シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
49 / 238

決着

しおりを挟む
 ナゼルは、力の入っていないノルドの剣を飛ばした。剣は遠くに転がっていく。

「もう、片方の足の腱も切れば動けまい」

 ナゼルはノルドを蹴り、礼拝堂の床に倒した。体の小さな子供は、難なく倒れた。

 小狼は、飛ばされた剣を取りに走る。

「全く、手間をかけさせやがって」

 ナゼルがノルドの脚に剣を刺そうとした瞬間、礼拝堂の空気がざわめいた。

 突如として吹き荒れた突風が、馬乗りになっているナゼルの体を吹き飛ばした。暗殺者の体は壁に激突する。

『本当に、呆れるほど、弱い狼ね』

その声は、炎を回っている小さな精霊たちの中から聞こえる。エルフツリーにいた時に、聞いた声だ。

「ありがとう、助かった」

『お父様の礼拝堂を綺麗にして、清き水をくれたお礼よ』

「大したことはしてないよ」

ヴァルは、驚きつつも立ち上がったノルドに剣を届けた。

「痛いなぁ。お前、精霊使いだったのか!」

ナゼルは立ち上がろうとするが、ふらつきながら片手で壁にすがり、体勢を整える。

『話の邪魔をするな』

再び突風が吹き荒れ、今度はナゼルの体を軽々と天井の壁に叩きつけ、さらに床に落とした。

『燃やしなさい、火の精霊の子よ』

 祭壇の光を回っていた小さな火の精霊たちが、一斉にナゼルに向かって飛んでいく。

『あの子たちは、お前の焚べた護符に力をもらった』

「貴方は、精霊王様なのですか?」

『馬鹿な子ね。私は、シシルナの風と水の精霊よ』


 ノルドは、精霊と話したことで冷静さを取り戻し、ヒールポーションを使って体力を回復させた。

 再び、剣での撃ち合いが始まる。しかし、ナゼルはもう薬も毒も使い切っており、剣は折れ、体は数回の壁への激突と炎に焼かれて悲鳴をあげ、疲れで動けなくなっていた。

 ノルドの剣やヴァルの攻撃を受けて、ナゼルは徐々に追い詰められていく。

 ついに、ナゼルは命乞いを始めた。

「助けてくれ! ポーションをくれ。高く買うから! 俺は戦いたくなかったんだ!」

「ふうん」

「お前たちを殺す指示をした奴を教えるから」

 ナゼルは、必死に武器を手にしたままだ。彼の考えていることが手に取るようにわかる。

「母さんが言ってた。迷うな、最後まで戦え、と」
 
ノルドは、剣をしっかりと握りしめた。震えはもうない。目の前で命乞いをするナゼルを見ても、一瞬の躊躇いもなく、剣を振り下ろした。

 もう、涙は出なかった。



 ヴァルの雄叫びで、セラは目を覚ました。一瞬で。

「助けに行かなきゃ」レイラは、寝床から、飛び起きた。

「目が覚めた? 大丈夫そうね」カノンは、セラの服と剣を差し出した。

「あなたは……」カノンからの悪意は感じず、

「話しは後よ。グラシアスが馬車の準備をしてるわ」

 セラ達が駆けつけた時には、決着がついていた。



 階段を一歩一歩、ゆっくりと登る。

 戦いが終わった体は重く、剣を握る手には微かな震えが残っている。だがノルドは足を止めなかった。

 階段を登りきると、そこにはセラ、グラシアス、島主、リコ、そしてローカン達が待っていた。皆の視線がノルドに集まる。

「……よくやったな」グラシアスが一歩前に出て静かに声をかける。その瞳には、かつての冒険者だった頃の自分を重ねるような色があった。

「大丈夫か?」島主が心配そうに尋ねる。

「平気だよ」ノルドは短く答える。声は掠れていたが、響くものがあった。

 無言のまま見つめるセラの瞳には、安堵と誇りが浮かんでいるように見えた。ノルドはそれに気づかないふりをする。

 リコが駆け寄り、目を輝かせながら声を弾ませる。「すごかったよ!あんな風に戦えるなんて!」リコが、監視役だったようだ。扉から、様子を伺っていたのを知っていた。

 その言葉に、ノルドは少しだけ笑みを浮かべた。
「大したことはしてないよ」と言いながら剣を鞘に収める。その動作は、わずかだがどこか凛としていた。

 皆の視線を受けながら、ノルドは少し背筋を伸ばす。誰かに認められたという実感が、胸の奥に静かに広がっていく。

 島主が手を叩き、「ローカン、クライド、後片付けだ」と促すと、一同は礼拝堂へ向かって歩き出す。

 上空に、グリフォンが飛んでいるのが見えた。ネフェルやアマリ、三英雄が背に乗っていて、ノルドに手を振ると、飛び去って行った。

 ノルドは最後にもう一度階段を振り返る。静寂の中、礼拝堂の扉は今もそこに佇み、彼を見送っているかのようだった。

「さあ、帰りましょう。私達の家に」

「ワオーン」

「母さんのご飯が食べたいな」


 祝祭が終わり、一つの季節が終わった。


 それは、ノルドの子供時代の終わりだった。


 そして、二年の月日が流れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!

あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。 モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。 実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。 あらゆるモンスターへの深い知識。 様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。 自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。 降って湧いた凶悪な依頼の数々。 オースはこれを次々に解決する。 誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。 さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。 やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...