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…アーサーって、パッと見は冷たそうで怖いんだけど、すごくいい奴なんだよなぁ…。
夜寝る前、抱えた枕に頭を乗せて、ボーっとしながらその日に見た彼を思い出してしまう。
負けん気の強い新人のカールは団長に憧れてるって言ってたし、気難しいベテラン副団長のエヴァンズとも親しくなっていた。
私に対しては、良い意味で荒くれ男たちと一緒くたにせず、かといって遠ざけるでもなく、自然とみんなの輪に加われるように、手を差し伸べてくれているのを感じる。
ほぼ女性のいない騎士団で私がやりづらくないよう、さりげなく常に気を遣ってくれていると思う。
それも団長の役割とはいえ、簡単なことではないはずだ。
極限状態に追い詰められることもあるこの騎士団で、どんな時も団員を無下にしないアーサーの振る舞いには、何か彼自身の意志のようなものを感じる。
そこに私は命を預けられる安心感と信頼を抱いている。
…それにアーサーって、パッと見は冷たそうで怖いんだけど、実はカッコいいよなぁ…。
最近は彼の姿が視界に入る度、なんとなく目で追ってしまう。
戦えば鋭い鞭のようにしなる四肢と彫り込まれたような精悍な身体は、宿舎で近くに寄るとなんだか良い匂いがする。軍議で何かを思案する時も、流麗な眦から覗く瞳が書類を眺めると、やや伏せられた瞼から流れる長い睫毛が艶めいている。
ふと目が合うと、スッキリ整った力強い顎が小首をかしげるように傾いて、形の良い唇がかすかに微笑む。
私は、また見入ってしまったと慌てて目を逸らす。
毎晩のこのひと時、彼を思うとキラキラしたような温かい幸福感に満たされていた。
私はこの気持ちに自分で形を与えることができず、ある日、騎士団へ品物を卸してくれる行商人のおかみさんに、アーサーの名前を伏せて打ち明けてみた。
「こんなムサい男所帯で平然としてるように見えるイヴさんにも、ちゃんとそういう気持ちがあるのねぇ。なんだか嬉しくなっちゃうわぁ。」
ころんとしたリスのように愛らしいその人は、つぶらな瞳を輝かせてしきりに頷きながら、何故か喜んでくれている。
私はなんだか変な汗が止まらない。
「は、はぁ。あの、どちらかというと気にならないようにしたくて、ちょっと困っているんです。」
「困ることなんてないじゃない?彼を好きな気持ちは大事に持っていて良いと思うなぁ。誰にでもそう思えるわけじゃないからさ。」
うーん、たしかに。
この騎士団に嫌いな人はいないし、みんな好きだけど、アーサーに対しての『好き』だけは少し違う感じがする。
「きっとその人は、イヴさんが恋しちゃうくらい素敵な人なのね。
毎日大変でロマンチックな雰囲気も出ないかもしれないけど、想いが成就するように祈ってるわよっ。」
「…えっ?恋し…?!
い、いえ!そういうんじゃないので…だ、だいじょうぶです!!!」
頭に血がのぼる。
顔がカァっと熱くなり、こみ上げる恥ずかしさと認めたくない気持ちがせり上がる。
…なんか心臓が口から出てきてきそう。苦しい。
私は彼女に礼を言ってその場を辞し、ドスドスと廊下を踏みしめながら歩く。
ちっ…違う違うちがうっ!!!
アーサーなんか…ちょっと頼りがいがあってカッコイイ気がしたからってだけで…っ
そうだ!上官として尊敬してるだけだよ、そうだよ!!
…
「おっ?イヴリンじゃねーか?おーい!」
私はビクリと肩を振るわせ、がなり立てるような大声のした方へ振り向く。
いつの間にか共有スペースに足を踏み入れていた。
酒盛りでもしていたのか、ワイン瓶といくつかの肴を囲んでソファに座る数人の団員達が見える。
毛むくじゃらのぶっとい腕をぶんぶん振り、上機嫌のエヴァンズと彼の小隊の若手達、そして…
「検品お疲れさま。遅くまでありがとう。」
温かい労いの声が向けられる。
いま会いたくない顔がそこにあった。
…アーサーって、パッと見は冷たそうで怖いんだけど、すごくいい奴なんだよなぁ…。
夜寝る前、抱えた枕に頭を乗せて、ボーっとしながらその日に見た彼を思い出してしまう。
負けん気の強い新人のカールは団長に憧れてるって言ってたし、気難しいベテラン副団長のエヴァンズとも親しくなっていた。
私に対しては、良い意味で荒くれ男たちと一緒くたにせず、かといって遠ざけるでもなく、自然とみんなの輪に加われるように、手を差し伸べてくれているのを感じる。
ほぼ女性のいない騎士団で私がやりづらくないよう、さりげなく常に気を遣ってくれていると思う。
それも団長の役割とはいえ、簡単なことではないはずだ。
極限状態に追い詰められることもあるこの騎士団で、どんな時も団員を無下にしないアーサーの振る舞いには、何か彼自身の意志のようなものを感じる。
そこに私は命を預けられる安心感と信頼を抱いている。
…それにアーサーって、パッと見は冷たそうで怖いんだけど、実はカッコいいよなぁ…。
最近は彼の姿が視界に入る度、なんとなく目で追ってしまう。
戦えば鋭い鞭のようにしなる四肢と彫り込まれたような精悍な身体は、宿舎で近くに寄るとなんだか良い匂いがする。軍議で何かを思案する時も、流麗な眦から覗く瞳が書類を眺めると、やや伏せられた瞼から流れる長い睫毛が艶めいている。
ふと目が合うと、スッキリ整った力強い顎が小首をかしげるように傾いて、形の良い唇がかすかに微笑む。
私は、また見入ってしまったと慌てて目を逸らす。
毎晩のこのひと時、彼を思うとキラキラしたような温かい幸福感に満たされていた。
私はこの気持ちに自分で形を与えることができず、ある日、騎士団へ品物を卸してくれる行商人のおかみさんに、アーサーの名前を伏せて打ち明けてみた。
「こんなムサい男所帯で平然としてるように見えるイヴさんにも、ちゃんとそういう気持ちがあるのねぇ。なんだか嬉しくなっちゃうわぁ。」
ころんとしたリスのように愛らしいその人は、つぶらな瞳を輝かせてしきりに頷きながら、何故か喜んでくれている。
私はなんだか変な汗が止まらない。
「は、はぁ。あの、どちらかというと気にならないようにしたくて、ちょっと困っているんです。」
「困ることなんてないじゃない?彼を好きな気持ちは大事に持っていて良いと思うなぁ。誰にでもそう思えるわけじゃないからさ。」
うーん、たしかに。
この騎士団に嫌いな人はいないし、みんな好きだけど、アーサーに対しての『好き』だけは少し違う感じがする。
「きっとその人は、イヴさんが恋しちゃうくらい素敵な人なのね。
毎日大変でロマンチックな雰囲気も出ないかもしれないけど、想いが成就するように祈ってるわよっ。」
「…えっ?恋し…?!
い、いえ!そういうんじゃないので…だ、だいじょうぶです!!!」
頭に血がのぼる。
顔がカァっと熱くなり、こみ上げる恥ずかしさと認めたくない気持ちがせり上がる。
…なんか心臓が口から出てきてきそう。苦しい。
私は彼女に礼を言ってその場を辞し、ドスドスと廊下を踏みしめながら歩く。
ちっ…違う違うちがうっ!!!
アーサーなんか…ちょっと頼りがいがあってカッコイイ気がしたからってだけで…っ
そうだ!上官として尊敬してるだけだよ、そうだよ!!
…
「おっ?イヴリンじゃねーか?おーい!」
私はビクリと肩を振るわせ、がなり立てるような大声のした方へ振り向く。
いつの間にか共有スペースに足を踏み入れていた。
酒盛りでもしていたのか、ワイン瓶といくつかの肴を囲んでソファに座る数人の団員達が見える。
毛むくじゃらのぶっとい腕をぶんぶん振り、上機嫌のエヴァンズと彼の小隊の若手達、そして…
「検品お疲れさま。遅くまでありがとう。」
温かい労いの声が向けられる。
いま会いたくない顔がそこにあった。
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