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蠱惑の魔剣
涙の邂逅
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「グラシアス商会です!」
明るく元気な若い声が、サナトリウムの静かなエントランスに響いた。
その声に反応したのは、娯楽室で遊んでいたノルドだった。獣人族の鋭い耳には、遠くの声もはっきりと届く。だが聞き慣れた響きから、商会長本人ではないと察し、彼は盤上のゲームに集中を戻した。
――しかし次の瞬間。
「この匂いは……!」
ヴァルが、低い唸り声とともに立ち上がった。
その異変にノルドの胸も高鳴る。
「ヴァル……!」
気づけば、少年と狼は同時に立ち上がり、娯楽室を飛び出していた。
「おい、ノルド。まだゲーム中だぞ!」
後ろから声が飛ぶ。
「友達が来たんです! ちょっと待っててください!」
ノルドは返事を叫び、足を止めなかった。
玄関に駆けつけると、そこには真新しい金の刺繍を施された助祭服を纏う青年が立っていた。
柔らかな日の光を浴び、布地は高貴な輝きを放っている。その服は、ブロイ伯爵から贈られた最高級のものだった。
「久しぶりだな、ノルド。すっかり元気になって……」
変わらぬ優しい声で語りかけるその人は、ガブリエルだった。懐かしい笑みを浮かべながら手を差し出す。
「いやぁ、立派な聖職者になったんだな」
二人は固く握手を交わした。長い時を経ても変わらぬ友情が、手の温もりから伝わる。
「皆さん、ガブリエルが帰ってきましたよ!」
ノルドが声を上げると、柱の陰から覗いていたカノンが目を見開いた。
助祭の視線が彼女を捉える。
「……母さん」
名前を呼ばれた瞬間、カノンは胸がいっぱいになり、思わず顔を両手で覆った。セラがそっと肩を抱くと、こらえきれずに涙があふれる。
「お帰りなさい……」
その言葉は震えていたが、確かな喜びに満ちていた。
「それで、病人はどこだ?」
場の空気を切り替えるように、サルサが問う。
「あ、すみません。フィオナさんです。長旅で疲れていまして……」
ガブリエルが紹介すると、後ろに隠れていた修道女が一歩進み、丁寧に頭を下げた。
ノルドはその顔を見て、言葉を失った。驚きが胸を突き上げる。――しかしさらに衝撃的だったのは、マルカスに伴われて現れた、もう一人の「フィオナ」だった。
「姉さん……会いたかった」
二人のフィオナは駆け寄り、強く抱き合う。涙が頬を濡らし、周囲の者たちは息を呑んだ。
「どうしてシシルナ島に? 危険なのに」
「何を言うの。こんなに安全な場所、大陸中探しても他にないぞ!」
そこへ元勇者の英雄たちが現れ、茶々を入れるように言葉を挟んだ。彼らの存在が空気をざわつかせる。
「まったく、また面倒な連中が……。私の部屋に行きましょう」
サルサが冷たく言い放ち、移動を促す。
「じゃあ、ノルド。戻るぞ!」
英雄たちに取り囲まれ、ノルドはたちまち捕まってしまう。
「ノルドも来なさい。代わりに、あんた達の相手はグラシアスの若者に任せるわ」
突然の展開に、理由もわからぬまま引きずられる若い商人。その背中にノルドは心の中でそっとエールを送った。――『頑張って』
「マルカス、本物のフィオナを診てくれ」
「あっ……」
抱き合っていた二人のフィオナは、名残惜しげに離れる。
「安心しろ。お前と同じ診察をするだけだ」
ノルドと、事情が掴めず困惑するカリスは顔を見合わせた。
「じゃあ、説明してくれるかな。えっと……」
サルサが促すと、修道女が静かに名乗りを上げた。
「わかりました、サルサ様。私の本当の名前は――『プランナ』。フィオナの双子の姉です」
「はあ? じゃあ、あなたはフィオナじゃなかったってこと?」
「ノルド、カリス。ごめんなさい。この秘密は誰にも話していなかったの。気づいていたかもしれないけど……」
カリスがラゼル王子の奴隷パーティに加わった時、すでに入れ替わりは起きていた。
「あなたが双子だなんて知らなかったわ。それに、あの男はどうして気づかないの?」
「ラゼルの奴隷紋は現れないの。それ以上に、彼は私たちに興味がない。意識しているのは、“自分の所有物”だということだけ」
「さすが同類ね。冷酷な人間同士、よくわかるのね!」
怒鳴ったカリスは、血の気が引き、よろめいて倒れそうになる。
「カリスさん、まだ体調が……?」
ノルドが駆け寄ろうとすると、彼女は必死に首を振った。
「ノルド、カリスは施術を受けたばかりだ。カリスは、座って大人しく話を聞きなさい」
サルサの鋭い声が飛ぶ。
そして、ブランナは語り始めた。彼女の口から語られる内容は、グラシアスが老人の修道女やフィオナから聞いていたものと同じだった。
「ごめんね、カリス。決してあなたを見捨てたわけじゃない」
「いや、その方が良いって聞いたけど……。でも私は、もっとあなたに動揺して欲しかったのよ!」
それでもノルドの胸には疑問が残る。
「フィオナさん、ラゼル王子を庇っていましたよね?」
「ノルドには言えなかったけど……この特殊な奴隷契約は主人が死ねば奴隷も死ぬ。だから、あの男を殺すわけにはいかないの」
「じゃあ、どうすればいいんだ!」
ノルドは思わず頭を抱えた。
明るく元気な若い声が、サナトリウムの静かなエントランスに響いた。
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――しかし次の瞬間。
「この匂いは……!」
ヴァルが、低い唸り声とともに立ち上がった。
その異変にノルドの胸も高鳴る。
「ヴァル……!」
気づけば、少年と狼は同時に立ち上がり、娯楽室を飛び出していた。
「おい、ノルド。まだゲーム中だぞ!」
後ろから声が飛ぶ。
「友達が来たんです! ちょっと待っててください!」
ノルドは返事を叫び、足を止めなかった。
玄関に駆けつけると、そこには真新しい金の刺繍を施された助祭服を纏う青年が立っていた。
柔らかな日の光を浴び、布地は高貴な輝きを放っている。その服は、ブロイ伯爵から贈られた最高級のものだった。
「久しぶりだな、ノルド。すっかり元気になって……」
変わらぬ優しい声で語りかけるその人は、ガブリエルだった。懐かしい笑みを浮かべながら手を差し出す。
「いやぁ、立派な聖職者になったんだな」
二人は固く握手を交わした。長い時を経ても変わらぬ友情が、手の温もりから伝わる。
「皆さん、ガブリエルが帰ってきましたよ!」
ノルドが声を上げると、柱の陰から覗いていたカノンが目を見開いた。
助祭の視線が彼女を捉える。
「……母さん」
名前を呼ばれた瞬間、カノンは胸がいっぱいになり、思わず顔を両手で覆った。セラがそっと肩を抱くと、こらえきれずに涙があふれる。
「お帰りなさい……」
その言葉は震えていたが、確かな喜びに満ちていた。
「それで、病人はどこだ?」
場の空気を切り替えるように、サルサが問う。
「あ、すみません。フィオナさんです。長旅で疲れていまして……」
ガブリエルが紹介すると、後ろに隠れていた修道女が一歩進み、丁寧に頭を下げた。
ノルドはその顔を見て、言葉を失った。驚きが胸を突き上げる。――しかしさらに衝撃的だったのは、マルカスに伴われて現れた、もう一人の「フィオナ」だった。
「姉さん……会いたかった」
二人のフィオナは駆け寄り、強く抱き合う。涙が頬を濡らし、周囲の者たちは息を呑んだ。
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「じゃあ、ノルド。戻るぞ!」
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「はあ? じゃあ、あなたはフィオナじゃなかったってこと?」
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「さすが同類ね。冷酷な人間同士、よくわかるのね!」
怒鳴ったカリスは、血の気が引き、よろめいて倒れそうになる。
「カリスさん、まだ体調が……?」
ノルドが駆け寄ろうとすると、彼女は必死に首を振った。
「ノルド、カリスは施術を受けたばかりだ。カリスは、座って大人しく話を聞きなさい」
サルサの鋭い声が飛ぶ。
そして、ブランナは語り始めた。彼女の口から語られる内容は、グラシアスが老人の修道女やフィオナから聞いていたものと同じだった。
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