完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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祝祭 最終日

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祝祭最終日。大広場。最後の大商い日。
「今年、最後の大安売りだ」

「今日は、夜には屋台が無いよ。食い溜めしときな!」

 商売熱心な人々の中で、一人つまらなそうにしているのが、ノシロである。

「やる気出しなさいよ!」妻のリジェに怒られる。いつもなら、その一言で、気持ちを切り替えるのだが。

「だがなぁ、俺が、あの親子を巻き込んだんだよ」

「それは、私もよ。早く売り切って、手伝いをしましょう!」

「ああ。そうだな」殆どの物は、リジェが売り切っている。残りは簡単に売れないものばかりだ。

 ニコラは、手下に、色々と指示していたようだが、ノシロ達は、今回は仕事を優先しろと外されたのだ。

(あなたは優しすぎる。だから、母さんは手伝わせないのよ)

 リジェは、ノシロを優しく見つめた。

 祝祭の最後に、聖女が登壇する予定の為、大人数が見れるように、広場の露店は、夕方までには、片付けが指示されていた。

「だがよう、昨日、聖女様が襲われたらしいぞ!」

「聞いたぞ、暗殺者達だってよ。怖い、怖い」

「聖女様は、無事だそうだ。ローカン警備総長が、又、捕まえたらしいぞ」

 箝口令が、引かれているはずなのに、噂が流れている。

「聖女の登壇はあるのか?」

「無理だろう。もし、怪我でもしたら国同士の大問題になるぞ」

「いや、見れるらしいぞ。場所とりだ」

 その話が広がり、どんどんと人が集まりつつあった。


 実際、聖王国側の結論も登壇中止だったが、ネフェルが強硬に、登壇すると言って聞かなかった。

 聖王国の者は、早朝、全員で来て話をするようにと、ネフェルに言われてサナトリウムに打ち合わせに来ていた。

「ここで、出ない訳にはいかないわ」

「しかし、もしお怪我をされては……」

「そう、私の従魔が見たいのね。可愛いわよ」

 天から、グリフォンが舞い降りてきた。

 その従魔を前に反対する者はいなくなった。



 暗殺者集団は、顔しか動かない。だが、彼らが、簡単に口を割るわけがない。

「わかってるよ。だが、元海賊を舐めてもらっちゃ困るね。死ねるのがありがたいと思えるようにしてやるよ。やれ!」

 ニコラの指示で、暗殺者達の聞き取りが行われる。

「司祭様、どうしました? 顔色が悪いですね。奴らは口が硬くてね」

 早朝、聖王国の大使館に残っていたのは、なぜか彼一人だった。

「聖女様でも迎えに行ったのか? だが、わしを一人にするとは……」

「お誘いに参りました。暗殺者集団の尋問です」メグミというニコラのメイドに、半ば強引に連れてこられたのが、この現場である。

「何か話してくれると良いのですが……」

「そうだな」司祭の顔は青く、冬なのに、汗が落ちる。

「司祭様も何か思い出しましたか?」メグミは、微笑んだ。


 誰もいなくなった聖王国の大使館には、ローカンとクライド、警備員たち、そしてヴァルがやって来た。

「誰かいませんか? 警備総長のローカンです」
 ローカンとクライドが入り口で返事を待っている間、ヴァルはどんどん館内へ進んでいく。

「おい! ヴァル君、勝手に! ここは大使館だぞ、シシルナ島にあるけど、聖王国の……」

 ヴァルが視界から消えると、仕方なく二人は後を追って屋敷に侵入した。

「ヴァル君、どこ?」

 やっとのことで、小さな狼を見つけた。どうやら屋敷中の匂いを嗅ぎ回っていたようだ。

「ヴァル君、帰ろう」

 ヴァルは突然、高級な扉に全力でぶつかり、そのまま倒れてはまたぶつかる。まるで何かに取り憑かれたかのように、必死に。

「何してるの? 大使館の扉が傷つくよ。ヴァル君も怪我するよ……」

 ローカンが宥めながら扉に手をかけるが、鍵がかかっている。

 それでも諦めずに、ヴァルは繰り返す。

「もう、どうにでもなれだ。待って、僕がやる」

 クライドが近くの部屋から机を持ってきて、扉に向かって放り投げた。

「おい! クライド、お前まで!」

「ローカン警備総長も手伝ってください」

「お前を強くしたのは、こんなことのためじゃないんだが……全力で一緒にぶつかるぞ」

 どーん、と扉の鍵が壊れた音がして、二人は部屋に足を踏み入れた。

 そこは司祭の使っていた部屋で、なぜか執事の服と見慣れない武器が大量に置かれていた。

「すごいな、これは武器庫か?」

「いや、ここは司祭の部屋だ。机の書類と武器を全て押収する。クライド、外にいる警備員を呼んできてくれ」



「以上が事の次第です」ローカンが、島主に報告を終える。

「良い仕事をしたな。ローカンとクライドには、褒美として、休暇を与える」

「え? 首ですか?」

「はぁ? ただの休みだよ。祝祭最終日楽しんでくれたまえ」

 有無を言わさぬ島主の態度に、ローカンとクライドは慌てて退出して行った。

 入れ替わりに、ニコラが入って来た。

「さすがに、殺し合いにはならなかったみたいだね」

「ああ、暗殺者だからね。だが、これで奴はもう、大使館には戻れないだろうな」

「司祭は、自白したし、証拠も出て来た。あとは、暗殺者の最後の一人を捕まえるだけだ」

「じゃあ、英雄様にご協力を」

「いや、ここから先なんだが、ノルドに任せるよ」

「本当に? 危険すぎる。セラさんは、動けるのか?」

「いいや、彼女にも、我慢してもらう。彼との約束だ」


 セラが目を覚ますと、そこはベッドの中だった。
「良い花の匂い……ノルド、どこ?」

「悪いな、グラシアスだ。ノルド君は祝祭に行ってる」

「じゃあ、私も行かなくちゃ」

「駄目だ。まだ、起き上がれる状態じゃないよ。ノルドはリコの聖歌合唱を観に行ってる。暗殺者は、英雄様が捕まえたよ」

「グラシアス、嘘が下手ね」

「ああ、下手だ。すまん」

「怖い夢を見てたの。昔のこと。ノルドを抱えて、王宮を抜け出してから、グラシアスに助けを求めるまでのこと。あの時、ありがとう……助かったわ」

「ずっと、貴方に憧れていたんだ。だから、力になれて嬉しかった。荷運び人というジョブだったから諦めて、商人になったから」

「そうなの? 今では、大商会なのにね」

「ああ、そうさ。セラ様、この島には、いや、ノルドの周りには、彼を助けてくれる人がたくさんできたよ。貴方が育てたおかげだ」

「良かった……あの子の持っている障害は私の責任だもの」

「違う。貴方は、すぐに自分のせいにするけど、それは間違ってる」

「でも、今はノルドを助けに行くわ……駄目だ、眠い……」

 起きあがろうとするセラを支えた。

「これはノルドの試練なんだ。すまない」

 セラは、横になって再び眠りに落ちた。扉が開き、カノンが入ってきた。

「全くもう。グラシアス、全然説得できてないじゃないの! あんたも寝てどうするの!」彼を叩いて起こす。

「ああ、睡眠効果が強すぎだろ、この花。でも助かったよ。俺はセラ様がやりたいことを止められないから」
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