アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

文字の大きさ
8 / 138

出会い

しおりを挟む

 アキラは、気を失ってから全く目を覚まさなかった。昨日の疲れも影響しているのだろう。5日目の朝を迎え、アキラは眠りから覚め、身体を伸ばしながらゆっくりと起き上がった。

 目の前の画面には「ログインしました」と表示され、続いて「5日目のギフト:初心者応援キット その4」と示された。彼は無意識に受け取りボタンをタップした。

 不思議な世界に戻ってきた彼は、自らのステータスを確認するが問題無く全快している。まずは顔でも洗おうと歩き出そうとしたが、敷布の端に小さな布の袋が置かれているのに気づいた。

「何だ?」

 小さな袋から、子犬と小さな子供の顔が覗いていた。アキラは驚き、慌てて近づいた。子供たちは血色が良く、死体ではないように見え、安堵した。

 アキラは慎重に袋を開け、その中にいた子犬と子供の全身を確認した。怪我はしていないようだった。犬は黒い毛並みで、丸い顔に小さな耳がついており、その表情は柔らかく愛らしい。

 女の子は足元まで届く飾り気のない服をまとい、褐色の肌と灰色の長い髪をしていた。その体は痩せ細っており、厳しい環境を生き抜いてきたことがわかる。

 アキラは彼女たちが何者なのか、どのような経緯でここにたどり着いたのかを考えずにはいられなかった。ただ、起こすのは可哀想に思えた。

 そこで、川で顔を洗い、寝ている彼女たちを起こさないよう静かに荷物の整理を始めた。リュックの中には、

 パン✖️3、干し肉✖️3、薬草✖️7、毒消し草✖️3、水筒✖️1、煤けたナイフ✖️1、タオル✖️1、火打石✖️1、下着✖️4

が入っていた。

 アキラは倉庫に保管してあるものを全て確認する。

 パン✖️8、干し肉✖️5、ロープ✖️1
 初心者応援キット その4✖️1
 PSR専用初期衣装・武器✖️1
 ※レベル4以降展開

「初心者応援キット その4」を開けると、中にはテント1つ、寝袋1つ、水筒(癒しの水入り)1つ、中型リュック1つ、短剣1本、下着4着、タオルが入っていた。

「豪華だな!」とアキラはリストを眺めた。



 アキラは突然、服の裾を引っ張られる感触に気づき、現実に引き戻された。目をやると、そこには目覚めたばかりの子犬が彼を見上げていた。

 その瞳には何かを訴える切実な表情が宿っている。子犬は小さな体を精一杯使ってアキラを引っ張り、少女の元へと導こうとしている。

 覗き込んだ少女の顔色は青ざめていた。

「大丈夫か?」思わず大声を上げたが、返事はない。アキラはリュックから薬草を取り出し、彼女に与えようとしたが、彼女は意識を失っていて、咥えることができなかった。

「癒しの水を飲ませましょう」ラピスの声が響く。

「そうか、そうしよう!」アキラは倉庫から水筒を取り出し、女の子を抱きかかえ、一口飲ませた。無意識のうちにその子が水を求めていたので、アキラは水筒の水をすべて飲ませた。

 子犬は心配そうに見守っていたが、彼女の血色がみるみる良くなっていくのを見て、安心したように少し離れて静かにこちらを見ている。

 次の瞬間、子犬が「ワオーン!」と狼の真似をしたような大きな鳴き声を上げた。

 その声に目を覚ました少女は、アキラに抱きかかえられていることに気づくと、一瞬で彼の手を払いのけ、飛び起きた。

「おまえ、何者?」彼女は尋ねた。アキラは、尋ねたいのは俺の方だと思いつつ、どう説明すればよいか計りかねていた。

「ラピさん、どう説明すればいい?」

「難しいですね。ただの冒険者とでも言えばいいでしょう。敵意がないことを示すのが一番です」

「ただの冒険者って、通りすがりみたいな表現だな」と会話していると、

「何独り言を言ってる!おまえ、何者?」と苛立って再度尋ねられた。どうやら彼女にはラピスとの会話が聞こえないようだ。

「ごめん、俺はアキラ。ただの冒険者だ。たまたま河原で倒れていた君たちを見つけて、助けたんだ」

 彼女は怪しんでいたが、子犬が再び「ワオーン」と鳴くと、態度が変わった。

「そうか、わかった。助けてくれてありがとう、ぐぅー」女の子はお礼を言うとともに、空腹の声を上げた。顔が真っ赤になっている。

「とりあえず、朝飯を食おう」アキラは笑って言った。

「でも……」

「大丈夫、食べ物ならある。変なものは入ってないよ。手と顔を洗っておいで」

「うん。そうする。ルナ、行くよ!」そう言うと、少女は素直に川に向かって歩き出し、子犬も黙って後ろを駆けていく。その様子はとても微笑ましい。

「彼女の体調は、大丈夫なのか?」

「栄養失調気味ですが、とりあえず大丈夫です」

「そうか、良かった」

「で、彼女たちは何者なんだ?」アキラは今のうちにラピスに尋ねた。

「PSRです。アキラが昨日引いた」

「へ?」思わず変な声を上げてしまう。

「そうは見えないな、えー」落胆しているわけではなく、理解できないという声が思わず出る。

「そうは見えないですよね。でも本当です」ラピスは冷静に答えた。

「基本は全て初期値で配られます」

「じゃあ、強くないのか?」

「基準がわかりませんが、今は強くないです」ラピスとの会話を続けたかったが、子供たちが戻ってきたので会話を切り上げた。

 川で子犬と水浴びをしたらしく、二人とも濡れていた。アキラは倉庫から新しいタオルを出して渡す。

「はい、拭きな」

「うん」受け取った少女は全身についた水滴を上手に拭き取り、子犬も同様に拭いた。

「タオル、洗ってくる。」

「後でいいよ。食事にしよう」

 アキラは倉庫からパンと干し肉を三つずつ取り出した。

「今日の一日分だ。大事に食べるんだよ」

 少女と子犬は一個ずつ配られると、すぐに食事を始めた。子犬は干し肉にかじり付き、パンには興味がないようだ。

 少女は無心で食べ続けており、一日分だと言われたのに、食べる手が止まらない。子犬は、干し肉だけを食べ、パンをセレナの前に蹴った。

「おいおい、さっきまで病気だったのに、大丈夫か?」

「病気?違う。お腹が減ってただけ」

「まあいい。食べきれない分は残しておけ」アキラは日持ちを優先して作られた硬いパンを半分ほど食べ、飽きるとリュックに残りのパンをしまった。

 アキラは少女を観察する。戦姫と同じ灰色の髪、褐色の肌だが、子供で本物かどうか疑問に思いつつも、ラピスが嘘を言うとは思えない。彼はコミュニケーションの不安を感じながら、勇気を振り絞って話し始めた。

「食べながら聞いて。俺はアキラ、冒険者だ。迷子になっている。君の名前は?」

「セレナ」パンにかじり付きながら答える。

「どうしてここに?」

「わからない」

「家族は?」

「みんな殺され、村は無くなった。記憶がはっきりしないし、体が小さくなった」短い答えで、悲しさと怒りが混じった声でセレナは語った。子犬も小さく鳴いた。

「そうか、じゃあ、しばらく一緒に行動しようか?」

「一飯一宿の恩がある。お前は弱いけど、仕方ない。付き合ってやる」口ではそう言いつつも、彼女の表情には嬉しさが滲んでいた。

「じゃあ、仲間だな」

 ステータス画面を開くと、アキラとセレナの名前が表示されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...