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蠱惑の魔剣
サナトリウムの夜宴
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「だから、全員ここに集まったの。知恵を出し合いましょう、ノルド!」
セラが優しく励ますように言葉をかける。その声は、仲間たちに一瞬の安堵をもたらした。
そこへ診察を終えたマルカスが戻って来る。
「フィオナの体に異常はなかった。ただの旅の疲れだ。魔力も十分。ただ、休ませておいた」
報告を受け、サルサは深く頷き、ブランナも安心して大きく息を吐いた。
「まず、ラゼル王子の件だ。奴から剣を取り上げる必要がある。これは最優先だ」
「どういうことです?」ノルドが問い返す。
「魔剣の力が暴走すれば、何が起きるか予測できん。ラゼルは危機に陥るたび、剣の意志に導かれ、力を借りている」
嫌な予感が、ノルドの背筋を凍らせる。
「つまり……下手に捕まえようとすると危険、ってことですか」
「そうだ。意識を切り離して剣を奪おうとしたが、剣に警戒されて失敗した」
「本人はしょぼいんだけどな」マルカスが悔しそうに呟いた。
「となると、手は一つですね。僕の収納魔術で取り上げます」
ノルドはきっぱりと言い切った。
※
ガブリエルとカノンは、互いを見つめ合った。
「助祭様、懺悔を聞いてくださいますか?」母カノンの重い声。
「もちろんです。聞かせてください」息子ガブリエルは穏やかに応えた。
「仕方ないことなんだよ! あの呪いは」
マルカスが言うと、サルサは頭を軽くこつんと叩いた。
「このサナトリウムの隅に、小さな精霊王の祠がある。使われていないから、二人で掃除してくれ」
これは、カノン親子にとって苦しいけれど避けられない仕事だ。それは、ノルドでもわかった。
二人は祠へ歩を進める。石造りの小さな祠は埃にまみれ、角には蜘蛛の巣が張っていた。
二人は箒と雑巾を手に取り、黙々と掃除を始める。埃をはらうたび、古い祠の香りとひんやりとした空気が漂った。
「……思ったより大変だね」ガブリエルが小さく笑う。
「あなたに手伝わせてごめんね」カノンが小声で答えた。
「ううん」
掃除が進むにつれ、二人の胸の重さも少しずつ和らぐ。祠がきれいになるたび、気持ちの整理もついていくようだった。
床に膝をつき跪くカノンは、静かに懺悔を始める。
「私は……あの時、あなたを守れなかった」
母としての深い悔恨が声ににじむ。
「でも、もう大丈夫だよ、母さん。僕たちはここにいる」
ガブリエルの声は穏やかでありながら力強く、祠の中に響いた。
祠で、二人は懺悔と赦しを交わす。重かった胸のつかえが、少しずつ解けていく。静かな祠に、二人の息遣いだけが響いた。
※
その日の夜、ささやかな食事会が開かれた。親子の再会、姉妹の再会を祝して。
同時に、全員がサナトリウムに泊まることになった。門の外には警備隊が待機しており、一度出れば戻りにくいためだ。
「久しぶりに母さんのご飯が食べられて嬉しいな」
キッチンでセラを手伝おうと歩くノルドは、うずくまるグラシアス商会の青年を見つけた。
「どうしたんですか?」
青年は、老人たちに全財産を奪われたらしい。
「それは大変な目に遭いましたね」ノルドは、逃げ切れた幸運を心で神に感謝した。
「祈る必要ないわ、ノルドなら負けないから!」
精霊ビュアンの声が聞こえた。
ささやかでなく、華やかな夕食会になった。グラシアス商会の青年が、収納魔術で運んできた大陸の高級食材が並ぶ。
料理の作り手はサナトリウムの料理長、セラ、そして祠で懺悔を終えたカノンだ。
カノンは、つきものが落ちたような表情で鼻歌を歌いながら故郷の料理を作る。
「お前も役に立つじゃないか!」
「よし、借金は少し負けてやろう」
「だから、この後、またゲームをしよう!」
老人勇者たちのくだらぬ遊び話に、普段なら叱るサルサだが、黙って見守っている。それは、目に見えない取引のようなものだ。
「じじいども、片付いたら厳しくしてやる!」小さく呟くサルサに、彼らは微笑み返した。
シシルナ島に迫る目に見えない危機の中、食事会は意外なほど楽しく、笑いと温もりに満ちていた。
ノルドはガブリエルと向き合い、それぞれの近況を語り合い、共通の友セイの話題にも触れた。
一方、ブランナとフィオナは久しぶりの再会に胸を震わせ、感情を抑えきれずに言葉を交わす。
双子ゆえの深い理解と、隠してきた秘密の重さが、笑顔と涙の入り混じる会話を紡ぎ出していた。
マルカスはそんな彼女たちを静かに見守っていた。
「おぃ、酒が足りないぞ!」
「ああ、もっと良いワインをだせ!」
老人英雄たちの傲慢さに、サルサの堪忍袋の緒が切れた。
「爺さんたち、ふざけるなよ! 元気で長生きしてもらわないといけないんだぞ!」
サルサの一言で、執事やメイドがあらゆる酒を回収する。
虎の尾を踏んだことに気づいた老人たちは態度を一変させ、頭を下げる。
「飲み過ぎだよな。わかった、わかった。でも最後の一杯だけお願いします!」
三人は並んで頭を下げる。
「もう一杯だけですよ」
コントのようなやり取りに、食堂は笑いに包まれた。
※
「いい時間になったな。最後に私から重要な発表がある。静かに聞いてくれ!」
サルサの声に、皆の視線が集まった。締めの挨拶ではない、何か別の知らせがある予感――。
セラが優しく励ますように言葉をかける。その声は、仲間たちに一瞬の安堵をもたらした。
そこへ診察を終えたマルカスが戻って来る。
「フィオナの体に異常はなかった。ただの旅の疲れだ。魔力も十分。ただ、休ませておいた」
報告を受け、サルサは深く頷き、ブランナも安心して大きく息を吐いた。
「まず、ラゼル王子の件だ。奴から剣を取り上げる必要がある。これは最優先だ」
「どういうことです?」ノルドが問い返す。
「魔剣の力が暴走すれば、何が起きるか予測できん。ラゼルは危機に陥るたび、剣の意志に導かれ、力を借りている」
嫌な予感が、ノルドの背筋を凍らせる。
「つまり……下手に捕まえようとすると危険、ってことですか」
「そうだ。意識を切り離して剣を奪おうとしたが、剣に警戒されて失敗した」
「本人はしょぼいんだけどな」マルカスが悔しそうに呟いた。
「となると、手は一つですね。僕の収納魔術で取り上げます」
ノルドはきっぱりと言い切った。
※
ガブリエルとカノンは、互いを見つめ合った。
「助祭様、懺悔を聞いてくださいますか?」母カノンの重い声。
「もちろんです。聞かせてください」息子ガブリエルは穏やかに応えた。
「仕方ないことなんだよ! あの呪いは」
マルカスが言うと、サルサは頭を軽くこつんと叩いた。
「このサナトリウムの隅に、小さな精霊王の祠がある。使われていないから、二人で掃除してくれ」
これは、カノン親子にとって苦しいけれど避けられない仕事だ。それは、ノルドでもわかった。
二人は祠へ歩を進める。石造りの小さな祠は埃にまみれ、角には蜘蛛の巣が張っていた。
二人は箒と雑巾を手に取り、黙々と掃除を始める。埃をはらうたび、古い祠の香りとひんやりとした空気が漂った。
「……思ったより大変だね」ガブリエルが小さく笑う。
「あなたに手伝わせてごめんね」カノンが小声で答えた。
「ううん」
掃除が進むにつれ、二人の胸の重さも少しずつ和らぐ。祠がきれいになるたび、気持ちの整理もついていくようだった。
床に膝をつき跪くカノンは、静かに懺悔を始める。
「私は……あの時、あなたを守れなかった」
母としての深い悔恨が声ににじむ。
「でも、もう大丈夫だよ、母さん。僕たちはここにいる」
ガブリエルの声は穏やかでありながら力強く、祠の中に響いた。
祠で、二人は懺悔と赦しを交わす。重かった胸のつかえが、少しずつ解けていく。静かな祠に、二人の息遣いだけが響いた。
※
その日の夜、ささやかな食事会が開かれた。親子の再会、姉妹の再会を祝して。
同時に、全員がサナトリウムに泊まることになった。門の外には警備隊が待機しており、一度出れば戻りにくいためだ。
「久しぶりに母さんのご飯が食べられて嬉しいな」
キッチンでセラを手伝おうと歩くノルドは、うずくまるグラシアス商会の青年を見つけた。
「どうしたんですか?」
青年は、老人たちに全財産を奪われたらしい。
「それは大変な目に遭いましたね」ノルドは、逃げ切れた幸運を心で神に感謝した。
「祈る必要ないわ、ノルドなら負けないから!」
精霊ビュアンの声が聞こえた。
ささやかでなく、華やかな夕食会になった。グラシアス商会の青年が、収納魔術で運んできた大陸の高級食材が並ぶ。
料理の作り手はサナトリウムの料理長、セラ、そして祠で懺悔を終えたカノンだ。
カノンは、つきものが落ちたような表情で鼻歌を歌いながら故郷の料理を作る。
「お前も役に立つじゃないか!」
「よし、借金は少し負けてやろう」
「だから、この後、またゲームをしよう!」
老人勇者たちのくだらぬ遊び話に、普段なら叱るサルサだが、黙って見守っている。それは、目に見えない取引のようなものだ。
「じじいども、片付いたら厳しくしてやる!」小さく呟くサルサに、彼らは微笑み返した。
シシルナ島に迫る目に見えない危機の中、食事会は意外なほど楽しく、笑いと温もりに満ちていた。
ノルドはガブリエルと向き合い、それぞれの近況を語り合い、共通の友セイの話題にも触れた。
一方、ブランナとフィオナは久しぶりの再会に胸を震わせ、感情を抑えきれずに言葉を交わす。
双子ゆえの深い理解と、隠してきた秘密の重さが、笑顔と涙の入り混じる会話を紡ぎ出していた。
マルカスはそんな彼女たちを静かに見守っていた。
「おぃ、酒が足りないぞ!」
「ああ、もっと良いワインをだせ!」
老人英雄たちの傲慢さに、サルサの堪忍袋の緒が切れた。
「爺さんたち、ふざけるなよ! 元気で長生きしてもらわないといけないんだぞ!」
サルサの一言で、執事やメイドがあらゆる酒を回収する。
虎の尾を踏んだことに気づいた老人たちは態度を一変させ、頭を下げる。
「飲み過ぎだよな。わかった、わかった。でも最後の一杯だけお願いします!」
三人は並んで頭を下げる。
「もう一杯だけですよ」
コントのようなやり取りに、食堂は笑いに包まれた。
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サルサの声に、皆の視線が集まった。締めの挨拶ではない、何か別の知らせがある予感――。
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