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帰路
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「アキラさん、もう大丈夫ですか?」
ハートフェルトとケイオスが、心配そうに声をかけてくる。
「ええ、お待たせしました。それでは、向かいましょう」
側道の入り口は雑草に覆われていたが、一歩踏み込めば、整備された道が続いていた。馬車でも十分に通れる広さだ。
「アキラさん、新しい車輪の跡があります」
ケイオスが地面を見つめる。土の上に、つい最近つけられたばかりの轍がくっきりと刻まれていた。
「警戒しよう。マップ機能には反応なしだ。」
「エローロケーションでも、異常は感知していません」
「……こちらの目が届かないだけで、何かが潜んでいる可能性もある。慎重に、目視で確認しながら進もう」
やがて川が見えてくると、道は分岐していた。倉庫のある側へと続く道へ、車輪の跡が向かっている。それを見て、アキラの中に不確かな不安がよぎる。
桟橋に着くと、アキラは空間から荷物用の船を取り出した。大型のボートだ。
「ばしゃん!」
水飛沫を上げて、船が船着場に姿を現す。突然の光景に、ハートフェルトやケイオスが目を丸くする。
家畜を載せようとするが、タラップにうまく誘導できずに手こずっていた。
「シュルシュル、パチン」
ノワールが鞭で地面を叩くと、牛も鶏も慌てて駆け上がっていく。
「アキラさん、船を動かす魔道具もあったはずです」
ノクスが思い出したように言う。
アキラは目星をつけて魔道具を取り出し、船の操作盤に取り付けた。
「うーん、どうすれば動くのかな?」
「ここに魔法石を入れれば、起動します」
ノクスは使った経験があるようで、自信ありげに説明する。
「魔法石はここに置いておく。必要になったら使ってくれ」
「任せて!」
「よし。じゃあ僕が護衛、ノクスが操縦、ノワールは動物の管理を担当する。急いでここから離れよう」
「はい!」
ハートフェルトやライオスたちと簡単な別れの挨拶を交わし、船はゆっくりと出航した。激流の川を遡るように、船は少しずつ上流へと進んでいく。水しぶきがあがり、冷たい飛沫が肌を打つ。
「マップに人の反応が出た」
アキラが目を細める。魔法を準備するが、相手は遠くからこちらを眺めているだけで、近づいてくる様子はない。全員が無言で息を呑んだ。
両側を切り立つ岩山に囲まれながら、船はさらに川をさかのぼっていく。やがて、鬱蒼とした森が現れた。まるで魔物が棲む密林のようだ。
木々の隙間から差し込む日差しが、暗く沈んだ森の中にまだらな光を落とす。
その光の揺らめきを見つめながら、アキラの心は、なぜか静かに落ち着いていた。
※※※
「ラピさん、現れないな……ラピさーん!」
アキラは相談したいことがあって声を張り上げていたが――その頃、ラピスは怒りを顔に浮かべながら、必死に作業をしていた。
「まったく、何なのよ……! 武器も衣装も、まともなものが一つもないじゃない!」
そう――それはヴァイオレットたちの専用武器のことだった。
「カード化するなら、専用武器付きが前提でしょ? 作っておかないと駄目じゃない!」
もちろん、装備自体は“作ってあった”。けれど――そのデザインは、あまりにも残念すぎたのだ。このままでは、彼女たちが可哀想だ。
ラピスは、特殊カードが送り込まれた件についても、すでに赤目博士に連絡をとっていた。
だが、その返答はあっさりしていた。
「翠の遺言の一つだ」と――それだけ。
「でも、たった6枚のカード分とはいえ……武器と衣装を新たに作るのが、どれだけ大変か……!」
それでもラピは、ふと口元を緩める。
「きっと碧は、“大変だって文句言いながらも、ちゃんと彼女たちに似合うものを作ってくれる”って――翠が言ってたわ。ほんと、友達のことよく分かってるのね……」
「……友達、か」
仕方ないわね。
――最期には、手すらまともに動かなくなっていた翠。
それでも彼女は、言葉を紡ぎ続けていた。小さな川が何本も合流し、やがて大河となるような、重層的な物語を。
その物語に、色を与え、形を与えるのが――私の役目だった。
ラピスは、泣きそうになるのをぐっと堪えて、ただ黙々と、懸命に作業を続けていた。
※
「もう少しだけ、成長しましょうか?」
アキラはふと思い出したように、ノワールに声をかけた。
「はい。これからのためにも」
小さなメイドは決意を新たにして答えた。
「それじゃあ、岸につけるね」
ノクスが船を岸に近づける。遠くの対岸から監視の魔物がこちらを見ているのが見えた。恐れなのか、怒りなのか、その感情までは読み取れなかった。
「ノクス、ちょっと見張っていてくれないか?」
アキラはノワールを連れて、西南の森に降り立った。足元がびしゃりと濡れ、水が跳ねた。
「どうしようかな。これでいいか?」
アキラはマップ機能で魔物の位置を確認し、近くに魔蜘の巣を発見した。火魔法で巣を焼き払うと、数匹の蜘蛛が足場を失い、落ちてきた。
ぴゅっと、鞭が振るわれると、蜘蛛たちは空中で鞭に当たり、既に死んでいるものや、耐久が高くて逃げてしまったものもいたが、ノワールは2匹を倒すことができた。
ポイズンスパイダーを4匹倒しました。
経験値 14p(ノワール 10p)を獲得しました。金 100ゴールドを獲得しました。
ノワールはレベルが4に上がりました。
ジョブを選択可能です。スキルを選択可能です。
ノワール
• レベル: 4
• HP: 28/28
• MP: 10/10
• EXP: 51/80
スキル: 5p
ノワールにも、神の声が響いた。それは、エリスの使いであるラピスの声だった。
「鞭使いを!」
「よく考えなさい。他の職業も選べますよ。鞭使いは初級のジョブです。ほら、魔法剣士とか、賢者とか?」
「いえ、鞭使いで!」
ノワールは頑固に答えた。心に決めている何かがあるようだった。
「……」
静かな時間が流れた。アキラがステータスを確認すると、ノワールのジョブが「鞭使い」に変更されていた。
「決まったようだね!」
アキラは微笑み、続けた。
「ノワールさんに、プレゼントがあります。これはエリス様からのものです。どうぞ、受け取って――あれ、無くなってる?」
ラピスの作っていたのは、……
ハートフェルトとケイオスが、心配そうに声をかけてくる。
「ええ、お待たせしました。それでは、向かいましょう」
側道の入り口は雑草に覆われていたが、一歩踏み込めば、整備された道が続いていた。馬車でも十分に通れる広さだ。
「アキラさん、新しい車輪の跡があります」
ケイオスが地面を見つめる。土の上に、つい最近つけられたばかりの轍がくっきりと刻まれていた。
「警戒しよう。マップ機能には反応なしだ。」
「エローロケーションでも、異常は感知していません」
「……こちらの目が届かないだけで、何かが潜んでいる可能性もある。慎重に、目視で確認しながら進もう」
やがて川が見えてくると、道は分岐していた。倉庫のある側へと続く道へ、車輪の跡が向かっている。それを見て、アキラの中に不確かな不安がよぎる。
桟橋に着くと、アキラは空間から荷物用の船を取り出した。大型のボートだ。
「ばしゃん!」
水飛沫を上げて、船が船着場に姿を現す。突然の光景に、ハートフェルトやケイオスが目を丸くする。
家畜を載せようとするが、タラップにうまく誘導できずに手こずっていた。
「シュルシュル、パチン」
ノワールが鞭で地面を叩くと、牛も鶏も慌てて駆け上がっていく。
「アキラさん、船を動かす魔道具もあったはずです」
ノクスが思い出したように言う。
アキラは目星をつけて魔道具を取り出し、船の操作盤に取り付けた。
「うーん、どうすれば動くのかな?」
「ここに魔法石を入れれば、起動します」
ノクスは使った経験があるようで、自信ありげに説明する。
「魔法石はここに置いておく。必要になったら使ってくれ」
「任せて!」
「よし。じゃあ僕が護衛、ノクスが操縦、ノワールは動物の管理を担当する。急いでここから離れよう」
「はい!」
ハートフェルトやライオスたちと簡単な別れの挨拶を交わし、船はゆっくりと出航した。激流の川を遡るように、船は少しずつ上流へと進んでいく。水しぶきがあがり、冷たい飛沫が肌を打つ。
「マップに人の反応が出た」
アキラが目を細める。魔法を準備するが、相手は遠くからこちらを眺めているだけで、近づいてくる様子はない。全員が無言で息を呑んだ。
両側を切り立つ岩山に囲まれながら、船はさらに川をさかのぼっていく。やがて、鬱蒼とした森が現れた。まるで魔物が棲む密林のようだ。
木々の隙間から差し込む日差しが、暗く沈んだ森の中にまだらな光を落とす。
その光の揺らめきを見つめながら、アキラの心は、なぜか静かに落ち着いていた。
※※※
「ラピさん、現れないな……ラピさーん!」
アキラは相談したいことがあって声を張り上げていたが――その頃、ラピスは怒りを顔に浮かべながら、必死に作業をしていた。
「まったく、何なのよ……! 武器も衣装も、まともなものが一つもないじゃない!」
そう――それはヴァイオレットたちの専用武器のことだった。
「カード化するなら、専用武器付きが前提でしょ? 作っておかないと駄目じゃない!」
もちろん、装備自体は“作ってあった”。けれど――そのデザインは、あまりにも残念すぎたのだ。このままでは、彼女たちが可哀想だ。
ラピスは、特殊カードが送り込まれた件についても、すでに赤目博士に連絡をとっていた。
だが、その返答はあっさりしていた。
「翠の遺言の一つだ」と――それだけ。
「でも、たった6枚のカード分とはいえ……武器と衣装を新たに作るのが、どれだけ大変か……!」
それでもラピは、ふと口元を緩める。
「きっと碧は、“大変だって文句言いながらも、ちゃんと彼女たちに似合うものを作ってくれる”って――翠が言ってたわ。ほんと、友達のことよく分かってるのね……」
「……友達、か」
仕方ないわね。
――最期には、手すらまともに動かなくなっていた翠。
それでも彼女は、言葉を紡ぎ続けていた。小さな川が何本も合流し、やがて大河となるような、重層的な物語を。
その物語に、色を与え、形を与えるのが――私の役目だった。
ラピスは、泣きそうになるのをぐっと堪えて、ただ黙々と、懸命に作業を続けていた。
※
「もう少しだけ、成長しましょうか?」
アキラはふと思い出したように、ノワールに声をかけた。
「はい。これからのためにも」
小さなメイドは決意を新たにして答えた。
「それじゃあ、岸につけるね」
ノクスが船を岸に近づける。遠くの対岸から監視の魔物がこちらを見ているのが見えた。恐れなのか、怒りなのか、その感情までは読み取れなかった。
「ノクス、ちょっと見張っていてくれないか?」
アキラはノワールを連れて、西南の森に降り立った。足元がびしゃりと濡れ、水が跳ねた。
「どうしようかな。これでいいか?」
アキラはマップ機能で魔物の位置を確認し、近くに魔蜘の巣を発見した。火魔法で巣を焼き払うと、数匹の蜘蛛が足場を失い、落ちてきた。
ぴゅっと、鞭が振るわれると、蜘蛛たちは空中で鞭に当たり、既に死んでいるものや、耐久が高くて逃げてしまったものもいたが、ノワールは2匹を倒すことができた。
ポイズンスパイダーを4匹倒しました。
経験値 14p(ノワール 10p)を獲得しました。金 100ゴールドを獲得しました。
ノワールはレベルが4に上がりました。
ジョブを選択可能です。スキルを選択可能です。
ノワール
• レベル: 4
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• EXP: 51/80
スキル: 5p
ノワールにも、神の声が響いた。それは、エリスの使いであるラピスの声だった。
「鞭使いを!」
「よく考えなさい。他の職業も選べますよ。鞭使いは初級のジョブです。ほら、魔法剣士とか、賢者とか?」
「いえ、鞭使いで!」
ノワールは頑固に答えた。心に決めている何かがあるようだった。
「……」
静かな時間が流れた。アキラがステータスを確認すると、ノワールのジョブが「鞭使い」に変更されていた。
「決まったようだね!」
アキラは微笑み、続けた。
「ノワールさんに、プレゼントがあります。これはエリス様からのものです。どうぞ、受け取って――あれ、無くなってる?」
ラピスの作っていたのは、……
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