150 / 221
蠱惑の魔剣
誰の為の休憩
しおりを挟む
遠征の合間の短い休暇――初回は日帰り、一日の休みだった。だが二度目はニ泊三日となり、帰りも深夜にずれ込んだことで、結局二日間の休みに変更された。
その間、ノルドはゆっくり休む間もなく、セラのサナトリウムに一泊した後、次の遠征に備えて食料の調達、調薬、備品の点検と、精力的に動いていた。
慣れたとはいえ、彼の仕事量は普通の冒険者の比ではない。冒険者たちも武器の手入れや身体のメンテナンスに追われているが、ノルドの担う「荷運び人」という役割は、それ以上に幅広い。
「……これで大丈夫かな」
シダ通りの《迷宮亭》。ダンジョン町にある冒険者専門の宿にして、星喰の書にも載ってる有名なレストラン。
ノルドは特別に、遠征用の食料を受け取りに来ていた。今回も、下ごしらえ済みの料理の詰め合わせ。あとは焼くだけ、火を入れるだけという状態の品々が木箱に整然と収められていく。
亭主で料理人のノゾミが厨房から料理を運び、給仕長のネラが手際よく箱詰めを進める。
「ありがとうございます。この前も皆にすごく好評でした!」
「当然よ。うちのノゾミさんの料理だもの。普通、遠征の食事ってパンと干し肉くらいでしょ? まともに調理されたものなんてまず出ないわ」
ネラは胸を張って言い切る。その様子にノルドは苦笑した。確かに、その通りだ。だが、自分の場合は話が違う。
収納魔法の容量は段違い。テントも調理道具も、冒険者たちの予備装備や薬品、水や石まで――すべて運べるのだから。
「ほんと、ネラはわかってないわよ。ノルドがパンと干し肉なんか出すわけないでしょ? それに、セラさんの息子に変なもの出したら、私が恥ずかしいわ」
ノゾミが言う。
「うん、それなら安心だ。……ラゼルのためだって言ったら、閉じ込めるところだったけど」
「言ってないし!……っていうか、迷宮亭の料理名乗ってないわよね? ね、ノルド?」
睨まれ、ノルドは引きつった笑みを浮かべる。何度か口を滑らせてしまったことがあるため、今は話題を変えることにした。
「ところで……ここに泊まった冒険者で、すごい人っていました?」
その問いに、ネラはすぐに頷いた。
「いたわよ。あなたと仕事した、あの東方旅団とかね」
「あー……でも、アイツら一回もお茶に応じてくれなかったのよ! 何度誘っても!」
珍しくネラがしょんぼりしている。彼女がそこまで気にするのは、相手がただの冒険者ではないと感じているからだろう。東方旅団は独特の知性と気品を持ち、ノルドも何度か食事に誘われたが、女性は一人も同席せず、会話も探索の話ばかりで、食後はすぐに解散してしまう、徹底した仕事人集団だった。
「普通の冒険者じゃないですよね」
ノルドがそう言うと、ネラは悔しそうに頷いた。
その時、ノゾミがぽつりと口を開く。
「ねぇ、グラシアスさんはシシルナ島に来る気はないのかしら」
その一言に、ネラの顔がみるみる険しくなる。
「そのうち来るでしょう」
ノルドはそう答えたが、本当の理由――「母に会いに来るかもしれない」――は口にできなかった。彼は知っている。セラとグラシアス、その二人の絆が誰にも簡単に踏み込めるものではないことを。
*
「それでさ、お気に入りの子ってラゼルのパーティにいるの?」
唐突なネラの質問に、ノルドは首を横に振った。
「まさか……」
「でしょ。だって、リコに、アマリもいるもんね」
アマリ――聖女と呼ばれる少女の妹にして、精霊を使う天性の才を持つ少女。
その名が出た瞬間、ノルドの顔は真っ赤になった。
「ワオーン!」
小狼のヴァルが絶妙なタイミングで吠える。
「あ、ごめん、ヴァルもいたね。……っていうか、ほんとモテるのね、あなた」
「それじゃあ、長居しすぎた。冒険者ギルドに行くね!」
恥ずかしさを隠すように、ノルドは立ち上がり、早足で《迷宮亭》を後にした。
※
「まったく、失礼な奴らよね」
妖精ビュアンが現れて怒っている。
「いやぁ……」ノルドは頭を掻いた。
「わかってないのよ。ノルドの第一夫人は、私なのにね」頬に接吻する妖精。
さらに照れるノルド。
「ワオーン!」
ヴァルが吠える。
「何言ってるの! あなたは子分でしょ!」
ヴァルは不服そうに下を向いたが、ノルドが撫でるとすぐに機嫌は直った。
そんなたわいない会話をしている間に、冒険者ギルドに到着した。
「おお、ノルドか。精算をしよう。それと酒も準備してある」
「ありがとうございます」
「何か、問題はあったか?」
詳細な報告をしたが、例の薬の件については口にできなかった。
ドラガンからお金と酒を受け取り、帰ろうとしたところ、アレンに呼び止められた。
「ノルド、ロッカたちがラゼルのサポートをしているらしいが大丈夫か?」
「何かあったんですか?」
「いや、珍しくあいつら喧嘩をしていたからな。あの仲良い奴らがな」
ノルドには思い当たる節がなかったため、その時は深く気に留めなかった――。
そして、第三回目の遠征の日になった。
その間、ノルドはゆっくり休む間もなく、セラのサナトリウムに一泊した後、次の遠征に備えて食料の調達、調薬、備品の点検と、精力的に動いていた。
慣れたとはいえ、彼の仕事量は普通の冒険者の比ではない。冒険者たちも武器の手入れや身体のメンテナンスに追われているが、ノルドの担う「荷運び人」という役割は、それ以上に幅広い。
「……これで大丈夫かな」
シダ通りの《迷宮亭》。ダンジョン町にある冒険者専門の宿にして、星喰の書にも載ってる有名なレストラン。
ノルドは特別に、遠征用の食料を受け取りに来ていた。今回も、下ごしらえ済みの料理の詰め合わせ。あとは焼くだけ、火を入れるだけという状態の品々が木箱に整然と収められていく。
亭主で料理人のノゾミが厨房から料理を運び、給仕長のネラが手際よく箱詰めを進める。
「ありがとうございます。この前も皆にすごく好評でした!」
「当然よ。うちのノゾミさんの料理だもの。普通、遠征の食事ってパンと干し肉くらいでしょ? まともに調理されたものなんてまず出ないわ」
ネラは胸を張って言い切る。その様子にノルドは苦笑した。確かに、その通りだ。だが、自分の場合は話が違う。
収納魔法の容量は段違い。テントも調理道具も、冒険者たちの予備装備や薬品、水や石まで――すべて運べるのだから。
「ほんと、ネラはわかってないわよ。ノルドがパンと干し肉なんか出すわけないでしょ? それに、セラさんの息子に変なもの出したら、私が恥ずかしいわ」
ノゾミが言う。
「うん、それなら安心だ。……ラゼルのためだって言ったら、閉じ込めるところだったけど」
「言ってないし!……っていうか、迷宮亭の料理名乗ってないわよね? ね、ノルド?」
睨まれ、ノルドは引きつった笑みを浮かべる。何度か口を滑らせてしまったことがあるため、今は話題を変えることにした。
「ところで……ここに泊まった冒険者で、すごい人っていました?」
その問いに、ネラはすぐに頷いた。
「いたわよ。あなたと仕事した、あの東方旅団とかね」
「あー……でも、アイツら一回もお茶に応じてくれなかったのよ! 何度誘っても!」
珍しくネラがしょんぼりしている。彼女がそこまで気にするのは、相手がただの冒険者ではないと感じているからだろう。東方旅団は独特の知性と気品を持ち、ノルドも何度か食事に誘われたが、女性は一人も同席せず、会話も探索の話ばかりで、食後はすぐに解散してしまう、徹底した仕事人集団だった。
「普通の冒険者じゃないですよね」
ノルドがそう言うと、ネラは悔しそうに頷いた。
その時、ノゾミがぽつりと口を開く。
「ねぇ、グラシアスさんはシシルナ島に来る気はないのかしら」
その一言に、ネラの顔がみるみる険しくなる。
「そのうち来るでしょう」
ノルドはそう答えたが、本当の理由――「母に会いに来るかもしれない」――は口にできなかった。彼は知っている。セラとグラシアス、その二人の絆が誰にも簡単に踏み込めるものではないことを。
*
「それでさ、お気に入りの子ってラゼルのパーティにいるの?」
唐突なネラの質問に、ノルドは首を横に振った。
「まさか……」
「でしょ。だって、リコに、アマリもいるもんね」
アマリ――聖女と呼ばれる少女の妹にして、精霊を使う天性の才を持つ少女。
その名が出た瞬間、ノルドの顔は真っ赤になった。
「ワオーン!」
小狼のヴァルが絶妙なタイミングで吠える。
「あ、ごめん、ヴァルもいたね。……っていうか、ほんとモテるのね、あなた」
「それじゃあ、長居しすぎた。冒険者ギルドに行くね!」
恥ずかしさを隠すように、ノルドは立ち上がり、早足で《迷宮亭》を後にした。
※
「まったく、失礼な奴らよね」
妖精ビュアンが現れて怒っている。
「いやぁ……」ノルドは頭を掻いた。
「わかってないのよ。ノルドの第一夫人は、私なのにね」頬に接吻する妖精。
さらに照れるノルド。
「ワオーン!」
ヴァルが吠える。
「何言ってるの! あなたは子分でしょ!」
ヴァルは不服そうに下を向いたが、ノルドが撫でるとすぐに機嫌は直った。
そんなたわいない会話をしている間に、冒険者ギルドに到着した。
「おお、ノルドか。精算をしよう。それと酒も準備してある」
「ありがとうございます」
「何か、問題はあったか?」
詳細な報告をしたが、例の薬の件については口にできなかった。
ドラガンからお金と酒を受け取り、帰ろうとしたところ、アレンに呼び止められた。
「ノルド、ロッカたちがラゼルのサポートをしているらしいが大丈夫か?」
「何かあったんですか?」
「いや、珍しくあいつら喧嘩をしていたからな。あの仲良い奴らがな」
ノルドには思い当たる節がなかったため、その時は深く気に留めなかった――。
そして、第三回目の遠征の日になった。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる