アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

文字の大きさ
69 / 137

アストリアとノワール 後編 ※ログイン

しおりを挟む
 アストリアの離宮に、国王ディオンが訪れることはなかった。西部の修道院にいたアストリアは、呪いの件もあり、神託によって仕方なく王の第二婦人として迎えられたが、それは形式上のものでしかなかった。

 第一婦人は南公爵家のヴァルステイア家出身の強気な女性であり、男子を三人産んでおり、後継者はそのうちの誰かになる運命にあった。

 酒に酔った国王が一度だけアストリアの離宮を訪れた。彼女はその訪問を受け入れ、妊娠し双子の女の子を産んだ。

 しかし、国王がその一度以外にアストリアの離宮を訪れることはなく、彼女の子どもがディオン王の子であるかどうかについては、噂が流れ始めた。

 アストリアは産後の体調が優れず、床に伏せることが多くなった。ある日、ノワールは至急の要件で彼女に寝室に呼ばれた。嫌な予感が胸をよぎる。執事のフェニックスは、茫然と立ち尽くしていた。

「立派になったわね、あれから三年ね」アストリアは弱々しいながらも、いつもの笑顔を見せた。

「はい、アストリア様」
「セラフィナとヴァイオレット、二人とも生まれたわ。運命に逆らうというのは、なかなかの醍醐味ね」

「おめでとうございます。無理をなさらず、育児は私たちにお任せください」

「大切なことを言うわ。あなたは生き延びて復讐を果たしなさい。この子たちを信じなさい」

 ノワールが心の底に沈めた願いを、アストリアは知っていた。職業に絶望した彼女の気持ちも、理解しているのだろう。

 隣には、泣き叫ぶ元気な双子の姿があった。アストリアが双子の手を優しく握ると、二人とも泣き止み、微笑んだ。

 それが、ノワールにかけられた最後の言葉だった。その夜、アストリアの体調が急変し、彼女はこの世を去った。

 ノワールは、その時からセラフィナとヴァイオレットを信じることを決意した。

 アストリアの遺体も、西部修道院から来たというメイドの姿も、アストリアの離宮から忽然と消えた。

 双子をリリィに預けたノワールは、呆然と自室に戻った。寝床に腰掛けると、心の中に浮かぶのは、三年前にベテランメイドから受けた質問への答えだった。

「私は、アストリア様のためにもっとメイドをしたかったです」

「じゃあ、その子たちのこと、よろしくね。」風通しの良い部屋に、一瞬の風が吹き抜け、彼女の優しく朗らかな声が聞こえてくるように感じた。

 ノワールは漆黒のメイド服に身を包み、慣れない育児を必死にこなしていた。

 生活は困窮していた。国からの支援がほとんど途絶えてしまったからだ。従業員の多くは解雇され、仕事を失っていた。

 しかし、アストリアが拾ってきた人々は辞めなかった。彼らのほとんどは孤児であったが、ノワールと共に生活を支え合っていた。

「これを使え」フェニックスが金貨の入った袋を渡してきた。

 やがて、困窮を聞きつけた西部修道院から、定期的に必要な物資や資金が届けられるようになった。運送してくる商会は、ネグラロサ商会だった。

「いつも運送ありがとうございます」ノワールは
感謝の言葉を伝えた。 

 彼女が西部修道院にいたベテランメイドの話をしたところ、「修道院にメイドなんているわけないじゃないか」と笑われてしまった。

そして、いつの間にかアストリアの死から十五年が経っていた。


 山吹は、時雨に連絡を入れた。もちろん、山吹の隠し持っているスマホからだ。

「留守電聞いた。悪戯電話じゃないよな」
「アルカディア・クロニクルのIDを手に入れた」
「パスワードは?」
「予想はついてる。時雨の家じゃ危険だ。どこか、いい場所はないかな? それと、足のつかないPCを」
「わかった。準備して持って行く。場所は、私の隠れ家にしよう。場所は……」

 山吹は温泉宿に戻り、携帯と荷物をピックアップする。ついでに温泉街の写真を撮り、SNSを更新。お土産を買うと、バイクに乗り、家路についた。

 帰りに、黒神の家のポストに、お土産を投げ込んだ。彼の食べない、山吹の好きな饅頭だ。きっと、山吹が来るまで手もつけずとって置いてあるだろう。

「止めるなら、これが最後のチャンスなんだけど……」山吹は決意を固めて、再びバイクに乗った。

 時雨の隠れ家は、大学や山吹のマンションから数駅の、繁華街の近くにあった。

 山吹は荷物を家に置くと、軽く変装して外に出た。フードを深く被り、サングラスをかけたせいで、通行人がちらちらとこちらを見てくる。客観的に見れば、確かに怪しいかもしれない。

 繁華街の名の知れた喫茶店に入り、ブレンドを一杯注文する。ありきたりな味に、高すぎる金額を払ったことを後悔しつつ、トイレに向かい、携帯を隠した。

 建物の裏口から出て、時雨の隠れ家であるマンションの一室のベルを鳴らす。

「まったく、どんなところに別宅を持ってるのよ?」
「ははは、ここはね、おじいさんが作ったデザイナーズマンションなんだ」

 軽く笑った後、時雨は本題に入った。

「そんなことより、準備はできてるよ。Linux PC、二重VPN、USB起動に、使い捨てのWi-Fi。これなら痕跡は残らない」

「PCの設定は整ってる。でも、相手がこちらをゲームから排除するのは簡単だ」

「問題はそこじゃない。参加資格がある以上、排除はしないと思う。あの人は基本的に公平な人だから」

「参加資格?」

「ええ、ゲームの参加者として。問題はもう一人の方、保護者ずらして困った人の方」

 時雨は、山吹が恐れている事を理解しようとした。

 物理的な障害なのか? 襲ってくる敵がいるのか? 違う、彼女の決意の揺らぎと彼女の保護者と会うこと、話すことだ。

 二人はPCを起動し、時雨の知っているアルカディア・クロニクルのHPのアドレスを入力した。

「ね、消してないでしょ。ここがゲームの入口よ」

 わかりにくい場所に表示されたログイン画面を、時雨は指さした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...