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別離 さようなら
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シシルナ島の港と、海を一望できる丘に、一つの墓がある。一年前に作られたばかりの新しい墓だ。ちょうど、一周忌にあたる。
ノルドは静かに手を合わせる。頬を伝う涙は止まらない。何度拭っても、胸に残る静かな痛みは消えなかった。
隣にはメイド姿のリコがいて、神妙な面持ちで同じように手を合わせている。
墓石には「ニコラ・ヴァレンシア」の文字が刻まれている。
墓の場所は、ヴァレンシア孤児院の庭の片隅――ニコラが生前、特に好きだった場所だ。
庭からは港を見渡すことができ、海上を行き交う船の様子が見える。シシルナの島風が木々を揺らし、花々を優しく撫でていく。
ニコラは子どもたちとよく笑い合っていたのだろう――そんな光景が浮かぶ。
「そろそろ時間だよ、ノルド君。セラさんによろしく伝えてね」
島主様が声をかける。
「それでは、行きます。また来ますね」
「ぜひ来てください。あ、そうだ、クリームの納品もお願いします」
新たにヴァレンシア商会長に就任したメグミが、笑顔で見送っていた。ノルドは慌てて家に戻らなければならなかった。
ヴァルの背に乗ると、ヴァルは力強く走り出した。
途中、ヴァレンシア孤児院へ向かう荷馬車とすれ違う。
「おーい! ノルド!」
声をかけてきたのはノシロの馬車だ。リジェが二人の間に生まれた小さな子を抱いている。名はニコラ。女の子だが、勝気で元気な子らしい。
「そろそろ、魔兎肉頼むよ! 稼がないといけないからね!」
「わかりました!」
笑って答えるノルドに、ノシロの馬車は勢いよく遠ざかっていった。
丘を降り、森に囲まれた家への登り道を歩く。
「もう、どいつもこいつもノルドに仕事を頼みすぎよ」
さっと現れたのは、風と水の精霊ビュアンだ。精霊の子から成長し、妖精の姿を持つようになっていた。ある事件をきっかけに、ノルドと行動を共にするようになったのだ。
「大丈夫だよ、ビュアン。心配してくれてありがとう!」
「そう。あまり無理を言う奴なら、とっちめてやるからね」
「もう着くから、隠れていて」
家の前には二台の豪華な馬車が並んでいる。
「ですから、これは私人でもあるセラ様のお見送りですから、私が連れて行きます」
「いや、彼女の功績はシシルナ島として無視できない。私が責任を持って」
グラシアスさんとローカンさんが、セラをどちらがサナトリウムに連れて行くかで口論をしている。
「遅くなりました。母さんを運びます」
ノルドが静かに口を開くと、二人ははっとして口を閉ざした。
セラはこの二年でさらに体調を悪化させ、ほとんど歩けなくなっていた。サルサとノルドの根気強い説得により、ようやくサナトリウムへ入ることを承諾したのだ。
「クライドさんとローカンさんは、お母さんの荷物を運んでください。大切なものです」
「ワオーン!」
「さっ、ローカン様、運びましょう。荷物を」
「ああ、ヴァル君の指示だからね」
島主に強く言われていたのだろうが、ローカンは急に素直にうなずいた。
ノルドはセラを背負い、グラシアスの馬車へと運ぼうとする。
「大丈夫よ、ノルド。私、歩けるわ」
セラの声はかすれていたが、優しく響いた。
「違うんだ、母さん。これは僕のわがままだよ――最後くらい、僕に頼ってほしいんだ」
ノルドの言葉に、セラは静かに目を伏せた。
「ありがとう、ノルド」
その言葉を胸に、ノルドはセラを馬車に乗せる。グラシアスが扉を開けると、優しくセラの肩に自分のマフラーを巻いた。
「さあ、行こうか」
セラ親子の家を出発する。ノルドは、この先一人で暮らすための家をすでに見つけていた。
馬車がゆっくりと走り出す。二人が過ごした日々を背に、新しい日々が始まる場所へと向かっていった。――二人の物語はまだ続くのだ。
ノルドは静かに手を合わせる。頬を伝う涙は止まらない。何度拭っても、胸に残る静かな痛みは消えなかった。
隣にはメイド姿のリコがいて、神妙な面持ちで同じように手を合わせている。
墓石には「ニコラ・ヴァレンシア」の文字が刻まれている。
墓の場所は、ヴァレンシア孤児院の庭の片隅――ニコラが生前、特に好きだった場所だ。
庭からは港を見渡すことができ、海上を行き交う船の様子が見える。シシルナの島風が木々を揺らし、花々を優しく撫でていく。
ニコラは子どもたちとよく笑い合っていたのだろう――そんな光景が浮かぶ。
「そろそろ時間だよ、ノルド君。セラさんによろしく伝えてね」
島主様が声をかける。
「それでは、行きます。また来ますね」
「ぜひ来てください。あ、そうだ、クリームの納品もお願いします」
新たにヴァレンシア商会長に就任したメグミが、笑顔で見送っていた。ノルドは慌てて家に戻らなければならなかった。
ヴァルの背に乗ると、ヴァルは力強く走り出した。
途中、ヴァレンシア孤児院へ向かう荷馬車とすれ違う。
「おーい! ノルド!」
声をかけてきたのはノシロの馬車だ。リジェが二人の間に生まれた小さな子を抱いている。名はニコラ。女の子だが、勝気で元気な子らしい。
「そろそろ、魔兎肉頼むよ! 稼がないといけないからね!」
「わかりました!」
笑って答えるノルドに、ノシロの馬車は勢いよく遠ざかっていった。
丘を降り、森に囲まれた家への登り道を歩く。
「もう、どいつもこいつもノルドに仕事を頼みすぎよ」
さっと現れたのは、風と水の精霊ビュアンだ。精霊の子から成長し、妖精の姿を持つようになっていた。ある事件をきっかけに、ノルドと行動を共にするようになったのだ。
「大丈夫だよ、ビュアン。心配してくれてありがとう!」
「そう。あまり無理を言う奴なら、とっちめてやるからね」
「もう着くから、隠れていて」
家の前には二台の豪華な馬車が並んでいる。
「ですから、これは私人でもあるセラ様のお見送りですから、私が連れて行きます」
「いや、彼女の功績はシシルナ島として無視できない。私が責任を持って」
グラシアスさんとローカンさんが、セラをどちらがサナトリウムに連れて行くかで口論をしている。
「遅くなりました。母さんを運びます」
ノルドが静かに口を開くと、二人ははっとして口を閉ざした。
セラはこの二年でさらに体調を悪化させ、ほとんど歩けなくなっていた。サルサとノルドの根気強い説得により、ようやくサナトリウムへ入ることを承諾したのだ。
「クライドさんとローカンさんは、お母さんの荷物を運んでください。大切なものです」
「ワオーン!」
「さっ、ローカン様、運びましょう。荷物を」
「ああ、ヴァル君の指示だからね」
島主に強く言われていたのだろうが、ローカンは急に素直にうなずいた。
ノルドはセラを背負い、グラシアスの馬車へと運ぼうとする。
「大丈夫よ、ノルド。私、歩けるわ」
セラの声はかすれていたが、優しく響いた。
「違うんだ、母さん。これは僕のわがままだよ――最後くらい、僕に頼ってほしいんだ」
ノルドの言葉に、セラは静かに目を伏せた。
「ありがとう、ノルド」
その言葉を胸に、ノルドはセラを馬車に乗せる。グラシアスが扉を開けると、優しくセラの肩に自分のマフラーを巻いた。
「さあ、行こうか」
セラ親子の家を出発する。ノルドは、この先一人で暮らすための家をすでに見つけていた。
馬車がゆっくりと走り出す。二人が過ごした日々を背に、新しい日々が始まる場所へと向かっていった。――二人の物語はまだ続くのだ。
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