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アストリアとノワール 後編 ※ログイン
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アストリアの離宮に、国王ディオンが訪れることはなかった。西部の修道院にいたアストリアは、呪いの件もあり、神託によって仕方なく王の第二婦人として迎えられたが、それは形式上のものでしかなかった。
第一婦人は南公爵家のヴァルステイア家出身の強気な女性であり、男子を三人産んでおり、後継者はそのうちの誰かになる運命にあった。
酒に酔った国王が一度だけアストリアの離宮を訪れた。彼女はその訪問を受け入れ、妊娠し双子の女の子を産んだ。
しかし、国王がその一度以外にアストリアの離宮を訪れることはなく、彼女の子どもがディオン王の子であるかどうかについては、噂が流れ始めた。
アストリアは産後の体調が優れず、床に伏せることが多くなった。ある日、ノワールは至急の要件で彼女に寝室に呼ばれた。嫌な予感が胸をよぎる。執事のフェニックスは、茫然と立ち尽くしていた。
「立派になったわね、あれから三年ね」アストリアは弱々しいながらも、いつもの笑顔を見せた。
「はい、アストリア様」
「セラフィナとヴァイオレット、二人とも生まれたわ。運命に逆らうというのは、なかなかの醍醐味ね」
「おめでとうございます。無理をなさらず、育児は私たちにお任せください」
「大切なことを言うわ。あなたは生き延びて復讐を果たしなさい。この子たちを信じなさい」
ノワールが心の底に沈めた願いを、アストリアは知っていた。職業に絶望した彼女の気持ちも、理解しているのだろう。
隣には、泣き叫ぶ元気な双子の姿があった。アストリアが双子の手を優しく握ると、二人とも泣き止み、微笑んだ。
それが、ノワールにかけられた最後の言葉だった。その夜、アストリアの体調が急変し、彼女はこの世を去った。
ノワールは、その時からセラフィナとヴァイオレットを信じることを決意した。
アストリアの遺体も、西部修道院から来たというメイドの姿も、アストリアの離宮から忽然と消えた。
双子をリリィに預けたノワールは、呆然と自室に戻った。寝床に腰掛けると、心の中に浮かぶのは、三年前にベテランメイドから受けた質問への答えだった。
「私は、アストリア様のためにもっとメイドをしたかったです」
「じゃあ、その子たちのこと、よろしくね。」風通しの良い部屋に、一瞬の風が吹き抜け、彼女の優しく朗らかな声が聞こえてくるように感じた。
ノワールは漆黒のメイド服に身を包み、慣れない育児を必死にこなしていた。
生活は困窮していた。国からの支援がほとんど途絶えてしまったからだ。従業員の多くは解雇され、仕事を失っていた。
しかし、アストリアが拾ってきた人々は辞めなかった。彼らのほとんどは孤児であったが、ノワールと共に生活を支え合っていた。
「これを使え」フェニックスが金貨の入った袋を渡してきた。
やがて、困窮を聞きつけた西部修道院から、定期的に必要な物資や資金が届けられるようになった。運送してくる商会は、ネグラロサ商会だった。
「いつも運送ありがとうございます」ノワールは
感謝の言葉を伝えた。
彼女が西部修道院にいたベテランメイドの話をしたところ、「修道院にメイドなんているわけないじゃないか」と笑われてしまった。
そして、いつの間にかアストリアの死から十五年が経っていた。
※
山吹は、時雨に連絡を入れた。もちろん、山吹の隠し持っているスマホからだ。
「留守電聞いた。悪戯電話じゃないよな」
「アルカディア・クロニクルのIDを手に入れた」
「パスワードは?」
「予想はついてる。時雨の家じゃ危険だ。どこか、いい場所はないかな? それと、足のつかないPCを」
「わかった。準備して持って行く。場所は、私の隠れ家にしよう。場所は……」
山吹は温泉宿に戻り、携帯と荷物をピックアップする。ついでに温泉街の写真を撮り、SNSを更新。お土産を買うと、バイクに乗り、家路についた。
帰りに、黒神の家のポストに、お土産を投げ込んだ。彼の食べない、山吹の好きな饅頭だ。きっと、山吹が来るまで手もつけずとって置いてあるだろう。
「止めるなら、これが最後のチャンスなんだけど……」山吹は決意を固めて、再びバイクに乗った。
時雨の隠れ家は、大学や山吹のマンションから数駅の、繁華街の近くにあった。
山吹は荷物を家に置くと、軽く変装して外に出た。フードを深く被り、サングラスをかけたせいで、通行人がちらちらとこちらを見てくる。客観的に見れば、確かに怪しいかもしれない。
繁華街の名の知れた喫茶店に入り、ブレンドを一杯注文する。ありきたりな味に、高すぎる金額を払ったことを後悔しつつ、トイレに向かい、携帯を隠した。
建物の裏口から出て、時雨の隠れ家であるマンションの一室のベルを鳴らす。
「まったく、どんなところに別宅を持ってるのよ?」
「ははは、ここはね、おじいさんが作ったデザイナーズマンションなんだ」
軽く笑った後、時雨は本題に入った。
「そんなことより、準備はできてるよ。Linux PC、二重VPN、USB起動に、使い捨てのWi-Fi。これなら痕跡は残らない」
「PCの設定は整ってる。でも、相手がこちらをゲームから排除するのは簡単だ」
「問題はそこじゃない。参加資格がある以上、排除はしないと思う。あの人は基本的に公平な人だから」
「参加資格?」
「ええ、ゲームの参加者として。問題はもう一人の方、保護者ずらして困った人の方」
時雨は、山吹が恐れている事を理解しようとした。
物理的な障害なのか? 襲ってくる敵がいるのか? 違う、彼女の決意の揺らぎと彼女の保護者と会うこと、話すことだ。
二人はPCを起動し、時雨の知っているアルカディア・クロニクルのHPのアドレスを入力した。
「ね、消してないでしょ。ここがゲームの入口よ」
わかりにくい場所に表示されたログイン画面を、時雨は指さした。
第一婦人は南公爵家のヴァルステイア家出身の強気な女性であり、男子を三人産んでおり、後継者はそのうちの誰かになる運命にあった。
酒に酔った国王が一度だけアストリアの離宮を訪れた。彼女はその訪問を受け入れ、妊娠し双子の女の子を産んだ。
しかし、国王がその一度以外にアストリアの離宮を訪れることはなく、彼女の子どもがディオン王の子であるかどうかについては、噂が流れ始めた。
アストリアは産後の体調が優れず、床に伏せることが多くなった。ある日、ノワールは至急の要件で彼女に寝室に呼ばれた。嫌な予感が胸をよぎる。執事のフェニックスは、茫然と立ち尽くしていた。
「立派になったわね、あれから三年ね」アストリアは弱々しいながらも、いつもの笑顔を見せた。
「はい、アストリア様」
「セラフィナとヴァイオレット、二人とも生まれたわ。運命に逆らうというのは、なかなかの醍醐味ね」
「おめでとうございます。無理をなさらず、育児は私たちにお任せください」
「大切なことを言うわ。あなたは生き延びて復讐を果たしなさい。この子たちを信じなさい」
ノワールが心の底に沈めた願いを、アストリアは知っていた。職業に絶望した彼女の気持ちも、理解しているのだろう。
隣には、泣き叫ぶ元気な双子の姿があった。アストリアが双子の手を優しく握ると、二人とも泣き止み、微笑んだ。
それが、ノワールにかけられた最後の言葉だった。その夜、アストリアの体調が急変し、彼女はこの世を去った。
ノワールは、その時からセラフィナとヴァイオレットを信じることを決意した。
アストリアの遺体も、西部修道院から来たというメイドの姿も、アストリアの離宮から忽然と消えた。
双子をリリィに預けたノワールは、呆然と自室に戻った。寝床に腰掛けると、心の中に浮かぶのは、三年前にベテランメイドから受けた質問への答えだった。
「私は、アストリア様のためにもっとメイドをしたかったです」
「じゃあ、その子たちのこと、よろしくね。」風通しの良い部屋に、一瞬の風が吹き抜け、彼女の優しく朗らかな声が聞こえてくるように感じた。
ノワールは漆黒のメイド服に身を包み、慣れない育児を必死にこなしていた。
生活は困窮していた。国からの支援がほとんど途絶えてしまったからだ。従業員の多くは解雇され、仕事を失っていた。
しかし、アストリアが拾ってきた人々は辞めなかった。彼らのほとんどは孤児であったが、ノワールと共に生活を支え合っていた。
「これを使え」フェニックスが金貨の入った袋を渡してきた。
やがて、困窮を聞きつけた西部修道院から、定期的に必要な物資や資金が届けられるようになった。運送してくる商会は、ネグラロサ商会だった。
「いつも運送ありがとうございます」ノワールは
感謝の言葉を伝えた。
彼女が西部修道院にいたベテランメイドの話をしたところ、「修道院にメイドなんているわけないじゃないか」と笑われてしまった。
そして、いつの間にかアストリアの死から十五年が経っていた。
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山吹は、時雨に連絡を入れた。もちろん、山吹の隠し持っているスマホからだ。
「留守電聞いた。悪戯電話じゃないよな」
「アルカディア・クロニクルのIDを手に入れた」
「パスワードは?」
「予想はついてる。時雨の家じゃ危険だ。どこか、いい場所はないかな? それと、足のつかないPCを」
「わかった。準備して持って行く。場所は、私の隠れ家にしよう。場所は……」
山吹は温泉宿に戻り、携帯と荷物をピックアップする。ついでに温泉街の写真を撮り、SNSを更新。お土産を買うと、バイクに乗り、家路についた。
帰りに、黒神の家のポストに、お土産を投げ込んだ。彼の食べない、山吹の好きな饅頭だ。きっと、山吹が来るまで手もつけずとって置いてあるだろう。
「止めるなら、これが最後のチャンスなんだけど……」山吹は決意を固めて、再びバイクに乗った。
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山吹は荷物を家に置くと、軽く変装して外に出た。フードを深く被り、サングラスをかけたせいで、通行人がちらちらとこちらを見てくる。客観的に見れば、確かに怪しいかもしれない。
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建物の裏口から出て、時雨の隠れ家であるマンションの一室のベルを鳴らす。
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「ははは、ここはね、おじいさんが作ったデザイナーズマンションなんだ」
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