186 / 238
蠱惑の魔剣
サナトリウムの夜宴
しおりを挟む
「だから、全員ここに集まったの。知恵を出し合いましょう、ノルド!」
セラが優しく励ますように言葉をかける。その声は、仲間たちに一瞬の安堵をもたらした。
そこへ診察を終えたマルカスが戻って来る。
「フィオナの体に異常はなかった。ただの旅の疲れだ。魔力も十分。ただ、休ませておいた」
報告を受け、サルサは深く頷き、ブランナも安心して大きく息を吐いた。
「まず、ラゼル王子の件だ。奴から剣を取り上げる必要がある。これは最優先だ」
「どういうことです?」ノルドが問い返す。
「魔剣の力が暴走すれば、何が起きるか予測できん。ラゼルは危機に陥るたび、剣の意志に導かれ、力を借りている」
嫌な予感が、ノルドの背筋を凍らせる。
「つまり……下手に捕まえようとすると危険、ってことですか」
「そうだ。意識を切り離して剣を奪おうとしたが、剣に警戒されて失敗した」
「本人はしょぼいんだけどな」マルカスが悔しそうに呟いた。
「となると、手は一つですね。僕の収納魔術で取り上げます」
ノルドはきっぱりと言い切った。
※
ガブリエルとカノンは、互いを見つめ合った。
「助祭様、懺悔を聞いてくださいますか?」母カノンの重い声。
「もちろんです。聞かせてください」息子ガブリエルは穏やかに応えた。
「仕方ないことなんだよ! あの呪いは」
マルカスが言うと、サルサは頭を軽くこつんと叩いた。
「このサナトリウムの隅に、小さな精霊王の祠がある。使われていないから、二人で掃除してくれ」
これは、カノン親子にとって苦しいけれど避けられない仕事だ。それは、ノルドでもわかった。
二人は祠へ歩を進める。石造りの小さな祠は埃にまみれ、角には蜘蛛の巣が張っていた。
二人は箒と雑巾を手に取り、黙々と掃除を始める。埃をはらうたび、古い祠の香りとひんやりとした空気が漂った。
「……思ったより大変だね」ガブリエルが小さく笑う。
「あなたに手伝わせてごめんね」カノンが小声で答えた。
「ううん」
掃除が進むにつれ、二人の胸の重さも少しずつ和らぐ。祠がきれいになるたび、気持ちの整理もついていくようだった。
床に膝をつき跪くカノンは、静かに懺悔を始める。
「私は……あの時、あなたを守れなかった」
母としての深い悔恨が声ににじむ。
「でも、もう大丈夫だよ、母さん。僕たちはここにいる」
ガブリエルの声は穏やかでありながら力強く、祠の中に響いた。
祠で、二人は懺悔と赦しを交わす。重かった胸のつかえが、少しずつ解けていく。静かな祠に、二人の息遣いだけが響いた。
※
その日の夜、ささやかな食事会が開かれた。親子の再会、姉妹の再会を祝して。
同時に、全員がサナトリウムに泊まることになった。門の外には警備隊が待機しており、一度出れば戻りにくいためだ。
「久しぶりに母さんのご飯が食べられて嬉しいな」
キッチンでセラを手伝おうと歩くノルドは、うずくまるグラシアス商会の青年を見つけた。
「どうしたんですか?」
青年は、老人たちに全財産を奪われたらしい。
「それは大変な目に遭いましたね」ノルドは、逃げ切れた幸運を心で神に感謝した。
「祈る必要ないわ、ノルドなら負けないから!」
精霊ビュアンの声が聞こえた。
ささやかでなく、華やかな夕食会になった。グラシアス商会の青年が、収納魔術で運んできた大陸の高級食材が並ぶ。
料理の作り手はサナトリウムの料理長、セラ、そして祠で懺悔を終えたカノンだ。
カノンは、つきものが落ちたような表情で鼻歌を歌いながら故郷の料理を作る。
「お前も役に立つじゃないか!」
「よし、借金は少し負けてやろう」
「だから、この後、またゲームをしよう!」
老人勇者たちのくだらぬ遊び話に、普段なら叱るサルサだが、黙って見守っている。それは、目に見えない取引のようなものだ。
「じじいども、片付いたら厳しくしてやる!」小さく呟くサルサに、彼らは微笑み返した。
シシルナ島に迫る目に見えない危機の中、食事会は意外なほど楽しく、笑いと温もりに満ちていた。
ノルドはガブリエルと向き合い、それぞれの近況を語り合い、共通の友セイの話題にも触れた。
一方、ブランナとフィオナは久しぶりの再会に胸を震わせ、感情を抑えきれずに言葉を交わす。
双子ゆえの深い理解と、隠してきた秘密の重さが、笑顔と涙の入り混じる会話を紡ぎ出していた。
マルカスはそんな彼女たちを静かに見守っていた。
「おぃ、酒が足りないぞ!」
「ああ、もっと良いワインをだせ!」
老人英雄たちの傲慢さに、サルサの堪忍袋の緒が切れた。
「爺さんたち、ふざけるなよ! 元気で長生きしてもらわないといけないんだぞ!」
サルサの一言で、執事やメイドがあらゆる酒を回収する。
虎の尾を踏んだことに気づいた老人たちは態度を一変させ、頭を下げる。
「飲み過ぎだよな。わかった、わかった。でも最後の一杯だけお願いします!」
三人は並んで頭を下げる。
「もう一杯だけですよ」
コントのようなやり取りに、食堂は笑いに包まれた。
※
「いい時間になったな。最後に私から重要な発表がある。静かに聞いてくれ!」
サルサの声に、皆の視線が集まった。締めの挨拶ではない、何か別の知らせがある予感――。
セラが優しく励ますように言葉をかける。その声は、仲間たちに一瞬の安堵をもたらした。
そこへ診察を終えたマルカスが戻って来る。
「フィオナの体に異常はなかった。ただの旅の疲れだ。魔力も十分。ただ、休ませておいた」
報告を受け、サルサは深く頷き、ブランナも安心して大きく息を吐いた。
「まず、ラゼル王子の件だ。奴から剣を取り上げる必要がある。これは最優先だ」
「どういうことです?」ノルドが問い返す。
「魔剣の力が暴走すれば、何が起きるか予測できん。ラゼルは危機に陥るたび、剣の意志に導かれ、力を借りている」
嫌な予感が、ノルドの背筋を凍らせる。
「つまり……下手に捕まえようとすると危険、ってことですか」
「そうだ。意識を切り離して剣を奪おうとしたが、剣に警戒されて失敗した」
「本人はしょぼいんだけどな」マルカスが悔しそうに呟いた。
「となると、手は一つですね。僕の収納魔術で取り上げます」
ノルドはきっぱりと言い切った。
※
ガブリエルとカノンは、互いを見つめ合った。
「助祭様、懺悔を聞いてくださいますか?」母カノンの重い声。
「もちろんです。聞かせてください」息子ガブリエルは穏やかに応えた。
「仕方ないことなんだよ! あの呪いは」
マルカスが言うと、サルサは頭を軽くこつんと叩いた。
「このサナトリウムの隅に、小さな精霊王の祠がある。使われていないから、二人で掃除してくれ」
これは、カノン親子にとって苦しいけれど避けられない仕事だ。それは、ノルドでもわかった。
二人は祠へ歩を進める。石造りの小さな祠は埃にまみれ、角には蜘蛛の巣が張っていた。
二人は箒と雑巾を手に取り、黙々と掃除を始める。埃をはらうたび、古い祠の香りとひんやりとした空気が漂った。
「……思ったより大変だね」ガブリエルが小さく笑う。
「あなたに手伝わせてごめんね」カノンが小声で答えた。
「ううん」
掃除が進むにつれ、二人の胸の重さも少しずつ和らぐ。祠がきれいになるたび、気持ちの整理もついていくようだった。
床に膝をつき跪くカノンは、静かに懺悔を始める。
「私は……あの時、あなたを守れなかった」
母としての深い悔恨が声ににじむ。
「でも、もう大丈夫だよ、母さん。僕たちはここにいる」
ガブリエルの声は穏やかでありながら力強く、祠の中に響いた。
祠で、二人は懺悔と赦しを交わす。重かった胸のつかえが、少しずつ解けていく。静かな祠に、二人の息遣いだけが響いた。
※
その日の夜、ささやかな食事会が開かれた。親子の再会、姉妹の再会を祝して。
同時に、全員がサナトリウムに泊まることになった。門の外には警備隊が待機しており、一度出れば戻りにくいためだ。
「久しぶりに母さんのご飯が食べられて嬉しいな」
キッチンでセラを手伝おうと歩くノルドは、うずくまるグラシアス商会の青年を見つけた。
「どうしたんですか?」
青年は、老人たちに全財産を奪われたらしい。
「それは大変な目に遭いましたね」ノルドは、逃げ切れた幸運を心で神に感謝した。
「祈る必要ないわ、ノルドなら負けないから!」
精霊ビュアンの声が聞こえた。
ささやかでなく、華やかな夕食会になった。グラシアス商会の青年が、収納魔術で運んできた大陸の高級食材が並ぶ。
料理の作り手はサナトリウムの料理長、セラ、そして祠で懺悔を終えたカノンだ。
カノンは、つきものが落ちたような表情で鼻歌を歌いながら故郷の料理を作る。
「お前も役に立つじゃないか!」
「よし、借金は少し負けてやろう」
「だから、この後、またゲームをしよう!」
老人勇者たちのくだらぬ遊び話に、普段なら叱るサルサだが、黙って見守っている。それは、目に見えない取引のようなものだ。
「じじいども、片付いたら厳しくしてやる!」小さく呟くサルサに、彼らは微笑み返した。
シシルナ島に迫る目に見えない危機の中、食事会は意外なほど楽しく、笑いと温もりに満ちていた。
ノルドはガブリエルと向き合い、それぞれの近況を語り合い、共通の友セイの話題にも触れた。
一方、ブランナとフィオナは久しぶりの再会に胸を震わせ、感情を抑えきれずに言葉を交わす。
双子ゆえの深い理解と、隠してきた秘密の重さが、笑顔と涙の入り混じる会話を紡ぎ出していた。
マルカスはそんな彼女たちを静かに見守っていた。
「おぃ、酒が足りないぞ!」
「ああ、もっと良いワインをだせ!」
老人英雄たちの傲慢さに、サルサの堪忍袋の緒が切れた。
「爺さんたち、ふざけるなよ! 元気で長生きしてもらわないといけないんだぞ!」
サルサの一言で、執事やメイドがあらゆる酒を回収する。
虎の尾を踏んだことに気づいた老人たちは態度を一変させ、頭を下げる。
「飲み過ぎだよな。わかった、わかった。でも最後の一杯だけお願いします!」
三人は並んで頭を下げる。
「もう一杯だけですよ」
コントのようなやり取りに、食堂は笑いに包まれた。
※
「いい時間になったな。最後に私から重要な発表がある。静かに聞いてくれ!」
サルサの声に、皆の視線が集まった。締めの挨拶ではない、何か別の知らせがある予感――。
3
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か
織部
ファンタジー
記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!
ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。
新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。
しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。
ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。
一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。
異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!
小説家になろう様でも連載しております
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる