シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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そして、船を行く

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 聖王国の大司祭ルカの邸宅。

「じゃあ、お前は、その親子を、シシルナ島に亡命の依頼をしろと言うのか?」

 ルカは、グラシアスの言葉に不快感を露わにしていた。

「はい」

グラシアスはきっぱりと答える。

「お前ごときの小さな商会と話をしてやるだけでも、感謝しろ」

 ルカは鼻で笑うように言った。

「もちろんです。ルカ大司祭に、お願いするだけではありません。実は、耳寄りなお話があるのですが……」

「ふん、どうせろくな話ではないだろう。今、わしは忙しいのだ。下がれ!」

 ルカは苛立ちを隠さず、手で追い払う仕草をした。

「わかっております。枢機卿の選挙も近いですし」

「ふん、お前に何がわかる?」

 ルカは冷たく言い放った。

「わかりませんが、聖女様の居場所なら知っております」

「はぁ! 嘘も大概にしろ! 百年だ、百年もおられないのだ」

 ルカの顔に驚愕が浮かんだ。

「わかりました。それでは、別の方にお話しに行きます」

 グラシアスは静かに席を立ち、出口に向かった。

「ま、待て。 本当なんだな?」

 ルカは慌てて手を伸ばし、声を張り上げる。

「お話しを聞いて、いただけますか?」

「わしを頼ってきた商人を邪険にする訳がない」

 ルカの表情が少し和らいだ。

「それは良かったです。ちなみに、聖女様は、既に、聖王国の聖都に居られます」

 グラシアスの言葉に、ルカは言葉を失った。



 枢機卿選挙の日になった。一人の枢機卿が亡くなり、新たな枢機卿を選ぶ日だ。

 聖王国議会では、立候補者が順に演説を行う。有力者の演説には大きな拍手が送られ、すでに結果は決まったかのような空気が漂っていた。

 その様子を見て、演説を辞退する者も次々と現れる。

「それでは、ルカ大司祭、お話しされますか?」

「はい」

「それでは、手短にお願いしますね」

 司会者の司祭も早く終わらせたいらしく、気のない態度で促した。

 ルカは自信を持って立ち上がり、演壇へ向かう。

「それでは、手短に。我が国に、いや、この大陸に聖女様が現れなくなって、どれほどの年月が経ったでしょうか?」

 何を当たり前のことを言い出すのか、と会場の誰もが退屈げな表情を見せる。

「少しずつ穢れが広がっております。特にここ数年、魔物の森が勢いを増していることが、その証拠です」

「わかっておる。だからこそ対策を練っているのだろう」先ほど演説を終えた大司祭の話を引き合いに出し、皮肉交じりに語る。

「ふふふ……場当たり的ですな」

「馬鹿にするつもりか?」有力な大司祭の支援者たちが声を荒らげる。

「とんでもない。ただ――」

「ルカ大司祭、お時間です」司会の司祭が遮ろうとする。

 しかし、ルカはゆっくりと懐から一枚の書状を取り出し、堂々と掲げた。

「ここに委任状があります。読ませていただきます。我、聖女ネフェルは、ルカを私の後見人に指名します――以上です」

 その瞬間、議場がざわめきに包まれた。

「ルカ! 今、何と言った?」最年長の枢機卿が目を見開く。

「本当か? 我々がどれほど真剣に聖女を探していると思っている!」聖王国騎士団の長が激昂する。

「もし嘘なら偽証罪では済まないぞ。極刑になるぞ!」

 その時――

 重々しい音を立てて、閉ざされていた議会の扉が静かに開いた。扉の向こうには、小さな少女が立っている。

「何事だ! 選挙が終わるまでは扉を開けるなと命じておいたはずだ。警備は何をしている!

 だが警備隊は、少女の前に跪き、最敬礼を示している。その隣にいる聖王国随一の鑑定士も、同様の敬意を表していた。

「そうなの? ごめんなさいね、知らなかったわ」

「何者だ!」

「ああ、名乗らないとね。私は――ネフェル」

「お前が偽聖女か! 鑑定士は――」

「あなた、失礼ね。その前に、この空気が汚れているから、綺麗にしましょう」

 少女が両手を挙げ、静かに振り下ろすと、眩いばかりの「祝福」の光が議事堂内に降り注いだ。光は周囲に広がり、穢れを一掃する。

 その光景を目の当たりにした瞬間、そこにいた全員の表情が驚愕に変わる。

「これが……聖書に記されている聖なる光か」

「生きていてよかった……」

「聖女様万歳!」

 ついに悲願であった聖女が降臨したのだ。

 その場にいた聖王国民は、次々に少女へ跪いた。

 こうしてルカは新たな枢機卿に選ばれ、ネフェルたちは彼の準備した邸宅へ住むことになった。多くの崇拝する使用人たちと共に。

「窮屈だけど、しばらくは我慢するわ。アマリもあんまり体が強くないしね」

「いや、こっちこそありがとう」

 ルカ枢機卿との交渉は無事にまとまり、グラシアスは聖王国御用商人の地位を手に入れた。



「グラシアス。ありがとう」

 聖王国の船が行く。

 シシルナ島に。

 セラ親子を乗せて。

「さて、行商して帰るか」

 ここで大丈夫よ、とセラに言われたが、次の季節には、シシルナ島に行くつもりだ。
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