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蠱惑の魔剣
修道院の真実
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グラシアスが共和国を去った後も、セイとガブリエルは、国内に残るラゼル王子の被害者たちのもとを訪れ続けていた。
「もう充分だ。自分の仕事に戻ってくれ」――そうグラシアスに告げたが、二人の足は止まらなかった。
セイは記者として未熟な自分を恥じながらも、真実を伝える責任に胸を突き動かされ、ガブリエルは、これが神の導きであると心の底から信じていた。
共和国のパリスから少し離れた、穏やかな農村。陽の光が畑を照らし、風に揺れる麦の穂が小さなざわめきを立てていた。
「ごめん、ガブリエル。次の被害者だが、ラゼル王子に連れ去られたらしい。家族にはすでに賠償金が渡されている。どうする?」
「ここまで来たのだ。ご家族に会って行こう」
セイは一瞬戸惑ったが、ガブリエルの癒しの力で、家族も心の痛みから救われるのではないかと思い直した。
※
「住所はここだな……」
そこは修道院に隣接する孤児院だった。セイたちの馬車の音を聞きつけ、畑で作業をしていた子供たちが興味津々で近寄ってきた。
セイは微笑みながら蜂蜜飴を取り出し、子供たちに配る。シシルナ島の時から、お菓子を絶やさないのが彼の習慣だった。
子供たちの笑顔が、孤児院の庭に一瞬で広がった。
「ありがとうございます。ところで、どのようなご用でしょうか?」
年老いた修道女が、少し震える声で近づいてきた。
セイとガブリエルは静かに挨拶を交わし、修道院の中へ案内された。
「フィオナさんの件で参りました。彼女は、ラゼル王子の奴隷として連れ去られたと聞いております」
「はい……その通りです」
老女は、彼らを見ずに言った。
「私には、嘘は通じません。どうか懺悔をお聞かせください」
ガブリエルは、震える老女の手を優しく握った。その温もりに、不安や罪悪感が少しずつ溶けていくようだった。
セイは、席を外し孤児院の庭に行き、子供たちと遊んだ。それは、彼にシシルナ島にいる子分たちを思い出させた。
修道院の壁に差し込む柔らかな光が、ガブリエルと老女を包む。
「連れ去られたのは、ブランナ。フィオナの双子の姉だ」
「じゃあ、フィオナは?」
「こっちです」
修道院の裏部屋に案内された。
そこには、フィオナと瓜二つの顔をした女性が、庭で遊ぶ子供たちを眺めていた。
※
よくある話だった――孤児院での人減らしのために、奴隷として売ることは。
しかも、奴隷商人として来たのが、ラゼル王子だった。
品がよく、提案された金額も高かった。
「修道院なので、お泊めできません」
彼は、近くの町から通い、熱心に口説いた。
「まさか、殺人鬼だとは思わなかった」
最低でも、裕福な商人、できれば貴族の屋敷で働くのだろうと考えて送り出した。人当たりの良いフィオナの方を。
フィオナは筆まめで、手紙をブランナに送っていた。
「体調のこと一言も書かなかったのに、姉さんは気がついてしまった」
心配したブランナは、パリスまで出向いて、フィオナに会いにきた。
「それで入れ替わったのか?」
「ラゼル王子の近くにいると、死ぬというのは市井の人々の中では有名な話だったわ。でも、奴隷紋が刻まれてるから逃げきれないって」
だが、ブランナは私の持つ幻影魔術なら誤魔化せると。二人とも小さい時から、魔物の森で、魔兎を狩りジョブを持っていた。
「それなら冒険者になれば良かったのに」
「それは私の不甲斐なささ。孤児院の借金が雪だるまのように増えた」
老婆の修道女が答えた。
「だから、まとまったお金が必要だったの。シスターが悪いんじゃない。運が悪かったの。でも……姉さんは今、どこにいるんでしょうか?」
彼女は、ブランナの前で倒れて入れ替わられて、それきり会うことが出来無かった。
有名なラゼルの聖妹襲撃事件で、共和国を追放され、大陸中を転々としていたからだ。
「実は、たまにお金が送られてくるんです。それで生きてるって。でも姐さんは筆不精で……『心配するな』だけなんです。姉さんに会いたいんです。入れ替わらないと」
※
ガブリエルたちは、グラシアスに伝聞鳥で連絡をとった。
「サルサ様に伝えた。シシルナ島のサナトリウムに連れてきて欲しい。との返事だった。俺はやっと、エリシオン王子と会う約束が出来て動けない。護衛は用意するが……」
セイは、試験と仕事で動けなかった。ガブリエルも自由ではない。
だが、ガブリエルは別の意味でもシシルナ島に行きたかった。行く口実もできたからだ。
「俺が話を通そう!」
ブロイ伯爵がその話を聞いて、共和国区の教会と交渉した。
「ブロイ様のご意向は分かりましたが、ガブリエルは、大司祭の付き人、いや片腕の存在。長期的に共和国を空けると……それも女性と旅行とは」
教区の事務を務める司祭は難色を示した。
「わかった。この事で、彼の経歴に傷がつくことも望まん。まあ、これでも受け取ってくれ。不足か?」
ブロイは、奴隷商人ギルドから受け取った莫大な慰謝料を、その場で全て教会に寄付をした。
「いえ……ブロイ様が熱心な信者であることは知っておりました。私が大司祭を説得しましょう。しかしこれほどの金額を」
事務司祭は驚嘆の声を上げ、すぐに許可を出すと約束した。
「ははは、安いものよ。あの男に恩を着せれるな」
だが、ブロイ伯爵は、気分よく家に帰ると――。
「おじいさま、聞きましたよ。ガブリエル様を女と旅行させるなんて……もう知らない」
孫のリリアンヌは、拗ねて部屋に籠っていた。だが――。
『あなたと、次は一緒に行きましょう。プレゼントを買ってきますね』
ガブリエルからの手紙を受け取ると、彼女はふくれっ面のまま、そっと微笑んだ。
「もう充分だ。自分の仕事に戻ってくれ」――そうグラシアスに告げたが、二人の足は止まらなかった。
セイは記者として未熟な自分を恥じながらも、真実を伝える責任に胸を突き動かされ、ガブリエルは、これが神の導きであると心の底から信じていた。
共和国のパリスから少し離れた、穏やかな農村。陽の光が畑を照らし、風に揺れる麦の穂が小さなざわめきを立てていた。
「ごめん、ガブリエル。次の被害者だが、ラゼル王子に連れ去られたらしい。家族にはすでに賠償金が渡されている。どうする?」
「ここまで来たのだ。ご家族に会って行こう」
セイは一瞬戸惑ったが、ガブリエルの癒しの力で、家族も心の痛みから救われるのではないかと思い直した。
※
「住所はここだな……」
そこは修道院に隣接する孤児院だった。セイたちの馬車の音を聞きつけ、畑で作業をしていた子供たちが興味津々で近寄ってきた。
セイは微笑みながら蜂蜜飴を取り出し、子供たちに配る。シシルナ島の時から、お菓子を絶やさないのが彼の習慣だった。
子供たちの笑顔が、孤児院の庭に一瞬で広がった。
「ありがとうございます。ところで、どのようなご用でしょうか?」
年老いた修道女が、少し震える声で近づいてきた。
セイとガブリエルは静かに挨拶を交わし、修道院の中へ案内された。
「フィオナさんの件で参りました。彼女は、ラゼル王子の奴隷として連れ去られたと聞いております」
「はい……その通りです」
老女は、彼らを見ずに言った。
「私には、嘘は通じません。どうか懺悔をお聞かせください」
ガブリエルは、震える老女の手を優しく握った。その温もりに、不安や罪悪感が少しずつ溶けていくようだった。
セイは、席を外し孤児院の庭に行き、子供たちと遊んだ。それは、彼にシシルナ島にいる子分たちを思い出させた。
修道院の壁に差し込む柔らかな光が、ガブリエルと老女を包む。
「連れ去られたのは、ブランナ。フィオナの双子の姉だ」
「じゃあ、フィオナは?」
「こっちです」
修道院の裏部屋に案内された。
そこには、フィオナと瓜二つの顔をした女性が、庭で遊ぶ子供たちを眺めていた。
※
よくある話だった――孤児院での人減らしのために、奴隷として売ることは。
しかも、奴隷商人として来たのが、ラゼル王子だった。
品がよく、提案された金額も高かった。
「修道院なので、お泊めできません」
彼は、近くの町から通い、熱心に口説いた。
「まさか、殺人鬼だとは思わなかった」
最低でも、裕福な商人、できれば貴族の屋敷で働くのだろうと考えて送り出した。人当たりの良いフィオナの方を。
フィオナは筆まめで、手紙をブランナに送っていた。
「体調のこと一言も書かなかったのに、姉さんは気がついてしまった」
心配したブランナは、パリスまで出向いて、フィオナに会いにきた。
「それで入れ替わったのか?」
「ラゼル王子の近くにいると、死ぬというのは市井の人々の中では有名な話だったわ。でも、奴隷紋が刻まれてるから逃げきれないって」
だが、ブランナは私の持つ幻影魔術なら誤魔化せると。二人とも小さい時から、魔物の森で、魔兎を狩りジョブを持っていた。
「それなら冒険者になれば良かったのに」
「それは私の不甲斐なささ。孤児院の借金が雪だるまのように増えた」
老婆の修道女が答えた。
「だから、まとまったお金が必要だったの。シスターが悪いんじゃない。運が悪かったの。でも……姉さんは今、どこにいるんでしょうか?」
彼女は、ブランナの前で倒れて入れ替わられて、それきり会うことが出来無かった。
有名なラゼルの聖妹襲撃事件で、共和国を追放され、大陸中を転々としていたからだ。
「実は、たまにお金が送られてくるんです。それで生きてるって。でも姐さんは筆不精で……『心配するな』だけなんです。姉さんに会いたいんです。入れ替わらないと」
※
ガブリエルたちは、グラシアスに伝聞鳥で連絡をとった。
「サルサ様に伝えた。シシルナ島のサナトリウムに連れてきて欲しい。との返事だった。俺はやっと、エリシオン王子と会う約束が出来て動けない。護衛は用意するが……」
セイは、試験と仕事で動けなかった。ガブリエルも自由ではない。
だが、ガブリエルは別の意味でもシシルナ島に行きたかった。行く口実もできたからだ。
「俺が話を通そう!」
ブロイ伯爵がその話を聞いて、共和国区の教会と交渉した。
「ブロイ様のご意向は分かりましたが、ガブリエルは、大司祭の付き人、いや片腕の存在。長期的に共和国を空けると……それも女性と旅行とは」
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「わかった。この事で、彼の経歴に傷がつくことも望まん。まあ、これでも受け取ってくれ。不足か?」
ブロイは、奴隷商人ギルドから受け取った莫大な慰謝料を、その場で全て教会に寄付をした。
「いえ……ブロイ様が熱心な信者であることは知っておりました。私が大司祭を説得しましょう。しかしこれほどの金額を」
事務司祭は驚嘆の声を上げ、すぐに許可を出すと約束した。
「ははは、安いものよ。あの男に恩を着せれるな」
だが、ブロイ伯爵は、気分よく家に帰ると――。
「おじいさま、聞きましたよ。ガブリエル様を女と旅行させるなんて……もう知らない」
孫のリリアンヌは、拗ねて部屋に籠っていた。だが――。
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