15 / 221
夕食会
しおりを挟む「簡単な物ですが、お召し上がりください」食卓には、シシリア島の伝統的な料理が美味しそうに並んでいる。
ライスボール、フリッター、トマトとモッツァレラのサラダ、マグロのタルタルなどの前菜に、ツナのパスタが添えられている。
食べることが大好きなリコは、その色鮮やかな皿に目を輝かせ、手伝い中からこの時を心待ちにしていた。
「ごめんごめん、ヴァルにはこれだよ!」
ヴァルは物珍しげに視線を向け、特別な肉が皿に置かれると興味を示した。
「これ、ノシロさんちの特別な肉だよ!」匂いを確かめて満足したように食べ始めた。
「そうだ、少しお待ちを」グラシアスは、荷車から白と赤のワインを持ってきた。
「今日の特別料理のために、特別なワインを選んできたぞ!」彼の目は輝き、心の底から嬉しそうだ。
「せっかくだから、乾杯しましょう!」彼は興奮気味に言った。
「何に?」リコが興味津々で尋ねる。
「そうだな。ノルド君の成人祝いをしよう」グラシアスは微笑み、ノルドの顔が赤くなるのを見て満足げに笑った。
「かんぱーい!」と声が上がり、「ワオーン!」と小狼の乾杯の声が響く。
グラスが静かにぶつかる音が、心地よいハーモニーを奏でた。
セラは嬉しそうに微笑み、ノルドは恥ずかしさを隠し切れずに視線を外した。
普段はしっかり者の彼も、この時は特別な気分なのだろう。
「お味の方はどうでしょうか?」セラが心配げに尋ねる。
「とても美味しいです!」グラシアスが明るい声で応じた。
「さすが上級料理人です」
「うん! 毎日でも食べたい!」リコは尻尾を振って言ったが、ノルドはすぐに否定する。
「駄目だ! 母さんが疲れてしまう」
メインには、マリネしてグリルし、レモンとオリーブで味付けされた魔兎が用意されている。
「これ、見て!」リコが目を輝かせながら魔兎を指差した。
「すごく美味しそう!」
近くの魔物の森から微かに魔物の動き出す夜の雰囲気は、誰も気にしていない。
食事もあらかた食べ尽くし、セラがふと思い出したように、「そういえば、デザートがあるの!」と言いながらリコに合図すると、彼女はよたよたと運んできた。
「私が作ったデザート! 見て、私の初めての料理だよ!」
形が崩れたケーキを誇らしげに見せる。
「食べて大丈夫か?」グラシアスは心配そうに眉をひそめた。
「形は少し悪いけど、きっと美味しいよ!」
リコは自信満々に言った。彼女の目には、一緒に笑い合える仲間たちの姿に映っている。
皆が一口食べると、絶妙な甘さが口の中に広がり、グラシアスが笑顔で言った。
「意外と美味いな!」
「リコ、ありがとう! これが一番の驚きだ!」ノルドも嬉しそうに続けた。
セラは、その様子を見て満足そうに微笑んでいる。
ヴァルは興味を示さず、今度は魔兎を一匹丸ごと食べていたが、周囲の楽しげな雰囲気には少しだけ気を取られてた。
※
リコとノルドはワインに酔い、安心しきった表情で眠っている。
「リコ、帰るぞ。商談の続きはまた明日だ」
グラシアスも少し酔っているが、ふと思い立ったように声をかける。
「嫌だ! 泊まっていく!」リコはセラの腕にしがみつき、子どものように離れようとしない。
「いいですよ、泊まっていってください。部屋はいくらでもありますし……あ、そうだ、これも試してみてください」
セラは穏やかに微笑みながら、ノルドが作ったマジックポーションを手渡した。
「それはありがたい! 確かに、町まで少し距離もありますから……助かります!」
グラシアスはポーションを眺め、瞬時に悟った。
『魔物の森に行かせたのは、魔力を消耗させて、この回復薬の効果を実感させるためか。さすがに抜け目ないな……』と、心の中でつぶやく。
その晩、リコはセラのそばに寄り添い、満ち足りた表情でぐっすりと眠っていた。
ノルドも彼女が幸せそうな様子に安堵し、珍しく嫉妬も見せず、静かに微笑んでいた。
だが、ヴァルをセラの部屋の前で見張りにつかせることも忘れなかった。
翌朝、みんなで簡単な朝食をとると、ヴァルとリコは外に散歩に出かけた。
リコは鳥のように軽やかに跳ね、楽しげに笑いながら、見つけたものに目を輝かせてはヴァルを振り返って話しかける。
「ヴァル、見て見て!あれ、養蜂箱だよね?」
リコは目を輝かせ、箱に向かって駆け寄ろうとする。
「ワオーン」ヴァルは低く唸って注意を促す。
「あっ、そっかぁ。刺されちゃうよね……。じゃあ、後でノルドに蜂蜜もらおうっと!」
リコはヴァルの言葉を理解し、嬉しそうに笑うと、小川を越えて、花畑や林の中をヴァルと共に駆け回り始めた。
その頃、セラが見守る中、ノルドとグラシアスが向かい合い、商談を始めている。
「さて……ノルド君、商談を始めましょうか」セラは控えめに微笑み、二人のやり取りをじっと見守っている。
グラシアスは空間魔法でリカバリーポーションの原料を取り出し、机の上にそっと並べた。
「どうだい? これが私の誇る自慢の原料だよ」
グラシアスはわずかに口元を歪め、狡猾な笑みを浮かべながらノルドの反応を楽しんでいる。
「なんて綺麗な粉末なんだ……町で手に入れたものとは全く違う!」
ノルドの目は輝き、粉末に釘付けだ。
『やはり、ノルは根っからの薬師だ。良い食材を見つけた時との私と同じ目をしている』
セラは内心で微笑んだ。
「これはね、野生じゃなく栽培されたものなんだ。そして、加工は一流の職人が工場で行っている。農家も工房も、最高の腕を持つ者たちが携わっている」
「栽培できるのか……?」
「ノルド、そこまでやったら体がいくつあっても足りませんよ!」
セラは思わず口を挟んだが、優しい目でノルドを見守っている。
「まったくだ、本当にやりかねないからな」
グラシアスも笑っているが、その目はノルドの意気込みを試すかのように鋭い。
「それでは、支払いと金額関係は、私がやります。ノルド出ていなさい」
セラの出番だ。それはまだ、ノルドには、取り扱う金額が大きすぎるからだ。
「サイレント」グラシアスが静音魔法をかける。
薬の材料を買い、ノルドが作ったマジックポーションや蜂蜜飴をたっぷりと買い込んだグラシアスは、満足そうに取引証文を書き上げる。
セラは、大切に、ノルド専用の書類入れと財布にしまった。
昼前にはすべての商談が終わり、荷車に買い込んだ品や依頼品を積み込むと、グラシアスの用事も完了した。
セラが手土産に渡した蜂蜜ケーキを受け取り、帰路に着く船の時間が迫る。
「また来るね!」リコが荷台の後ろから顔を出して手を振る。
グラシアスもまた帰りたくない気持ちを抱えながら、荷車をゆっくりと出発させた。
※
ノルドが、ヴァルと港町を歩いていると微かに見覚えのある匂いがした。
「おーい、ノルド!」
物凄い速さで走って声をかけてきたのは、リコだった。小さなキッチンエプロンをしている。
「どうしているの?」彼は目を見開き、驚いて質問した。
「へへへ。この島気に入ったから、住むことにした」
彼女はにこにこと笑って答えた。
「どこに住んでるの?」
「魚市場の中の料理屋だよ。魚が美味しいんだ。住み込みで働いてる」
「じゃあ、休みになったら、遊びにおいで。母さんにご飯作ってもらおう!」
「楽しみ! じゃあ、仕事に戻るね。またね!」
そういうと、あっという間にいなくなった。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
8
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる