断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり

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地下牢での一件から数日後。
王城の片隅にある、古びた礼拝堂。


ここで、ジェラルド殿下の『廃嫡の儀』がひっそりと執り行われることになった。
本来なら大々的に行われるはずの儀式だが、国王陛下の意向で「恥晒しは最小限に」ということで、関係者のみの参列となった。


参列者は、国王陛下、アレクセイ様、私。
そして、護衛の騎士数名と、儀式を執り行う神官長のみだ。


「……これより、ジェラルド・フォン・アルカディアの王籍剥奪の儀を行う」


陛下の声が、冷たく礼拝堂に響く。
祭壇の前に座らされたジェラルドは、真っ白な平民の服を着せられ、虚ろな目で床を見つめている。
かつての煌びやかな王子の面影はない。


「ジェラルド。そなたは数々の罪を犯し、王家の信頼を失墜させた。よって、そなたから王子の称号、王位継承権、そしてアルカディアの名を剥奪する」


陛下が厳かに告げると、神官長がジェラルドの胸元にあった王家の紋章を剥ぎ取った。
バリッ、という乾いた音が、彼の終わりの合図のように聞こえた。


「あ……」


ジェラルドが小さく声を漏らした。
自分が失ったものの重みを、ようやく理解したのだろうか。


「これよりそなたは平民ジェラルドとなる。国外追放は免除するが、王都から離れた地方の開拓村で、一からやり直せ」


開拓村。
それは、未開の荒れ地を切り拓き、農地を作る過酷な労働の場だ。
温室育ちの元王子にとっては、地獄のような環境だろう。


「……はい、父上。……いえ、国王陛下」


ジェラルドは力なく頷いた。
反抗する気力すら残っていないようだ。


「儀式は終わりだ。……連れて行け」


陛下の合図で、衛兵がジェラルドの両脇を抱えた。
彼が連行される直前、アレクセイ様が動いた。


「待て」


アレクセイ様はジェラルドの前に立ち、冷ややかに見下ろした。
その隣には、私が並んでいる。


「ジェラルド。……ラミリアに何か言うことはないか?」


アレクセイ様の言葉に、ジェラルドはビクリと肩を震わせ、ゆっくりと私の方を向いた。
その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。


「ら、ラミリア……」


彼は震える声で私の名を呼んだ。


「すまなかった……! 本当に、すまなかった! 私が馬鹿だった! 君の価値も、君の優しさも、何も分かっていなかった!」


彼はその場に崩れ落ち、土下座した。


「君が支えてくれていたから、私は王子でいられたんだ! 君を失って、私は初めて知ったよ……自分がどれだけ無力で、空っぽだったかを!」


後悔の言葉が、堰を切ったように溢れ出す。


「ミナも……あの女がスパイだったなんて! 私は騙されていたんだ! 愛されていたと思っていたのは、私の勝手な妄想だった!」


「…………」


私は無言で彼の謝罪を聞いていた。
心が痛むかと思っていたが、不思議なほど冷静だった。


「ラミリア、頼む! もう一度、やり直せないか!? 今度こそ君を大切にする! だから……!」


彼は顔を上げ、縋るような目で私を見た。
まだ、私に未練があるのか。
それとも、私の能力を利用して再起を図りたいだけなのか。


「……ジェラルド」


私は静かに口を開いた。
かつてのように「殿下」とは呼ばない。
彼はもう、ただの平民なのだから。


「謝罪の言葉、確かに受け取りました」


「! そうか! じゃあ、許してくれるんだね!?」


彼の顔がパッと明るくなる。
しかし、私はニッコリと笑い、事務的に続けた。


「ですが、復縁のご提案は、謹んで辞退させていただきます。……『契約期間終了』ですので」


「えっ……?」


「貴方は私を『無能』と判断し、一方的に契約を破棄されました。そして私は、新たな雇用主(アレクセイ様)と『終身雇用契約』を結びました。……貴方の元に戻る理由は、一つもございません」


「そ、そんな……。愛はないのか!? 私への愛は!」


「愛、ですか?」


私は小首を傾げた。


「残念ながら、貴方への感情は『業務上の義務感』と『手のかかる弟への同情』で構成されておりました。恋愛感情は、初期設定の段階で搭載されておりません」


「~~~っ!!」


ジェラルドは絶句した。
私が彼を愛していたと、最後まで信じていたのだ。
その勘違いが、今ここで完全に粉砕された。


「それに」


私はアレクセイ様の腕に手を回し、幸せそうに微笑んだ。


「私は今、世界一素敵な男性に愛されて、とても幸せなんです。……私の『華』を見つけてくれた、たった一人の人に」


アレクセイ様は満足げに頷き、私の肩を抱き寄せた。
見せつけるような、熱烈な抱擁だ。


「見たか、ジェラルド。……これが現実だ。ラミリアはお前のものではない。未来永劫、私のものだ」


「あ、あ、あ……」


ジェラルドは膝から崩れ落ち、今度こそ完全に心が折れた。
愛も、地位も、未来も、全てを失った男の末路だ。


「もういい。行け」


アレクセイ様の冷たい一言で、衛兵たちがジェラルドを引きずっていく。
彼は抵抗することなく、ずるずると礼拝堂から連れ出されていった。
扉が閉まる寸前、彼の小さく呟く声が聞こえた。


「……アップルパイ、食べたかったな……」


それが、彼の最後の言葉だった。


礼拝堂に静寂が戻る。
国王陛下が深く息を吐き、私の方を向いた。


「ラミリア嬢。……息子の愚行、改めて詫びよう。すまなかった」


「いえ、陛下。謝罪はもう十分です。……それに、彼にとっても良い経験になるかもしれません。開拓村で、土に触れ、汗を流せば、いつか『実』の価値が分かるようになるでしょう」


「……そうだな。そう願おう」


陛下は少し寂しそうに、しかし安堵したように笑った。
親としての最後の情けなのだろう。


「さて、ラミリア。暗い話は終わりだ」


アレクセイ様が私の手を取り、出口へとエスコートした。


「帰ろう。セバスチャンたちが、婚約祝いのパーティーを用意して待っている。……今日はお前の好きなものを、山ほど食べさせてやるぞ」


「はい! 楽しみです!」


私たちは礼拝堂を後にした。
外は雲一つない快晴だった。
過去のしがらみは全て消え、私の前には、明るい未来だけが広がっていた。


馬車に揺られながら、私はアレクセイ様の肩に頭を預けた。
彼は優しく私の髪を撫でてくれる。


「……アレクセイ様」


「ん?」


「私、幸せすぎて、バチが当たらないか心配です」


「バチ? 誰が当てるというのだ」


彼は鼻で笑った。


「もし神がお前にバチを当てようとするなら、私がその神を氷漬けにしてやる。……お前はただ、私の隣で笑っていればいい」


その言葉に、私は胸がいっぱいになった。
最強で、過保護で、愛おしい私の旦那様。
この人のためなら、どんな苦労も厭わない。
そう心に誓った。


(……まあ、苦労するのは主にアレクセイ様の周りの人たちかもしれないけれど)


私はクスッと笑い、彼の腕の中で幸せな眠りに落ちていった。
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