騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊

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第2話 王城への召喚

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王城からの召喚状は、唐突だった。

騎士団長就任の挨拶だろう。
ヴァレリアはそう判断し、
いつも通りの装いで王城へ向かった。

道中、訓練場の音が遠ざかる。

あの音は、
この国が平穏でいられる理由の一つだ。

それを、城の中の人間が理解していない。
ヴァレリアは、そのことに慣れてしまっていた。

謁見の間には、
王と大神官、数名の側近が揃っていた。

そしてその中心に、
王子エドガーがいた。

彼の隣には、見覚えのない令嬢が立っている。

薄い色のドレス。
華奢な肩。
花を飾った髪。

守られることを前提に作られた人形のように、
彼女はそこにいた。

「来てくれたか、ヴァレリア」

エドガーは親しげに言った。

その声は、昔と同じだった。
婚約者として呼ばれた頃と。

けれど、
その目は彼女ではなく、隣の令嬢に向いている。

「こちらはマリエルだ」
「僕の――大切な人だよ」

ヴァレリアは瞬きを一つした。

側近たちの表情は固い。
王は何も言わない。
大神官は祈りの姿勢を崩さない。

この場で否定されることはない。
最初から、そう決まっている顔だった。

エドガーは満足げに続ける。

「君も知っているだろう? この国はもう戦を望んでいない」
「剣を持たず、互いを信頼し、平和を選ぶべきなんだ」

ヴァレリアは黙って聞いた。

「武力があるから争いが起きる」
「剣を持つ者がいる限り、火種は消えない」

その言葉を聞いても、
驚きはしなかった。

彼は昔から、
そういう言葉が好きだった。

「だから、騎士団を解体する」

ヴァレリアは、そこで初めて顔を上げた。

「……解体、ですか」

声は平坦だった。

王子の口調は、決断を告げるというより、
善行を披露するような軽さだった。

「兵力は恐怖を生む」
「恐怖が疑いを生み、疑いが争いを生む」
「なら、最初から武力を捨てればいい」

側近の一人が咳払いをした。
だが、止めはしない。

止める気がないのだ。

「騎士団員たちは、どうするおつもりで」

ヴァレリアが問うと、
エドガーは困ったように眉を下げた。

「必要な者は、城の警備に回せばいい」
「それ以外は……職を探せばいいだろう」
「平和な国なんだから、働き口はいくらでもあるさ」

ヴァレリアは何も言わなかった。

つい先日滅んだ国では、
働き口など、真っ先に消えた。
働き口どころか、生活すらなくなった。

守りが崩れた瞬間、
生活は順番に壊れていく。

それを、彼は知らない。

いや――
知ろうとしていない。

「ヴァレリア」

エドガーは、少しだけ声を柔らかくした。

「君には感謝している」
「君の家は長く国を守ってきた」

一拍置いて、
彼は笑った。

「でももう、必要ない」

その言葉が、
謁見の間に静かに落ちた。

ヴァレリアは唖然とした。

怒りが湧いたわけではない。
悲しみが込み上げたわけでもない。

ただ、理解できなかった。

この国は、
自分から潰れようとしている。

それを高潔さだと思っている。

「……承知しました」

返事は、それだけだった。

反論はしなかった。
説得も試みなかった。

ここで何を言っても、
この場の誰も聞かない。

ヴァレリアは、そう確信していた。

エドガーは、
承認されたと思ったのだろう。

満足げに頷き、
マリエルの手を取った。

「君は賢いね」
「だからこそ分かってくれると思っていた」

ヴァレリアは、その光景を見つめた。

嫌な予感が、
胸の奥でゆっくりと形になっていく。

これは、まだ序章だ。

本当に告げられるべき言葉は、
この後に来る。
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