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第22話「守るって言葉は、どうして胸に刺さるんだろう」
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応接室に通されると、父と母、それに宮廷の高官らしき人物がすでに席に着いていた。
妙に厳しい顔をした男が進行役なのだろう、手元の書類を整えながら口を開く。
「では、まず発表の日取りについて……」
……え、ちょっと待って。
日取り?会場?え、結婚式打ち合わせみたいなノリで始めるの!?
「王宮の大広間を用いるのがよろしいかと」
「招待客の範囲はいかがなさいますか。三親等まででよろしいですか?」
「発表時の衣装につきましては、どなたがご用意を?」
次々に飛んでくる質問。
父が「ではそうしよう」と頷き、母が「問題ありません」と微笑むたびに、進行役がさらさらと書き留めていく。
ちょ、ちょっと!?
全部決まってるんだけど!?
私、まだ心の準備どころか一言も喋ってないのに!?
「婚約式のお嬢様の衣装につきましては?」
唐突にこちらへ視線が向けられ、背筋が跳ね上がる。
「えっ、わ、私!?……やっぱり、白じゃない?」
自分でも驚くくらい反射的に答えてしまった。
「お嬢様のドレスは白がよろしいかと」
「ですが、白は結婚式に……」
侍女たちが一斉にざわめき、母が困った顔で私を振り向く。
え、やっぱダメなの!?婚約式と結婚式って何が違うんだよ!!少女漫画知識ェ……!
そこで、隣にいたエドがふっと口を開いた。
「では、地の色は別にして……差し色に紫を入れればいい」
「紫を……差し色に、ですか?」
進行役の高官が確認すると、エドは何でもないように頷いた。
「王家の色を示すには十分だ。全身を紫に染める必要はない」
……なにそのスマートすぎる折衷案!?
最初からそれ出せよ!!
母が安心したように微笑み、父も「ではそのように」と頷く。
進行役が「白で差し色に紫」と一言書き留め、あっという間に次の議題に移っていった。
……え、今ので私の役目終わり!?
ネグリジェでダラダラしたいとかは絶対言えないのに、ドレスの色だけ即答って何!?
その後も、日取り、招待客、会場の飾り付けと……次々に決まっていく。
私はほぼ置物状態で、ただ『はい』『そうですね』と頷くだけ。
ドレス以外、何一つ意見を求められなかった。
何度目かの打ち合わせの後、ソファでぐったりと脱力していると、エドが静かに切り出した。
「遅かれ早かれ耳に入るかもしれないが……」
?なんだか言い淀んでる。目線も上げないし、普段の彼らしくない。
「リリアナ嬢が投獄され……原因不明で亡くなったそうだ」
あまりに衝撃的な言葉に、思わず大声が出た。
自分でも声が震えているのがわかる。
「え……?亡くなった!!!!???」
沈黙。空気が一瞬で張り詰め、エドの氷青色の瞳が鋭く見開かれる。
そんな……だって、エドと婚約が確定した日。
リリアナとルシアンは確かに王宮に来ていて、少なくとも外見上は元気だったはずなのに。
「そもそも……なんで投獄なんて?」
「突然、王宮に押しかけて騒ぎ立て、衛兵により拘束されたと聞いている」
エドの声は淡々としていたが、奥に苦味が混じっていた。
「でも……!まだ16歳だよ!?持病も無さそうだった。そんな子が原因不明で死ぬなんて……」
自分の声が裏返る。悔しさと困惑で胸が締め付けられる。
エドは困ったように表情を曇らせ、言葉を詰まらせた。
「そんなの納得できない!私に検死させてほしい!!」
「……検死?君が?」
「だって!死体を調べれば、病気なのか毒なのか、わかるはずでしょ!」
「君に遺体を触れさせることは無い」
エドの顔に、一瞬だけ言葉にできない影が走った。
……エドは、きっと真実を知っている。
リリアナがなぜ死んだのかも、誰の手でそうなったのかも……
アリエルにしたことは許せない。
でも……こんな死に方、哀れすぎる。
医者として、どうしても納得できない……!
黙り込む私を見て、心配そうにエドが囁く。
「……心配いらない。君は俺が守るから」
「やめろやめろ、変なフラグ立てんな!!」
……っっっ!
今のセリフ、直撃でキュン死案件なのはわかってる。
でも絶対そういう奴から先に退場するんだよ!!!
もろもろの確認の打ち合わせを数日がかりでやっと終わらせ……
これで解放されると思ったら、今度はお披露目会へ向けた準備やら、ドレスの仮縫いやら。
『淑女の笑顔』『正しい一礼』『隣に立ったときの姿勢』毎日毎日、鬼軍曹みたいに叩き込まれる。
アリエルの身体が覚えてる動きだとしても、中身は私だ。気力には限界があるんだよ!!!
エドの家庭教師がなくなったかと思ったら、今度はこれ。
……いや、別に誰も私の笑顔なんて見なくない!?
ネグリジェで1日ダラダラするのはもちろん、本を読みながら寝落ちすらもうずっとできてない……
「なんで私がこんな目に……」
布団に顔を埋めた瞬間、気が付けば朝。そんな日々が延々ループしてる気分。
さすがのエドも、公務と婚約関係の調整で忙しいらしく、打ち合わせ以降は顔を合わせてない。
あいつと一緒にいると変な空気になることが増えてきたから、ちょっと助かってるのも事実。
でもさ……あいつはデスクワークだろ!?私との負担の差がデカすぎんだろ!!
王太子の婚約者なんて聞こえはいいけど、ブラック企業にも程がある。
こっちの世界でも過労死させる気か!?転生の意味とは!?
「ワンワン……お前は気楽でいいよなぁ」
横でお腹を出して眠るワンワンをわしゃわしゃ撫でながら、気づけば今日も眠りに落ちていく。
「お嬢様、お着替えのお時間です」
いつも通り朝食をとっていると声をかけられる。
今日は少し遅い時間……でも条件反射でため息が出そうになる。
ドレッサーの前に座り、侍女にいつも通り任せる。
今日はいったい何をやらされるんだろう……もう今から憂鬱で仕方ない。
「お嬢様、こちらのお召し物に」
……あれ?今日は髪のセット、やけに早く終わらなかった?
全然気にしてなかったけど、差し出された服に目をやる。
え、これ……庶民服!?
薄い水色のシャツに、茶色のエプロンドレス。
この前エドと街に出たときに着せられた服に似てるけど、色味が少し違って落ち着いた雰囲気。
「お嬢様、殿下がいらっしゃいました」
……は?思わず固まる。服装もだけど、エドが来るなんて一言も聞いてない。
「え?え?なんで!?」
「約束しただろう?収穫祭に行こうって」
収穫祭……
『収穫祭も、一緒に行こうか』
『え!?いいの!?』
『もちろん』
『うわー!楽しみ!!』
確かに約束した!!……してたわ!!
連日の準備に追われすぎて、すっかり記憶の彼方に追いやってた!!
「今日だったんだ!!全然知らなかった!!」
ってことは、今日はフルドレスも打ち合わせも無し!?
ドレスよりずっと軽い生地の感触に、気持ちまでぱぁぁっと軽くなる。
「うん。似合うね。普段のドレスももちろん似合ってるけど」
私がぱっと明るくなったのを、侍女は何を勘違いしたのか、にこにこしながら言う。
「お二人とも、まるでご夫婦みたいです!」
「だって。アリエルはどう思う?」
だから……お前はなんでそんな余裕顔でサラッと言うんだよ……!
完全に反応を楽しんでるだろ!?
「……別に……」
少し顔が熱くなった気がして、慌てて視線を逸らした。
妙に厳しい顔をした男が進行役なのだろう、手元の書類を整えながら口を開く。
「では、まず発表の日取りについて……」
……え、ちょっと待って。
日取り?会場?え、結婚式打ち合わせみたいなノリで始めるの!?
「王宮の大広間を用いるのがよろしいかと」
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「発表時の衣装につきましては、どなたがご用意を?」
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父が「ではそうしよう」と頷き、母が「問題ありません」と微笑むたびに、進行役がさらさらと書き留めていく。
ちょ、ちょっと!?
全部決まってるんだけど!?
私、まだ心の準備どころか一言も喋ってないのに!?
「婚約式のお嬢様の衣装につきましては?」
唐突にこちらへ視線が向けられ、背筋が跳ね上がる。
「えっ、わ、私!?……やっぱり、白じゃない?」
自分でも驚くくらい反射的に答えてしまった。
「お嬢様のドレスは白がよろしいかと」
「ですが、白は結婚式に……」
侍女たちが一斉にざわめき、母が困った顔で私を振り向く。
え、やっぱダメなの!?婚約式と結婚式って何が違うんだよ!!少女漫画知識ェ……!
そこで、隣にいたエドがふっと口を開いた。
「では、地の色は別にして……差し色に紫を入れればいい」
「紫を……差し色に、ですか?」
進行役の高官が確認すると、エドは何でもないように頷いた。
「王家の色を示すには十分だ。全身を紫に染める必要はない」
……なにそのスマートすぎる折衷案!?
最初からそれ出せよ!!
母が安心したように微笑み、父も「ではそのように」と頷く。
進行役が「白で差し色に紫」と一言書き留め、あっという間に次の議題に移っていった。
……え、今ので私の役目終わり!?
ネグリジェでダラダラしたいとかは絶対言えないのに、ドレスの色だけ即答って何!?
その後も、日取り、招待客、会場の飾り付けと……次々に決まっていく。
私はほぼ置物状態で、ただ『はい』『そうですね』と頷くだけ。
ドレス以外、何一つ意見を求められなかった。
何度目かの打ち合わせの後、ソファでぐったりと脱力していると、エドが静かに切り出した。
「遅かれ早かれ耳に入るかもしれないが……」
?なんだか言い淀んでる。目線も上げないし、普段の彼らしくない。
「リリアナ嬢が投獄され……原因不明で亡くなったそうだ」
あまりに衝撃的な言葉に、思わず大声が出た。
自分でも声が震えているのがわかる。
「え……?亡くなった!!!!???」
沈黙。空気が一瞬で張り詰め、エドの氷青色の瞳が鋭く見開かれる。
そんな……だって、エドと婚約が確定した日。
リリアナとルシアンは確かに王宮に来ていて、少なくとも外見上は元気だったはずなのに。
「そもそも……なんで投獄なんて?」
「突然、王宮に押しかけて騒ぎ立て、衛兵により拘束されたと聞いている」
エドの声は淡々としていたが、奥に苦味が混じっていた。
「でも……!まだ16歳だよ!?持病も無さそうだった。そんな子が原因不明で死ぬなんて……」
自分の声が裏返る。悔しさと困惑で胸が締め付けられる。
エドは困ったように表情を曇らせ、言葉を詰まらせた。
「そんなの納得できない!私に検死させてほしい!!」
「……検死?君が?」
「だって!死体を調べれば、病気なのか毒なのか、わかるはずでしょ!」
「君に遺体を触れさせることは無い」
エドの顔に、一瞬だけ言葉にできない影が走った。
……エドは、きっと真実を知っている。
リリアナがなぜ死んだのかも、誰の手でそうなったのかも……
アリエルにしたことは許せない。
でも……こんな死に方、哀れすぎる。
医者として、どうしても納得できない……!
黙り込む私を見て、心配そうにエドが囁く。
「……心配いらない。君は俺が守るから」
「やめろやめろ、変なフラグ立てんな!!」
……っっっ!
今のセリフ、直撃でキュン死案件なのはわかってる。
でも絶対そういう奴から先に退場するんだよ!!!
もろもろの確認の打ち合わせを数日がかりでやっと終わらせ……
これで解放されると思ったら、今度はお披露目会へ向けた準備やら、ドレスの仮縫いやら。
『淑女の笑顔』『正しい一礼』『隣に立ったときの姿勢』毎日毎日、鬼軍曹みたいに叩き込まれる。
アリエルの身体が覚えてる動きだとしても、中身は私だ。気力には限界があるんだよ!!!
エドの家庭教師がなくなったかと思ったら、今度はこれ。
……いや、別に誰も私の笑顔なんて見なくない!?
ネグリジェで1日ダラダラするのはもちろん、本を読みながら寝落ちすらもうずっとできてない……
「なんで私がこんな目に……」
布団に顔を埋めた瞬間、気が付けば朝。そんな日々が延々ループしてる気分。
さすがのエドも、公務と婚約関係の調整で忙しいらしく、打ち合わせ以降は顔を合わせてない。
あいつと一緒にいると変な空気になることが増えてきたから、ちょっと助かってるのも事実。
でもさ……あいつはデスクワークだろ!?私との負担の差がデカすぎんだろ!!
王太子の婚約者なんて聞こえはいいけど、ブラック企業にも程がある。
こっちの世界でも過労死させる気か!?転生の意味とは!?
「ワンワン……お前は気楽でいいよなぁ」
横でお腹を出して眠るワンワンをわしゃわしゃ撫でながら、気づけば今日も眠りに落ちていく。
「お嬢様、お着替えのお時間です」
いつも通り朝食をとっていると声をかけられる。
今日は少し遅い時間……でも条件反射でため息が出そうになる。
ドレッサーの前に座り、侍女にいつも通り任せる。
今日はいったい何をやらされるんだろう……もう今から憂鬱で仕方ない。
「お嬢様、こちらのお召し物に」
……あれ?今日は髪のセット、やけに早く終わらなかった?
全然気にしてなかったけど、差し出された服に目をやる。
え、これ……庶民服!?
薄い水色のシャツに、茶色のエプロンドレス。
この前エドと街に出たときに着せられた服に似てるけど、色味が少し違って落ち着いた雰囲気。
「お嬢様、殿下がいらっしゃいました」
……は?思わず固まる。服装もだけど、エドが来るなんて一言も聞いてない。
「え?え?なんで!?」
「約束しただろう?収穫祭に行こうって」
収穫祭……
『収穫祭も、一緒に行こうか』
『え!?いいの!?』
『もちろん』
『うわー!楽しみ!!』
確かに約束した!!……してたわ!!
連日の準備に追われすぎて、すっかり記憶の彼方に追いやってた!!
「今日だったんだ!!全然知らなかった!!」
ってことは、今日はフルドレスも打ち合わせも無し!?
ドレスよりずっと軽い生地の感触に、気持ちまでぱぁぁっと軽くなる。
「うん。似合うね。普段のドレスももちろん似合ってるけど」
私がぱっと明るくなったのを、侍女は何を勘違いしたのか、にこにこしながら言う。
「お二人とも、まるでご夫婦みたいです!」
「だって。アリエルはどう思う?」
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