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ガチャ
しおりを挟む「何をやっているんですか? 練習もなしに呪文なんて……」 ラピスは怒り気味に言った。
ゴブリンの死体は焼け焦げていたが、大地にしっかりと残り、その眼はアキラを睨んでいるようにも見えた。
ラピスの言葉を聞き、また自分が震えていることに気づいたアキラは、ようやく現実に意識を戻した。夕闇が迫っている。
彼は慌てて、焦げたナイフを拾い上げ、穴の空いたリュックに放り込むと、林の入り口で薪になる木片を急いで集め始めた。
足元もおぼつかない暗闇の中、アキラはベースキャンプへと走り出した。
「呪文は使うほど威力が増しますから」
ラピスにそう説明され、アキラは帰り道で兎を見つけると、呪文を試すことにした。
「ファイアーボール、当たれ!」
跳ねる兎に狙いを定め、近距離から呪文を放つ。ナイフで攻撃するよりも冷静にでき、無事に命中した。
MPがまだ少ないため、呪文を多用できない。早くレベルアップしなければ、とアキラは改めて思った。
ベースキャンプに戻ると、集めた木片を並べ、ファイアーボールを使って篝火を作り上げた。今までで一番立派な焚き火だった。
「成功だ! キャンプファイヤー、どう?」 アキラは嬉しそうにラピスに尋ねた。
「珍しい使い方ですが、成功して良かったですね」 ラピスは冷たく返事をした。まだ先ほどのことで怒っているようだ。
篝火の明かりが揺れる中、アキラは夕食をとった。ワインを残しておけばよかったと少し後悔しながら、味気ない食事を終える。
それにしても、どこにも人がいないな。
数日間荒野を歩き続けたが、人影どころか生活の気配さえ感じることはなかった。
一人でのキャンプファイヤーが孤独を際立たせる。見知らぬ場所、見知らぬ自分――生き残るために目の前のことに集中していたが、知らず知らずのうちに心は限界に達していた。
「ラピさん、ラピさん」 つい、話しかけてしまう。
「はい、どうしました?」 機械に変換された音声だが、それでも感情豊かな彼女の声に安心感を覚える。
「いや、何でもない。ありがとう」
アキラは空を仰いだ。しかし、月はまだ出ておらず、真っ暗な闇に無数の星が散りばめられているだけだった。聞こえるのは焚き火の爆ぜる音と、川や風のかすかな音だけ。
彼はぼんやりと眺めるうちに、心の奥に押し込めていた感情が堰を切ったように溢れ出し、気づけば頬に涙が伝っていた。誰も見ていないのに、知られないようにとそっと涙を拭った。
※
「アキラさん、ガチャを引きましょう!」 ラピスが突然声をかけた。
「ガチャって、何が出るんだ? 強い武器とかアイテムとか?」
「いえ、旅の仲間です。初心者限定ガチャ一回限定チケットを一枚持っていますよ」
「そうなのか?」アキラはメニューを開き、ガチャ画面を確認した。
初心者限定ガチャ 一回限定 所持チケット数:一枚
※PSRキャラクターのみ排出
大地の守護者 トール・ストーンガード 巨人族
鋼の守り手 バルド・アイアンハート ドワーフ族
狼の戦姫 セレナ・スノーファング 牙狼族
この3人のうちの1人が仲間になるらしい。「すごいね、ラピさん!」アキラは喜びを抑えきれず、歓喜の声を上げた。
アキラはガチャのコマーシャル映像を見つめた。暗闇に浮かび上がる映像は、まるで映画館のように壮大だった。
そして、覚悟を決めてガチャを引いた瞬間、眩しい光が彼を包み込み、アキラは意識を失って倒れた。
コマーシャルムービー (PV)
眩い光の中から現れたのは、狼の戦姫セレナだった。彼女の狼の咆哮は魔物たちに恐怖を与え、魔物の間を華麗に駆け抜ける。近づこうとした魔物は、牙狼の剣により音もなく崩れ落ちていく。
セレナは褐色の肌と灰色の髪を持つ少女で、狼の群れを率いるボス、フェンリル・ルナースと共に戦場を駆け抜けていた。
「アキラさん、しっかりしてください!」
ラピスが呼びかけたが、アキラは気を失ったままだった。ステータスを確認したところ、特に問題は見当たらなかったが、強い光とストレスが原因のようだ。
そういう意味では、少しばかり問題があったのかもしれない。
※※
彼女は、アキラが精神的に参っている姿を初めて目にした気がした。彼女としては、もう少しだけ一人で旅を続けてほしかったが、アキラの限界は明らかだった。
そこで、彼女はガチャが引けることを説明した。PSRの初期ガチャには前衛キャラが3種類含まれていたので、計画通りの展開だが、よりによって戦姫が出てしまった。
このキャラクターはこのゲームで最強の前衛になるはずだが、アキラは注意書きを読んでいないのだろう。
⭐︎武器と衣装が付属。ただし、初期衣装です。倉庫に入ります。キャラクターのレベル4以上で使用可能。
⭐︎能力値は初期値です。
⭐︎親愛度は1です。
⭐︎翌日の追加となります。
⭐︎排出キャラ、排出確率は詳細画面で確認してください。
ラピスは、明日説明しようと考え、初心者応援キットその4を準備した。設定が間違いなくできているか、何度も確認した。
ベッドに入った彼女は、なかなか眠ることができなかった。明け方になってようやく眠りについたが、いつの間にか、涙を流していた。
※
夜が深まる中、アキラは野外で身を横たえたまま意識を失っていた。そして、彼の足元に、その子たちが静かに届けられた。
棺のような籠を中心に、一つの行列が美しい隊列を作り、キャンプファイアの残り火を目指して進んでいた。
行列には、女性、子供、老人の姿も見受けられた。足音を立てずに静かに進む彼らは、アキラの側まで来ると籠を降ろし、代表者が棺の中からその子たちを大切に抱き上げて別れを告げた。
運搬人たちもまた、その子たちを慈しむように、そして別れを惜しむように静かに立ち尽くしていた。
やがて、彼らは決意を固め、その場を去っていった。一部の者はアキラに深々と頭を下げ、別の者は静かに「頼みますよ」と声にならない声をかけて、その場を後にした。人でも魔物でもない何者かは、一瞬で全ての姿を消し去った。
双子の月がやっと夜空に昇り、存在感を示していた。眩しい満月の光が、夜空にあるのが当然のように放たれていた。
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