『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第132話 めぐり逢い、廻り合う

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 やがて目の前に一際大きな館が現れた。

 周りが全てテントか丸太を組んで作られた建物だというのに、その建物だけは石造りなのだ。何より入り口に物々しい格好をした門番が立っている。ここがルドルフさまの仮住まいで間違いないだろう。

 私がそのまま入ろうとすると、門番が槍を交差させて入り口を塞いでしまった。

「私はルドルフさまに用事があるの」

 凄んでみても門番たちは無言で入り口を塞ぎ続ける。

 原因は私が手に持っている短剣だ。

 門番たちが問答無用で私をねじ伏せない辺り、もしかしたらルドルフさまに何か言い含められているのかもしれない。

 さあ、どうする? と笑うルドルフさまの顔が一瞬脳裏に浮かんだ。

「この刃がルドルフさまに向けられることはありません」

「信じられません」

「……私はルドルフさまの言葉を信じて一人でやってきました。ルドルフさまは私の言葉が信じられませんか? 私の口約束が守られないとお思いですか?」

 後半の言葉は扉の向こうに居るであろうルドルフさまに向かって挑発気味に口にした。

 恐らくこの扉の向こうでルドルフさまがいつもの不敵な笑みを湛えているだろう。

 きっと届いているはずだ。

「ははは、確かに雲母が私を殺す意味は何もないからね。せいぜい私怨くらいだが……そんな理由で私に襲い掛かる君じゃないだろう?」

 私の予想通りに扉が開き、中から楽しそうなルドルフさまが姿を表す。

「君が短剣を振るう上で最も効果的な相手はそこに居るカシミールだ。やらないのかい?」

 ルドルフさまが私の背後に憮然とした表情を浮かべて立っているカシミールを顎で指し示す。

「私の力では防がれて終わりでしょうね。これはあくまで私に向けるための物です」

 その言葉でルドルフさまは私の首元に視線を向ける。それで傷の理由を察した様だった。

「なるほど、それも効果的だね。キララを人質にされれば私も困る」

 困ると言いつつそんな様子はまったく見えない。むしろこれから始まるゲームが楽しみで仕方ないという感じだ。

 ルドルフさまは軽く肩を竦めながら、

「キララ、入るといい」

 そう言ってくれた。

 私は門番の持つ槍の下を潜り抜けて館の中に入ると、スカートの裾を持ち上げて軽くカーテシーを行う。

「お招きにあずかり光栄です、ルドルフさま。この雲母・アルザルド。アルザルド王国の代表として参りました。どうかお見知りおきを」

 その瞬間――。

「貴様が代表だと!? 王国は私の物だ。私が王だ! 世迷言をぬかすなっ」

 カシミールが爆発する。先ほどの会話から気付いていたが、カシミールはずいぶんと王族であることに執着している様だ。

 それにこの話の行方如何によって彼の進退が決まるのだから気が気ではないだろう。

「狗は外で番でもしていたら」

 私はわざと軽蔑しきった視線を向け、同時に冷たく言い放った。

「私を狗と言ったか!? 無能な兄に取り入った下女の分際で!」

「事実を言って何が悪いの? あなたは何も出来ない。私がルドルフさまと話し合って何かを決めれば、その事に黙って従うしかないの。あなたは操り人形で、帝国の狗。それから……」

 これが私の一番許せない事だ。

「グラジオスの悪口は許さない。今度言えばこの刃をアンタに向ける」

 グラジオスは私の一番大切な存在。それをカシミール如きが馬鹿にするなんて絶対に許さない。

 私は殺気を込めた目でカシミールを睨みつける。

 カシミールは気圧されたのか、

「や、やってみろ」

 震える声でそう強がりを言っただけでそれ以上は何も言ってこなかった。

 私は鼻で嗤うとルドルフさまの方へ向き直る。

 彼こそ、私が抗わなければならない交渉相手なのだから。

「参りましょう」

「いいよ。是非楽しませてくれ」

 ルドルフさまが案内をするように先を行く。

 私はその後を歩いていった。







「急造だから君を迎えるのに十分な部屋とは言えないけれど、許してくれるかな?」

 などと言いつつ通された客間は多少狭いながらも十二分に豪奢で、真っ白い壁と大理石のテーブル、それに合わせて様々な調度品も全て、目も覚めるような白一色で統一されていた。

 モンターギュ砦において、私が暮らしている部屋より確実にお金がかかっているだろう。

 これが帝国の実力なのだ。しかも、ルドルフさまが自由にできる範囲内であり、帝国全てではない。帝国に国賓として招待された経験のある私は、それをよく理解していた。

「いえ、私にはもったいないくらいです」

「そうか、ならよかったよ」

 ルドルフさまは笑顔でそういうと、ぱちりと指を鳴らす。

 それを合図にメイド達が一斉に動き始め、ソファにフリルのあしらわれたシーツを敷いたり、お茶やお菓子の準備を始める。

 歓待の準備は既に整っているのだろう。

 私の歌が聞こえたと同時に始めたとしてもここまで整える事は難しい。つまり本当に私がいつ来てもいいよう準備をしていた可能性が高かった。

 まったく、何から何まで見透かされている様で嫌になる。きっと私が考えて居た可能性の一つ――カシミールの殺害も読まれているのだろう。

 とはいえ……。

 私はちらりと後ろに視線を向ける。

 そこにはカシミールが不機嫌そうな顔をして突っ立っていた。私の挑発が効いているのか、面白くもないだろうにこうしてこの場に居る。

 この点はルドルフさまの慢心に助けられたとも言えるだろうが……。

「キララ様、こちらへ」

 メイドの一人に案内され、私はビロード張りの柔らかなソファに腰かける。

 短剣は鞘に納めたまま膝の上に乗せる。私に残された最後の切り札は、いつでも切れる様にしておくべきだろう。

「じゃあキララ、君が何をするのか楽しみにしているよ」

 高さが膝位までで、縦一メートル横二メートル程度の小さなテーブルをはさんで正面のソファに座ったルドルフさまが、不敵な笑顔を浮かべている。

 こうして交渉を行うのは都合五度目になるか。一度目は戦場で人質と停戦のために、二度目は帝国で経済的国交を結ぶために、三度目は王国で交流をのためにして……ここでボタンを掛け違えてしまい、四度目は砦で戦う意志の確認。

 争う必要なんてない人のはずなのにこうして相対してしまっている。それは本当に悲しい事だった。

 ――こんな事はもう終わらせなきゃいけない。私が乱してしまった世界は、私が責任を持って調律しなきゃいけないんだ。

「ルドルフさま。私は今この状況を楽しいなんて思っていません」

 でも、と言葉をつづけながらルドルフさまの瞳を見る。

 心を見通すことが得意なルドルフさまなら分かるだろう。私が心の底から現状を悲しんでいる事が。

「帝国での時間はとても楽しかったです。本当に、夢の様な時間でした」

 あの頃に戻りたい。

 そんな事は不可能だけれど。

「できれば、私はあの頃の様な関係に戻りたいと考えて居ます」

 ルドルフさまも遠い目であの頃の時間に想いを馳せているようだった。きっと私と同じように楽しかった思い出を反芻しているのだろう。

 私達は同じものを見て居る。だけど、同じものを見続ける事はできなかった。

「それは君次第だよ、キララ」

 自分たちの望む未来のために、私達は道を分かったのだから。
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