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ぼっちと幼女と邪神
ぼっちと邪神と龍王
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「弁当食ったし帰るか」
「おなかいっぱーい」
「たくさん…たべた…」
七色の光を背に、巨大な鳥を眺めながら食べた弁当は、味だけで言えばいつも通りだった。
けれど外の空気を吸って、違う景色を見て、三人で並んで食べたそれは、家の食卓とは少しだけ違う余韻を残している。
「のう……シュウや……ピー太を連れていってはダメかの……?」
「ダメだ。拾ったところに帰してこい」
「捨て猫を拾ってきたみたいじゃの…」
名残惜しそうに、不死鳥――ピー太の羽に手を滑らせるクレバス。
涙目でこちらを振り返ってくるが、首を縦に振るつもりはない。
うちには、愛する娘が二人と、すでに一人分の手間では済まない居候が一人。
これ以上、手のかかりそうなやつを増やす気はない。
「すまんの……ピー太や……連れていけないようじゃ……」
『大丈夫です……我が主よ……。あの者と暮らすとなると私の胃に穴が開きます』
しれっと暴言を吐きやがったな、この鳥。
その気になれば今すぐ丸焼きにできるが、今日は遠足の日だ。慈悲深く見逃しておく。
代わりに、この場所一帯にさりげなく隠蔽をかけた広域殲滅魔法の魔法陣を刻んでおいた。
来年の同じ日、ここは一瞬だけ香ばしい匂いに包まれるだろう。……合掌。
「クレバス。帰るぞ」
シロを肩車し、ミドリを左腕で抱き上げる。
ここ最近は、行きと帰りで抱える位置を入れ替えるのが定番になっていた。同じ配置だと、帰宅後にシロがふてくされるからだ。
「疲れたのじゃ。動きとうない」
「駄々こねるな」
「嫌じゃー! 動きとうないー!」
その場にひっくり返って手足をばたつかせるクレバス。
見た目はどう見ても年端もいかない少女、経歴は俺より長生きの元・世界神、やっていることは駄々っ子。情報量が多い。
ため息をひとつ吐いて、近づく。右手を空けて、そのまま脇から抱え上げた。
「やっ……やめるのじゃ! 恥ずかしいじゃろ!」
「もう遅い」
クレバスが顔を真っ赤にしながら暴れる前に、地面を強く蹴る。
瞬間、周囲の風の流れが変わり、クレバスが慌てて魔法を展開した。空気抵抗を打ち消す繊細な風が、身体を包み込む。
こちらは速度を落とすつもりはない。
どうやら、家の方角からは来客の気配が二つ。
一つは、魔力の質に覚えがある。もう一つは、まったく知らない。
客を呼んだ覚えはないが、シロとミドリがいる以上、速やかに状況を見に行く必要があった。
森の緑が、矢のように後方へ流れていく。
やがて木々の切れ目が途切れ、家の輪郭が視界に現れた。
家の前、扉の前に、人型の影が二つ。
シロとミドリは、いつの間にかすやすやと寝息を立てている。シロは相変わらず、俺の頭を枕にしてヨダレを垂らしていた。ひんやりしていて、少しだけ気持ち悪い。
速度を落とし、地面に降り立つ。
家と来客を挟む形で、正面から声をかけた。
「人の家に何の用だ?」
「おお! やっと帰って来たか!」
「お父様。この者がそうなのですか?」
門の前に立っていたのは、筋骨隆々とした中年男と、十七、八ほどに見える若い女。
どちらの顔にも見覚えはないが、男の方からは、懐かしさを伴う魔力の波が伝わってきた。
魔力の流れを解析する。
南側の山脈の奥、洞窟の中で気ままに眠っている“龍みたいなトカゲ”の気配だ。
六千年ほど前、何度も何度も挑み殺されを繰り返した相手。
あの頃は、どれだけ挑んでも勝ち切れなかった。結果は良くて引き分け。今なら、おそらく勝てる。
「この気配……お主、まさか龍王サイガか……?」
脇に抱えられたままのクレバスが、目を丸くして男を見つめる。
龍王? このトカゲのおっさん、そんな肩書きだったのか。後でサインでも貰っておくか。
「まさか儂のことを知っているとは! さてはお嬢さん……なるほど。神気を纏っておる、この世界の者じゃないな?」
「初にお見えにかかる。クレバスじゃ。元、この世界の管理を任された神であるが今は落ちて邪神じゃ」
「なるほどな! でもそんな格好で言われてもな……!!」
龍王サイガが腹の底からガッハッハと笑う。
クレバスは羞恥で肩を震わせながら、俺の腰布を全力で引っ張って抗議してきた。やめろ、本当に取れる。
どうして脇に抱えられた体勢のまま自己紹介を始めるのか、そこから問い詰めたい。
「おっさん、南のトカゲだろ?」
「貴様っ!! お父様を愚弄するとは許さんぞ!!」
「おう、元気にしてたか?」
若い女がピリついた声を上げるのと、サイガがにこやかにこちらへ笑顔を向けるのはほぼ同時だった。
娘らしい方は、ずっと眉間に皺を寄せて俺を睨んでいる。
「おい……シュウ……創造神様が創りし原初の生命である龍王をトカゲ呼ばわりとはお主……死ぬぞ?」
横でクレバスが、震える声でささやいてくる。
一応、あれは正式には龍らしい。たしかに、普段の姿だと翼はないが、真の形態になればそれっぽくなるのだろう。
「心配しなくていいぞ、お嬢さん。こいつは殺しても死なない奴だ。儂だって昔に何回殺したか覚えておらん」
サイガが楽しそうに肩をすくめる。
初めて挑んだ頃の記憶を掘り起こすと、桁の感覚が麻痺してくる。
ざっくり言って八桁回は死んだ。凄まじいリスキルだった。
呼び名に関しては少々配慮が必要かもしれないが、今さら「龍王様」などと殊勝な態度を取る気にもなれない。
ふと腕の中を見ると、シロとミドリは完全に夢の世界だ。
シロは俺の頭からずり落ち、肩のあたりで口を開けて寝ている。ヨダレがじわりと肌を冷やした。
……とりあえず、話を進める前に、こいつらをベッドに運ぶところからだな。
「おなかいっぱーい」
「たくさん…たべた…」
七色の光を背に、巨大な鳥を眺めながら食べた弁当は、味だけで言えばいつも通りだった。
けれど外の空気を吸って、違う景色を見て、三人で並んで食べたそれは、家の食卓とは少しだけ違う余韻を残している。
「のう……シュウや……ピー太を連れていってはダメかの……?」
「ダメだ。拾ったところに帰してこい」
「捨て猫を拾ってきたみたいじゃの…」
名残惜しそうに、不死鳥――ピー太の羽に手を滑らせるクレバス。
涙目でこちらを振り返ってくるが、首を縦に振るつもりはない。
うちには、愛する娘が二人と、すでに一人分の手間では済まない居候が一人。
これ以上、手のかかりそうなやつを増やす気はない。
「すまんの……ピー太や……連れていけないようじゃ……」
『大丈夫です……我が主よ……。あの者と暮らすとなると私の胃に穴が開きます』
しれっと暴言を吐きやがったな、この鳥。
その気になれば今すぐ丸焼きにできるが、今日は遠足の日だ。慈悲深く見逃しておく。
代わりに、この場所一帯にさりげなく隠蔽をかけた広域殲滅魔法の魔法陣を刻んでおいた。
来年の同じ日、ここは一瞬だけ香ばしい匂いに包まれるだろう。……合掌。
「クレバス。帰るぞ」
シロを肩車し、ミドリを左腕で抱き上げる。
ここ最近は、行きと帰りで抱える位置を入れ替えるのが定番になっていた。同じ配置だと、帰宅後にシロがふてくされるからだ。
「疲れたのじゃ。動きとうない」
「駄々こねるな」
「嫌じゃー! 動きとうないー!」
その場にひっくり返って手足をばたつかせるクレバス。
見た目はどう見ても年端もいかない少女、経歴は俺より長生きの元・世界神、やっていることは駄々っ子。情報量が多い。
ため息をひとつ吐いて、近づく。右手を空けて、そのまま脇から抱え上げた。
「やっ……やめるのじゃ! 恥ずかしいじゃろ!」
「もう遅い」
クレバスが顔を真っ赤にしながら暴れる前に、地面を強く蹴る。
瞬間、周囲の風の流れが変わり、クレバスが慌てて魔法を展開した。空気抵抗を打ち消す繊細な風が、身体を包み込む。
こちらは速度を落とすつもりはない。
どうやら、家の方角からは来客の気配が二つ。
一つは、魔力の質に覚えがある。もう一つは、まったく知らない。
客を呼んだ覚えはないが、シロとミドリがいる以上、速やかに状況を見に行く必要があった。
森の緑が、矢のように後方へ流れていく。
やがて木々の切れ目が途切れ、家の輪郭が視界に現れた。
家の前、扉の前に、人型の影が二つ。
シロとミドリは、いつの間にかすやすやと寝息を立てている。シロは相変わらず、俺の頭を枕にしてヨダレを垂らしていた。ひんやりしていて、少しだけ気持ち悪い。
速度を落とし、地面に降り立つ。
家と来客を挟む形で、正面から声をかけた。
「人の家に何の用だ?」
「おお! やっと帰って来たか!」
「お父様。この者がそうなのですか?」
門の前に立っていたのは、筋骨隆々とした中年男と、十七、八ほどに見える若い女。
どちらの顔にも見覚えはないが、男の方からは、懐かしさを伴う魔力の波が伝わってきた。
魔力の流れを解析する。
南側の山脈の奥、洞窟の中で気ままに眠っている“龍みたいなトカゲ”の気配だ。
六千年ほど前、何度も何度も挑み殺されを繰り返した相手。
あの頃は、どれだけ挑んでも勝ち切れなかった。結果は良くて引き分け。今なら、おそらく勝てる。
「この気配……お主、まさか龍王サイガか……?」
脇に抱えられたままのクレバスが、目を丸くして男を見つめる。
龍王? このトカゲのおっさん、そんな肩書きだったのか。後でサインでも貰っておくか。
「まさか儂のことを知っているとは! さてはお嬢さん……なるほど。神気を纏っておる、この世界の者じゃないな?」
「初にお見えにかかる。クレバスじゃ。元、この世界の管理を任された神であるが今は落ちて邪神じゃ」
「なるほどな! でもそんな格好で言われてもな……!!」
龍王サイガが腹の底からガッハッハと笑う。
クレバスは羞恥で肩を震わせながら、俺の腰布を全力で引っ張って抗議してきた。やめろ、本当に取れる。
どうして脇に抱えられた体勢のまま自己紹介を始めるのか、そこから問い詰めたい。
「おっさん、南のトカゲだろ?」
「貴様っ!! お父様を愚弄するとは許さんぞ!!」
「おう、元気にしてたか?」
若い女がピリついた声を上げるのと、サイガがにこやかにこちらへ笑顔を向けるのはほぼ同時だった。
娘らしい方は、ずっと眉間に皺を寄せて俺を睨んでいる。
「おい……シュウ……創造神様が創りし原初の生命である龍王をトカゲ呼ばわりとはお主……死ぬぞ?」
横でクレバスが、震える声でささやいてくる。
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「心配しなくていいぞ、お嬢さん。こいつは殺しても死なない奴だ。儂だって昔に何回殺したか覚えておらん」
サイガが楽しそうに肩をすくめる。
初めて挑んだ頃の記憶を掘り起こすと、桁の感覚が麻痺してくる。
ざっくり言って八桁回は死んだ。凄まじいリスキルだった。
呼び名に関しては少々配慮が必要かもしれないが、今さら「龍王様」などと殊勝な態度を取る気にもなれない。
ふと腕の中を見ると、シロとミドリは完全に夢の世界だ。
シロは俺の頭からずり落ち、肩のあたりで口を開けて寝ている。ヨダレがじわりと肌を冷やした。
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