断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり

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ジェラルド殿下の廃嫡と、スパイ・ミナの捕縛。
国を揺るがした一連の騒動は、私の完全勝利という形で幕を閉じた。


そして、平和が訪れた公爵邸。
静かな朝、小鳥のさえずりと共に目覚めた私は、ふかふかのベッドの中で大きく伸びをした。


「ん~っ! よく寝た!」


今日から私は、名実ともに『公爵夫人(予定)』だ。
もう邪魔者はいない。
大好きなアレクセイ様と、可愛いスノーと、優しい使用人たちに囲まれて、穏やかなスローライフが始まるのだ。


「さあ、今日は何をしようかな。のんびり読書でもして、午後はお昼寝をして……」


そんな呑気なことを考えながら、私はリビングへと向かった。
しかし。


「おはようございます、ラミリア様!!」


扉を開けた瞬間、私のスローライフ計画は爆発四散した。


リビングには、山ができていた。
書類の山ではない。
色とりどりの包み紙、リボンのかかった箱、そして花束の山だ。
天井に届きそうなほどのプレゼントタワーが、部屋を埋め尽くしている。


「えっ? な、なんですかこれ?」


私が立ち尽くしていると、その山の中から執事のセバスチャンさんが這い出てきた。


「おめでとうございます、ラミリア様! これらは全て、国内外から届いた『婚約祝い』の品々でございます!」


「こ、こんなに!?」


「朝一番の便だけでこの量です。まだ裏庭に馬車十台分ほど待機しておりますが」


「十台!?」


規模がおかしい。
王族の結婚式でも、ここまで集まらないのではないだろうか。


そこへ、アレクセイ様が疲れた顔で入ってきた。
手にはコーヒーカップを持っているが、その顔には「朝から胃もたれしそうだ」と書いてある。


「……おはよう、ラミリア。すごいことになっているな」


「おはようございます、アレクセイ様。……これ、どう処理しましょう?」


「処理などしなくていい。使用人に分け与えるなり、孤児院に寄付するなり、好きにしろ。……問題なのは、品物ではなく『人』だ」


「人?」


「ああ。……客間を見てこい。パンク寸前だ」


アレクセイ様に促され、私は恐る恐る応接室を覗いた。
そこには、信じられない光景が広がっていた。


「おお! ラミリア様!」
「お待ちしておりましたわ、マイスイートハニー!」
「今日は貴女様の採寸に参りましたの!」


部屋にひしめき合っているのは、この国のファッション界、宝飾界、美容界のトップクリエイターたちだった。
普段なら、予約一年待ちと言われる伝説の職人ばかりだ。


「えっ、マダム・ロコ!? それに、宝石商のガリレオ氏まで!?」


私が名前を呼ぶと、派手な帽子を被った老婦人――王室御用達のドレスデザイナー、マダム・ロコが駆け寄ってきた。


「久しぶりねぇ、ラミリアちゃん! 婚約おめでとう! 貴女のウェディングドレスは、この私が作るって決めてたのよ!」


「ええっ? でもマダム、依頼料がお高いのでは……」


「お金なんていらないわよ! 貴女には恩があるもの! ほら、去年私の工房が火事になりかけた時、貴女が事前に『布の保管場所を変えた方がいい』って助言してくれたおかげで、最高級シルクが守られたじゃない!」


「ああ、あれですか。湿気対策でしたけど、役に立ってよかったです」


「役に立ったどころじゃないわ! あれは私の命よ! だから、最高傑作のドレスをプレゼントさせて!」


マダム・ロコがメジャーを取り出して私の周りを回り始めると、今度は片眼鏡の紳士、ガリレオ氏が進み出た。


「いやいや、ティアラは私が作りますぞ! ラミリア様のおかげで、我が商会は希少鉱物の採掘権を得られたのですからな!」


「それは殿下の書類ミスを修正した時の……」


「そうです! あのご恩は一生忘れません! 今回は、南極のオーロラを閉じ込めたようなダイヤモンドを用意しました!」


「南極!? いつの間に!」


次々と名乗りを上げる巨匠たち。
「靴は私が!」「ブーケは俺に任せろ!」「いや、披露宴の演出はうちの劇団で!」
まるでバーゲンセールの奪い合いだ。


「ちょ、ちょっと皆さん! 落ち着いて!」


私が慌てていると、背後でアレクセイ様がため息をついた。


「……ラミリア。お前の結婚式は、どうやら国家プロジェクト並みの規模になりそうだ」


「そんなつもりじゃなかったんですけど……!」


「諦めろ。彼らは本気だ。……私への愛以上に、お前への『恩返し』の熱量が凄まじい」


アレクセイ様は苦笑しつつも、どこか誇らしげだ。


「まあ、いいだろう。私の妻になる女だ。世界一豪華な式にしようじゃないか」


「アレクセイ様まで……!」


こうして、私の意思とは無関係に、結婚式の準備はロケットスタートを切った。


***


午後。
私たちは書斎で、最大の難関である「招待客リスト」の作成に取り掛かっていた。


「……多すぎる」


アレクセイ様が、リストを見ながら頭を抱えた。


「なんだこのリストは。王城の大広間でも入りきらんぞ」


「すみません。削ろうと思ったのですが、どうしても外せない方々ばかりで」


私が作成したリストには、数百名の名前が連なっている。
しかも、そのメンツが濃すぎるのだ。


「……『東方諸国連合・皇帝代理』?」


アレクセイ様が指差す。


「ああ、その方は以前、迷子になっていたところを私が案内して差し上げて、それ以来文通を……」


「……『北海ドワーフギルド・グランドマスター』?」


「彼とは、武器の納品スケジュールの調整で意気投合しまして。飲み友達です」


「……『闇の森のエルフ女王』?」


「彼女は、私が森で遭難しかけた時に薬草の知識を教えてあげたら、気に入られまして」


アレクセイ様はリストを机に置いた。
その目は遠くを見ている。


「ラミリア。……お前、私より顔が広くないか?」


「まさか。私はただの事務屋ですよ?」


「ただの事務屋は、エルフの女王と友達にはならん。……というか、このメンツが一堂に会したら、結婚式というより『世界サミット』だぞ」


「あ、確かに。ついでに和平条約とか結べそうですね」


「呑気なことを言うな。警備計画を練り直さねばならん」


アレクセイ様はブツブツ言いながらも、その表情は真剣だ。
私のために、最高の式にしようとしてくれているのが伝わってくる。


「でも、アレクセイ様」


「ん?」


「一番来てほしいのは、ここにいる人たちではありません」


私はリストの最後尾、手書きで書き足した欄を指差した。


「『王宮の騎士たち』『文官の皆さん』『侍女の皆さん』……そして、『下町のおばちゃんたち』」


きらびやかな肩書きはないけれど、私が一番お世話になった、大切な仲間たちだ。
彼らを呼ばずして、私の結婚式は成立しない。


「……彼らは平民や下級貴族だ。公爵家の結婚式に呼ぶのは、前例がないぞ」


アレクセイ様が試すように私を見た。
私は迷わず答えた。


「前例がないなら、作ればいいです。……私のドレスを作ってくれるマダム・ロコも、元は下町の仕立て屋さんでした。身分なんて関係ありません。私を祝ってくれる心がある人なら、誰でも歓迎したいんです」


私の言葉に、アレクセイ様はふっと表情を緩めた。
そして、愛おしそうに私の髪を撫でた。


「……そう言うと思ったよ。お前らしい」


彼はペンを取り、リストのその欄に大きく二重丸をつけた。


「許可する。……いや、私が招待しよう。我が妻の友人は、私の友人でもある」


「アレクセイ様……!」


「ただし、会場は野外に変更だな。庭園を開放しよう。それなら数千人来ても大丈夫だ」


「数千人!? 野外フェスみたいになりそうですね!」


「構わん。料理長が『腕が鳴る』と吠えていたしな。……盛大にやろう」


こうして、前代未聞の「身分不問・全参加型結婚式」の開催が決定した。


その夜。
準備に追われてクタクタになった私は、アレクセイ様の部屋で晩酌に付き合っていた。
スノーも私の膝の上で、幸せそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。


「……疲れたか、ラミリア」


「はい、心地よい疲れです。……でも、少し驚きました」


「何にだ?」


「私、こんなにたくさんの人に支えられていたんだなって。……『独りぼっち』だと思っていた時期もありましたけど、全然そんなことなかった」


私がしみじみと言うと、アレクセイ様はグラスを傾け、静かに言った。


「お前が与えたものが、返ってきているだけだ。……愛も、信頼も、すべてお前自身が撒いた種だ」


「アレクセイ様の愛もですか?」


「……それは、私が勝手に押し付けたものだがな」


彼は少し照れくさそうに顔を背けた。
可愛い。
最強の公爵様の、このウブな反応が私の大好物だ。


「ふふ。じゃあ、私もお返ししないといけませんね」


私は立ち上がり、彼の隣に座った。
そして、彼の肩に頭を預ける。


「これから一生かけて、貴方に『愛』をお返しします。……利息付きで」


「……高利貸しか」


「はい、トイチ(十日で一割)くらいの暴利で愛しますから、覚悟してくださいね」


「……望むところだ。一生、完済させないでくれ」


アレクセイ様は優しく笑い、私にキスをした。
ワインの香りと、彼の体温に包まれて、私は世界一の幸せ者だと確信した。


「さて、明日は料理の試食会だぞ。ガストンが張り切って『ウェディングケーキ・タワー』の設計図を持ってきた」


「タワー? 倒れませんか?」


「魔法で補強するそうだ。……やはり、お前の結婚式は伝説になりそうだ」


新しい日常は、想像以上に騒がしく、忙しく、そして愛に満ちていた。
特別な力なんてなくても、私の周りには、こんなにも素敵な「奇跡」が溢れているのだから。
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