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第1話 騎士団長の死
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父は、病で亡くなった。
剣で倒れることもなく、
戦場で命を落とすこともなく、
長く国を守り続けた騎士団長は、
静かに寝台の上で息を引き取った。
ヴァレリア・グランツは、
その最期に立ち会っていた。
「……すまないな」
掠れた声で、父はそう言った。
謝られる理由はなかった。
父は十分すぎるほど、この国に尽くしてきた。
周囲の国々がフローリア王国に手を出さなかったのは、
国が豊かだったからでも、
外交が優れていたからでもない。
ただ一つ。
グランツ家が、騎士団を率いていたからだ。
父はそれを誇らしげに語ることはなかった。
ただ、当たり前の仕事として、
剣を取り、命を賭してきた。
葬儀は簡素だった。
華美な式は、父の遺志ではない。
騎士団員たちが静かに頭を垂れ、
王城から派遣された役人が形式的な弔辞を述べる。
それだけだった。
数日後、
ヴァレリアは正式に騎士団長の任を継いだ。
異論は出なかった。
年若いとはいえ、
彼女はすでに副官として実務を担っていたし、
騎士団内でその力量を疑う者はいなかった。
むしろ問題は、
王城の反応だった。
「女性が騎士団長とは、時代も変わったものだ」
王子エドガーは、
そう言って微笑んだ。
その声音に、悪意はなかった。
ただ、軽かった。
「だが、もうこの国に大きな争いは起きない」
「武力に頼る時代は終わったんだよ、ヴァレリア」
ヴァレリアは、答えなかった。
つい先日、
国境の向こうで一つの国が滅んだ。
城壁は破られ、
守る者を失った街は、
略奪と混乱に飲み込まれた。
逃げ延びた難民の列を、
彼女はこの目で見ている。
話し合いが間に合わなかった国の末路を。
「騎士団も、いずれは縮小すべきだろうね」
エドガーの言葉は、
未来を語るもののようでいて、
現実から目を逸らしていた。
ヴァレリアは、その場では何も言わなかった。
言葉を尽くしても、
届かない相手がいることを、
彼女はすでに知っていたからだ。
その日、騎士団の訓練場は、
いつもと変わらぬ音に満ちていた。
剣の打ち合う音。
号令。
鎧の擦れる音。
国が平穏である限り、
それは無駄な備えに見えるのかもしれない。
けれどヴァレリアは知っている。
備えがあるから、
争いが起きていないのだと。
嫌な予感が、
胸の奥に静かに沈んでいた。
それが形になるまで、
そう時間はかからない。
剣で倒れることもなく、
戦場で命を落とすこともなく、
長く国を守り続けた騎士団長は、
静かに寝台の上で息を引き取った。
ヴァレリア・グランツは、
その最期に立ち会っていた。
「……すまないな」
掠れた声で、父はそう言った。
謝られる理由はなかった。
父は十分すぎるほど、この国に尽くしてきた。
周囲の国々がフローリア王国に手を出さなかったのは、
国が豊かだったからでも、
外交が優れていたからでもない。
ただ一つ。
グランツ家が、騎士団を率いていたからだ。
父はそれを誇らしげに語ることはなかった。
ただ、当たり前の仕事として、
剣を取り、命を賭してきた。
葬儀は簡素だった。
華美な式は、父の遺志ではない。
騎士団員たちが静かに頭を垂れ、
王城から派遣された役人が形式的な弔辞を述べる。
それだけだった。
数日後、
ヴァレリアは正式に騎士団長の任を継いだ。
異論は出なかった。
年若いとはいえ、
彼女はすでに副官として実務を担っていたし、
騎士団内でその力量を疑う者はいなかった。
むしろ問題は、
王城の反応だった。
「女性が騎士団長とは、時代も変わったものだ」
王子エドガーは、
そう言って微笑んだ。
その声音に、悪意はなかった。
ただ、軽かった。
「だが、もうこの国に大きな争いは起きない」
「武力に頼る時代は終わったんだよ、ヴァレリア」
ヴァレリアは、答えなかった。
つい先日、
国境の向こうで一つの国が滅んだ。
城壁は破られ、
守る者を失った街は、
略奪と混乱に飲み込まれた。
逃げ延びた難民の列を、
彼女はこの目で見ている。
話し合いが間に合わなかった国の末路を。
「騎士団も、いずれは縮小すべきだろうね」
エドガーの言葉は、
未来を語るもののようでいて、
現実から目を逸らしていた。
ヴァレリアは、その場では何も言わなかった。
言葉を尽くしても、
届かない相手がいることを、
彼女はすでに知っていたからだ。
その日、騎士団の訓練場は、
いつもと変わらぬ音に満ちていた。
剣の打ち合う音。
号令。
鎧の擦れる音。
国が平穏である限り、
それは無駄な備えに見えるのかもしれない。
けれどヴァレリアは知っている。
備えがあるから、
争いが起きていないのだと。
嫌な予感が、
胸の奥に静かに沈んでいた。
それが形になるまで、
そう時間はかからない。
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