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蠱惑の魔剣
従属の夜会
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遠征の集合場所で、ノルドは異変に気づいた。
一つは――あの仲良しグループのロッカたちに、はっきりとした亀裂が走っていることだった。男たちと女たちで、目を合わせようともしない。あからさまに、空気が凍っていた。
確かに、仲の悪い冒険者グループなど珍しくない。高ランクの者たちには、探索中も必要最低限しか話さず、地上に戻った瞬間に解散するような者もいる。だが、彼らはプロだ。精神的にも戦術的にも、独立している。
ロッカたちは違う。スキルを得たばかりの若い連中で、寄り添いながら、夢や不安を分かち合ってきた――そのはずだった。
「……まずいわね」
隣でカリスが低く呟いた。やはり、彼女も気づいている。
ノルドは内心で頭を抱えた。こういう亀裂が一番危ない。だが、今さら引き返すわけにもいかない。せめて、戦闘だけでも避けよう――そう決めていたのに。
「行くぞ」
ラゼル王子は、今日も一人で魔物の群れに突っ込んでいく。
ノルドは神経をすり減らしながら、後を追った。目指すのは地下二階――前回、蜘蛛が巣を張っていた旧採掘場だ。今回も、あの蜘蛛が戻っているかもしれない。
「ラゼル様、今回は戦闘を避けて、採掘場に直行しましょう。例の蜘蛛が……まだいるかもしれません」
フィオナの声が届いた。
王子は振り返り、ふっと笑った。
「ああ、そうだな。他の者、手を出すなよ。――特にお前な」
ラゼルは、ノルドを指さした。からかいとも、警告とも取れる口調に、ノルドは返答に迷い、ただ黙って頷くしかなかった。
だが幸いなことに、大蜘蛛は戻っていなかった。頭のいい魔物なのだろう。採掘は、順調に終わった。
第三層に移動し、ノルドはいつものように夕食の準備を始めた。フィオナやカリスたちがテントの設営を終わらせてくれる。
「お待たせしました! どうぞ召し上がってください!」
迷宮亭の特製ダレが肉に絡み、香ばしい香りが周囲に広がる。
「わぁぃ!」「美味しそう!」
ロッカ隊の女性陣――シルヴィアとリーヴァの目が輝いた。特にリーヴァは、前回は体調を崩していたため、これが初めてのノルドの料理だった。
「ずっと噂になってたから、楽しみにしてたのよ!」
二つのパーティによって、料理はあっという間に片付けられた。
「おい、荷運び。ケチケチすんな。おかわりだ。ワインももっと持ってこい」
ラゼルの言葉が、空気を断ち切るように飛んでくる。
――けちってなんか、いない。
ノルドは皆の食事をきっちり用意していた。むしろ自分の分まで綺麗になくなっている。
(俺は居酒屋の店員じゃないんだが……)
口答えする気力もなく、ノルドは新たな食材を取り出し、小川へと向かった。
「ノルド、ナッツ類で十分よ。あとは任せて。あなた、少し休んで」
カリスがそっと近づき、干し肉とナッツを受け取ってくれる。
振り返ると、テーブルでは既に酒宴が始まっていた。ラゼル王子を中心に、女性陣が笑い声を交わしている。
――ロッカとダミアーノの姿が、見当たらない。
「どこに行ったんだ?」
ノルドは辺りを見回す。数組の冒険者たちの輪にも、彼らはいない。
「ああ……あんなところに」
小高い丘の上に、二人の姿があった。ワインをラッパ飲みしながら、ちらちらとこちらを伺っている。
ノルドは足を向けた。
「こんなところで、何をしてるんですか?」
「……ノルドか」
ロッカは暗い顔で振り返った。
「何か、問題がありましたか?」
二人は目を見合わせ、言いにくそうに口を開いた。
「お前が悪いわけじゃない。むしろ感謝してる……」
ダミアーノの言葉に、ロッカが続く。
「けどな。今後の方針で、パーティが揉めた。あの王子様と、このまま同行するかどうかで……」
「俺たちも馬鹿じゃない。噂も聞いてるし、現実も見てる。だが……説明できない不安がある。あの人と一緒にいれば、金は貯まる。サン=マリエルに戻れるのも早くなる。けど……」
「……何か、良くないことが起きる気がして」
ロッカは、自分の勘を信じて、撤退を主張した。だが、女性陣が猛反発した。
「『じゃあ二人でも行く』って、シルヴィアが言い出したんだ」
「なあ、ロッカの話を途中で遮るなんて、あいつ初めてだったよな」
「……ああ」
結局、心配になって、彼らも同行を選んだ。選択肢などなかったのだ。
ノルドは自分のテントに戻り、深いため息をつく。小さなテーブルに、ようやく自分の夕食を並べる。
「こっちのほうが落ち着くだろ」
ヴァルが隣でこくりと頷いた。
待ちかねたように、妖精ビュアンがひょこりと現れる。
「もちろん、ビュアンの分もあるよ。迷宮亭の木の実のケーキだ」
「ふふん、わかってるじゃない!」
嬉しそうに舞い踊るビュアン。
けれど、ノルドはふと真顔になった。
「ねえ、ビュアン。シルヴィアたち……どうしちゃったんだろうね。そんなにラゼルといるの、楽しいのかな?」
ビュアンの羽がふるりと震えた。
「楽しい要素? そんなの、あの男には一つもないわよ」
表情が一変し、妖精は鋭い声で言った。
「……あれはただのスキルよ、ノルド」
一つは――あの仲良しグループのロッカたちに、はっきりとした亀裂が走っていることだった。男たちと女たちで、目を合わせようともしない。あからさまに、空気が凍っていた。
確かに、仲の悪い冒険者グループなど珍しくない。高ランクの者たちには、探索中も必要最低限しか話さず、地上に戻った瞬間に解散するような者もいる。だが、彼らはプロだ。精神的にも戦術的にも、独立している。
ロッカたちは違う。スキルを得たばかりの若い連中で、寄り添いながら、夢や不安を分かち合ってきた――そのはずだった。
「……まずいわね」
隣でカリスが低く呟いた。やはり、彼女も気づいている。
ノルドは内心で頭を抱えた。こういう亀裂が一番危ない。だが、今さら引き返すわけにもいかない。せめて、戦闘だけでも避けよう――そう決めていたのに。
「行くぞ」
ラゼル王子は、今日も一人で魔物の群れに突っ込んでいく。
ノルドは神経をすり減らしながら、後を追った。目指すのは地下二階――前回、蜘蛛が巣を張っていた旧採掘場だ。今回も、あの蜘蛛が戻っているかもしれない。
「ラゼル様、今回は戦闘を避けて、採掘場に直行しましょう。例の蜘蛛が……まだいるかもしれません」
フィオナの声が届いた。
王子は振り返り、ふっと笑った。
「ああ、そうだな。他の者、手を出すなよ。――特にお前な」
ラゼルは、ノルドを指さした。からかいとも、警告とも取れる口調に、ノルドは返答に迷い、ただ黙って頷くしかなかった。
だが幸いなことに、大蜘蛛は戻っていなかった。頭のいい魔物なのだろう。採掘は、順調に終わった。
第三層に移動し、ノルドはいつものように夕食の準備を始めた。フィオナやカリスたちがテントの設営を終わらせてくれる。
「お待たせしました! どうぞ召し上がってください!」
迷宮亭の特製ダレが肉に絡み、香ばしい香りが周囲に広がる。
「わぁぃ!」「美味しそう!」
ロッカ隊の女性陣――シルヴィアとリーヴァの目が輝いた。特にリーヴァは、前回は体調を崩していたため、これが初めてのノルドの料理だった。
「ずっと噂になってたから、楽しみにしてたのよ!」
二つのパーティによって、料理はあっという間に片付けられた。
「おい、荷運び。ケチケチすんな。おかわりだ。ワインももっと持ってこい」
ラゼルの言葉が、空気を断ち切るように飛んでくる。
――けちってなんか、いない。
ノルドは皆の食事をきっちり用意していた。むしろ自分の分まで綺麗になくなっている。
(俺は居酒屋の店員じゃないんだが……)
口答えする気力もなく、ノルドは新たな食材を取り出し、小川へと向かった。
「ノルド、ナッツ類で十分よ。あとは任せて。あなた、少し休んで」
カリスがそっと近づき、干し肉とナッツを受け取ってくれる。
振り返ると、テーブルでは既に酒宴が始まっていた。ラゼル王子を中心に、女性陣が笑い声を交わしている。
――ロッカとダミアーノの姿が、見当たらない。
「どこに行ったんだ?」
ノルドは辺りを見回す。数組の冒険者たちの輪にも、彼らはいない。
「ああ……あんなところに」
小高い丘の上に、二人の姿があった。ワインをラッパ飲みしながら、ちらちらとこちらを伺っている。
ノルドは足を向けた。
「こんなところで、何をしてるんですか?」
「……ノルドか」
ロッカは暗い顔で振り返った。
「何か、問題がありましたか?」
二人は目を見合わせ、言いにくそうに口を開いた。
「お前が悪いわけじゃない。むしろ感謝してる……」
ダミアーノの言葉に、ロッカが続く。
「けどな。今後の方針で、パーティが揉めた。あの王子様と、このまま同行するかどうかで……」
「俺たちも馬鹿じゃない。噂も聞いてるし、現実も見てる。だが……説明できない不安がある。あの人と一緒にいれば、金は貯まる。サン=マリエルに戻れるのも早くなる。けど……」
「……何か、良くないことが起きる気がして」
ロッカは、自分の勘を信じて、撤退を主張した。だが、女性陣が猛反発した。
「『じゃあ二人でも行く』って、シルヴィアが言い出したんだ」
「なあ、ロッカの話を途中で遮るなんて、あいつ初めてだったよな」
「……ああ」
結局、心配になって、彼らも同行を選んだ。選択肢などなかったのだ。
ノルドは自分のテントに戻り、深いため息をつく。小さなテーブルに、ようやく自分の夕食を並べる。
「こっちのほうが落ち着くだろ」
ヴァルが隣でこくりと頷いた。
待ちかねたように、妖精ビュアンがひょこりと現れる。
「もちろん、ビュアンの分もあるよ。迷宮亭の木の実のケーキだ」
「ふふん、わかってるじゃない!」
嬉しそうに舞い踊るビュアン。
けれど、ノルドはふと真顔になった。
「ねえ、ビュアン。シルヴィアたち……どうしちゃったんだろうね。そんなにラゼルといるの、楽しいのかな?」
ビュアンの羽がふるりと震えた。
「楽しい要素? そんなの、あの男には一つもないわよ」
表情が一変し、妖精は鋭い声で言った。
「……あれはただのスキルよ、ノルド」
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