと初めて知ったよ、うへぇと失礼なことを言いながら、遅れて食事をとるため、呆れ顔で去っていった。

   まぁ邪魔されないなら何でもいい。軍の既製品のシンプルな便箋にペンを走らせる。書き始めれば、意外と書くことがあるものだ。
   一気に書ききって満足し、封をする。今夜の定期便に乗せれば、帰る2日前には手元に届くだろう。



   その数日後、ひとり震えながら書斎で赤面するシェリルノーラの姿があった。


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