シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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対決

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 ノルドとヴァルは罠の準備を終え、森の中の小屋で昼寝をしていた。思っていたよりずっと早く終わったからだ。

「ノルド、来るよ!」

「おはよう! リコ!」

「おはようじゃないわよ! 本当に呑気ね……」

 リコは思わず息をついた。ノルドはすっくと立ち上がると、ヴァルも体を振って準備を整えた。

「リコ、危ないから下がってて」

 小屋を出て、ナゼルを迎え撃つ。



 遡って、その日の昼。

「おー、やっぱり、居たな」

 家の裏の小屋で製薬をしていると、ローカンとクライドが現れた。

「どうしたんですか?」

「詳しいことはさっぱりわからん。ただ、手伝いをしようと思ってな」

「ガレア様の指示ですか?」

「違う。俺たちだって、何も見えてないわけじゃない。恩を返させてくれ」

 ローカンとクライドの真剣な顔に、ノルドは少し考えた後、静かに頷いた。

「……罠張りの手伝いだけで十分です」

 大きな台車に罠を積み、魔物の森へと向かう。クライドが台車を引っ張りながら、得意げに言う。

「どうだ! すごいだろう! 重戦士になったんだぞ!」

「羨ましいですね、僕も早く――」

「魔物から逃げ回ってたくせにな」

 ローカンの軽口に、クライドはむっとしたが、すぐに笑い返した。

 ノルドは表情を崩さず、淡々と進む。応援が来てくれたことで作業の負担は確かに軽くなった。

 罠を設置し始めた頃、慌ただしい足音と共に声が響いた。

「いたいた! ノルド!」

 振り返ると、ノシロが駆け寄ってくる。

「よくこの場所がわかりましたね」

「まあな、遅くなってすまない。さあ、手伝うぞ!」

 既に腕まくりをしているノシロに、ノルドは少し驚きつつ問いかける。

「ニコラ様の指示ですか?」

「いいえ、母さんは何も。この人がどうしてもって――」

 その背後からリジェが現れ、軽く肩をすくめながら答える。

「ノルドのこと、放っておけないのよ」

「お前もだろう?」

 ノシロの声に、リジェは素早く視線を逸らし、照れ隠しに笑う。

 ノルドはノシロらの言葉に頷き、静かに指示を出した。

「ありがとうございます。罠を張る作業だけです。お願いしたい場所があります」

 作業を終えると彼らには森から出て行ってもらった。

「頑張れよ」心配そうに、みんな去って行った。



「思ったより、奴の移動が遅いな」

 ナゼルの位置は匂いで把握できる。聖王国の大使館からヴァルが持ち帰った奴の遺留品で、匂いを覚えていた。

 森の入り口からこの小屋に至るまで、複数の罠を仕掛けてある。だが、丁寧に回避しているようだ。

「一つくらい罠にかかりそうなものだが、なんて奴だ……」

 ノルドの表情に焦りが浮かぶ中、ようやく姿を現したナゼルは片足を引きずっていた。

「子供騙しの出迎えかと思ったが、やはり子供だったか?」ナゼルが冷ややかな声で挑発する。

「何だと!」

「お前を捕まえて、この島から出してもらうさ」

「捕まえられるものか!」挑発を返しながら、ノルドは木陰に身を隠す。

 しかしナゼルは罠を悉く避け、その一つ一つを巧妙に回避している。優秀なアサシンとしての実力を見せつけていた。

「くそっ! 足さえ動けば、お前なんて――」

 最高級のリカバリーポーションを使っても怪我が治らなかった暗殺者の首領。もし怪我をしていなければ、今頃こちらが捕まっていただろう。三英雄の援護なのだろう。

 だが、この状況でも奴は十分すぎるほど危険だ。

「ああ、そうだ。だが、お前を仕留めるのは俺だ!」

 そう叫びながらも、ノルドはじりじりと距離を取る。

「逃げてばかりでは殺せないぞ!」

 ナゼルは頭上から落ちてくる網を避け、落とし穴も正確に回避しながら接近してくる。

 森の木々の隙間から、花火の光がちらちらと差し込んだ。

 爆音とともに、祭りの歓声が遠くから響く。

「そろそろ、行こうか!」

 その音を合図に、ノルドはダーツを投げ始めた。

「おいおい、また子供騙しか!」

 挑発的に笑いながらも、ナゼルは防具の厚い部分で受け止め、脚を庇うように地面に膝をついた。

「しゃ、しゃっ」猛毒を塗ったダーツを連続で投げ込む。

 だが、ナゼルには何本ものダーツが刺さっているにもかかわらず、毒は効いていないようだ。

「そんなものが効くわけがないだろう。もう終わりか?」

 ナゼルが立ち上がろうとしたその瞬間、ヴァルが背後から忍び寄った。

「甘いわ!」

 振り返りざま、短剣でヴァルを狙うナゼル。しかしヴァルは高く跳び上がり、木の枝を蹴って罠を落とす。

「くそっ!」

 姿勢を崩したナゼルの前に、液体を浴びせられた毒蛇が落ちてくる。

 必死に剣を振り回して毒蛇を仕留めるナゼル。

「姑息だな……だが思い出したぞ。昔、毒液まみれになった女がいたな。お前も俺たち一族のようだな。毒液でなくて良かったよ」

 ノルドの仕掛けた液体は蜂蜜だった。

「毒液の代わりさ」

 その瞬間、怒り狂った大魔熊たちが迫ってきた。ヴァルが彼らを巣から誘い出していたのだ。

「お前もやられるぞ! 自爆のつもりか?」

「ああ、だが奴らは蜂蜜が好きだからな!」

 しかしいつの間にか、ナゼルが吹き矢を放ち、ノルドの首に刺さっていた。

 その場に崩れ落ちるノルド。慌てて、ヴァルが駆け寄って守ろうとする。

「お前たちは囮だ」

 服を脱ぎ捨て、ナゼルはその場を素早く去った。片足を引き摺りながら。

「がるるるる!」木々を薙ぎ倒しながら、大魔熊たちが迫ってくる。その恐ろしい咆哮が森を震わせ、耳をつんざくように響いた。
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