アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

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峠の休憩所 オークたちの会話

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 ルーカス達が、峠の休憩所に着くと、王国騎士団の残留部隊がキャンプをしていた。冒険者達の姿を見て、団員達にざわめきが起こった。

「ルーカス殿、どうなされましたか?」団員の一人が尋ねた。
「オークの大群に、作戦本部を強襲されました。オタル・ギルド長も重体です。あちらに。」
「なんだと! 作戦本部は、この近くだろう。どうしますか? ヤハタ部隊長」団員が指示を仰ぐ。部隊長は、温厚そうな初老の男であった。

「団員全員、魔物襲撃に備えて戦闘配備をしろ。周辺警戒を実施、交代で仮眠。直ちにかかれ! それと、冒険者全員に聞き取りをしろ。セーヴァスに早馬をとばせ!」

 部隊長はすぐに指示を出し、小隊長以下、行動に移った。
「話を聞かせてもらえますかな、ルーカス殿」

 温厚な男の目が、わずかに光った。
「それより、先に部隊をアリーシア村に派遣してもらえませんか?」
「なぜ?」ヤハタは驚いたように聞いた。
「アリーシア村の冒険者にも危機が……情報も、違うことを伝えないと」

「それと我々に関係はないでしょう。今回の魔物退治はギルドの仕事のはず。団長、副団長からの指示と違うことは、私にはできません。ここには二十名しか残っていません。他はセーヴァスにいますからね。アリーシア村には、あなたが向かえばどうですか? この中では一番強そうですしね、副ギルド長。馬を一頭お貸ししましょう。それくらいなら、私の権限でなんとかなりますよ」

「我々は、王国のために——」
「はっはっは。面白い冗談だ。金のためですよね」

 ヤハタのような庶民上がりの部隊長クラスには、今のギルドについて思うところがあった。
「……とりあえず、馬を一頭借りる」
 ルーカスは、言い出してしまった以上、アリーシア村に行く羽目になった。仕方ない。だが、危険すぎる。
 夜道を駆けるのは無謀だ。獣道も多く、視界も狭い。万が一、襲撃でも受ければ村に辿り着けなくなる。今は体力の温存と情報整理が先だ。
 時間を潰して、朝にでも着くように行こう。



 アキラたちが峠の休憩所にたどり着くと、ハートフェルトたちとの合流を果たす前に、王国騎士団の警戒に捕まった。冒険者全員に聞き取りをしているとのことで、彼らは幕屋へと連れていかれた。
「またか。三度目だな……」
 アキラは、ため息混じりに呟いた。鬱陶しさを隠せなかった。

 やがて、部隊長のヤハタが幕屋に入ってきた。部下にお茶を出すように指示して下がらせると、自ら椅子を指して座るよう促した。
「少し話を聞きたいだけだ。時間を取らせて悪いな、坊主」

 さっきまでの厳しい表情とは打って変わって、優しげな笑みを浮かべていた。
「ここには俺一人だ。事情を聞くだけ。安心してくれ。——お前たちが、冒険者を助けたそうだな?」
「……」
「冒険者どもにはもう聞き取りを済ませたよ。あいつら、お前たちを置いて逃げたらしいな」

 アキラは、隠し通せないと悟ってうなずいた。
「……そうですね」
「ありがとな。強いんだな、お前たち」

 ヤハタの声には、敬意すらにじんでいた。
「そういえば、お前は——エリス様の使徒なんだって? この騎士団でも噂になってるぞ」
「使徒かどうかは、わかりませんが……」

 アキラはまた嘲笑されるのではと、わずかに身構えた。
「そんな顔するな。嘘だなんて言ってないさ。よくある話だ」
「そうなんですか?」
「ああ。何人もいるぞ。有名な話だが、アストリア様はアイリス神とよく話していらした。俺は見たことがある。……神と話すというより、友人と語らうような雰囲気だったな」

 まるで、アキラとラピスのように。思わず、アキラの顔が綻ぶ。
「ところで、改めて名前を聞いてもいいか? 名前で呼んだ方が話しやすいからな。俺はヤハタ、部隊長だ。昔は冒険者をやってた。ずいぶん前の話だけどな」

「アキラです」
「ハイエルフ、ノーザンの娘。魔法戦士ノクス!」
 ノクスの名乗りは、決めポーズ付きだった。思わず全員が笑った。
「ノワ」
 小さな声で、下を向いたまま答えた。

「ノワ……ノワールか。うん、いい名前だ。ノワールと言えば、黒髪ロングの北国美人。アストリア家のメイド長で、都じゃ誰でも知ってる有名人だ。将来は可愛くなれる名前だな」
「でも、ヴァイオレット様を誘拐したって……」
「はっはっは! そんな話、誰が信じるか。あの跳ねっ返りお嬢様の、いつもの我儘さ。だがな、その割に、王子たちの動きが……おかしいんだよ」

 ヤハタの目が、わずかに鋭さを帯びた。
「どこが?」
 ノワが、つい聞き返してしまう。
「ははは。おちびちゃん、王子様が好きなのか?」
 茶化されたノワは、ぶんぶんと首を振った。
「違うのか? 安心したよ」

「それで、王子がおかしいって、どういうことなんですか?」
 ノクスが真顔で尋ねた、そのとき——。
 幕屋に、お茶を運んできた部下が戻ってきた。

「早いな。——時間を取らせたな。話はここまでだ」
 ヤハタはすっと席を立ち、アキラたちを幕屋から退がらせた。
「良い旅を。エリス神の祝福を……我らにも」

 その呟きは、小さく、それでいて心に残る声だった。

※※

「それで、狼娘は?」
 オークのドルムは、アリーシア村の廃墟で、アキラたちから逃れてきた部下に問いかけた。
「いませんでした。……もし、いたのなら、生きて戻れた者はおりません」
「そうか。だが、魔術師とエルフはいたのだな?」
「はい。多くの仲間がやられました。バルム様も、我々を助けようとして、重傷です」
「……そうか。バルムを連れて、しばらく森の奥で体を休めろ。ザルム、食料を渡してやれ」

 アリーシア村では、人間の襲撃を退けたことで、オークたちは一時歓喜に沸いた。しかし、司令部が襲撃され、バルムの部隊がほぼ全滅したという報せが届くと、村の喧騒は水を打ったように静まり返った。

 その時、森で冒険者と戦っていたのは、工事作業のために多くのオークを集めてきたザルムの部隊だった。彼は命じられていた撤退を無視し、残っていたのだ。
「ザルム、奴らはこっちに向かっているのか?」
「いえ、引き上げました」
「そうか……ならば今のうちに次の戦いの準備だ。まずはオーガとの交渉だな。冒険者どもの装備や道具は、奴らとの良い取引材料になるだろう」
「そうしましょう。ところで、落とし穴や森で捕えた者が思ったより多いですが……どうします?」
「ふん、それなら俺に使い道がある」

 そう言って、ドルムは話を続けた。
「しかし、見事なほどに策にかかったな。『狼娘も同じ策で倒せるんじゃないか』と、仲間たちが騒いでいるが……どう思う?」
「やらせてみてもいいでしょう。私は遠慮しておきます。狼娘が目の前に現れたら……逃げないオークがどれだけいますかね?」
「ほとんど、腰抜かして逃げるだろうな」
「では、人質作戦は?」

「……ガルムの最期を俺は見ている。ああいう手は、かえって奴を本気にさせるだけだ。楽に死にたいなら、やめとくことだな」
「夜行性なのは同じ。隠れても音で気づかれるし、泳ぎも得意……爆薬や黒油は?」
「すぐに匂いで策と見抜かれるだろう」
「だよな……。今回は、いなくて良かった」
「いたら、私は真っ先に逃げます」二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
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