昭和初期、帝都東京。
軍と諜報が交錯する裏の世界で、彼女は“椿”という名で呼ばれていた。
元華族の娘にして、現在は国家の影で動く女工作員。
決して笑わず、紅茶に砂糖を入れることもない。
壊れた懐中時計を肌身離さず持ち歩く彼女には、誰にも言えない過去があった。
そしてある日、彼女の前に現れたのは、物腰の柔らかな青年将校――南条透。
彼は椿の兄のかつての親友であり、兄の死の“真実”に近い場所にいた人物だった。
だが南条はまだ気づいていない。
彼女がその“妹”であることを。
そして、あの日兄が差し出していた金平糖を、今も椿が本当は愛していることを。
冷たい戦火の中、二人は名も残らぬ任務に向かう。
微笑ひとつ残さずに。
それでも、最期に交わされた想いは、
記録に残らずとも、確かにそこにあった。
これは、笑わない女と、償いたかった男の、静かで確かな、諜報戦記。
文字数 10,290
最終更新日 2025.05.31
登録日 2025.05.03
明治の風が吹き抜ける吉原。
時代の終わりとともに、花魁たちもまた静かに消えていく。
かつて“つるの太夫”と呼ばれた私は、今ではもう古株の飾り物。
煙草をふかしながら、何度も思う。
――こんな場所で、私は何を待っているのだろう。
ある日、ひとりの書生が現れた。
名は柴山洸一。薄汚れた学帽に、理屈っぽい目をした若者。
遊女を研究しているのだという彼は、私を“歴史”として見ていた。
それでも構わない、と思った。
私はもう、誰かの欲望になることに疲れていたから。
煙草の火が消えるまでの数日間、
簪のように抜けない記憶を、誰かの胸に挿せたら――
それだけで、もう十分だと。
これは、忘れられることを選んだ女と、
忘れられないものを探していた男の、
ほんの短い、春の物語。
文字数 4,139
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.02
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
文字数 23,877
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.06
――感情が、わからない。けれど、それでも「誰かの声を聞きたい」と願った。
元自衛官の女性カウンセラー・篠原梓。
かつては“理想の指揮官”として部下に慕われながらも、守れなかった仲間の死を経て、静かに制服を脱いだ。
感情を“理解する”ことに困難を抱えながら、彼女は今日もカウンセリングルームで、人々の声に耳を傾ける。
パワハラに悩む人、子育てに行き詰まる母親、完璧主義に疲れた相談者――
“答え”を出さないまま、ただ寄り添うその姿に、いつしか誰かの心がほどけていく。
これは、「共感できないからこそ、観察し続ける」ひとりのカウンセラーの物語。
傷ついた人々の沈黙と向き合いながら、自らの過去とも静かに向き合っていく。
心にじんわりと沁みる連作短編、静かに始まります。
文字数 26,189
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.04
「清らかで可憐な聖女様が、祈りでみんなを癒してくれる」――
そんな幻想、まだ信じてるんですか?
王都から遠く離れた村で、敬虔な司祭として祈りを捧げていたクレリック・セラ。
しかしその正体は、かつて“白の弔鐘”と呼ばれ、
魔族ですら恐れた元・退魔師(エクソシスト)だった。
教会の命令は無視、神の存在には懐疑的。
祈りは“魔力チャージ”と割り切り、
死霊と会話しながら淡々と殺し、癒し、祓ってきた。
そんな彼女のもとに現れたのは、王都からの使者――元・勇者である第二王子の命令だった。
「死者の声が、王都から消えている。お前の力が必要だ」
暗殺、人身売買、人体実験。
かつて魔族と戦った聖戦の記憶が、今度は人間同士の争いのなかで蘇る。
「信仰? 戦場にそんな贅沢、ありましたっけ?」
神を信じぬクレリックが、再び死者とともに歩き出す。
文字数 25,719
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.05
もしも、東京が戦場になっていたら――
昭和二十年、八月。
原爆も講和もなかった世界で、帝都・東京は炎に呑まれる。
逃げ惑う市民、崩れゆく大義、飢え、狂気、そして「言葉」。
徴兵を免れたはずの詩人・沢井遼は、銃を渡され、防衛線へと放り込まれる。
彼が最後まで手放さなかったのは、引き金ではなく、一冊の詩稿だった。
「生きるために、詩を書いたのではない。
死ぬまで、詩を書いていたかっただけだ。」
これは、“本土決戦”というもしもの地獄で、
名もなき一人の青年が綴った、
誰にも読まれないはずだった敗戦詩篇。
焼け落ちた街で、彼は何を見たのか。
そして、何を遺したのか――
文字数 12,538
最終更新日 2025.05.30
登録日 2025.05.03
―原爆が存在しなかった世界で、大東亜戦争は“終わらなかった”。―
硫黄島、沖縄、小笠原、南西諸島。
そして、九州本土決戦。
米軍上陸と同時に日本列島は泥濘の戦場と化し、
昭和天皇は帝都東京に留まり、国体を賭けた講和が水面下で進められる。
帝国軍高官・館林。
アメリカ軍大将・ストーン。
従軍記者・ジャスティン。
帝都に生きる女学生・志乃。
それぞれの視点で描かれる「終わらない戦争」と「静かな終わり」。
誰も勝たなかった。
けれど、誰かが“存在し続けた”ことで、戦は終わる。
これは、破滅ではなく“継がれる沈黙”を描く、
もうひとつの戦後史。
文字数 7,264
最終更新日 2025.05.25
登録日 2025.05.18
“この世界は、筋書き通りに進まなければならない。”
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したレティツィアは、
原作通りに破滅することこそが、この物語の正しさだと信じていた。
侍女を威圧し、ヒロインを挑発し、王太子の婚約者として――
美しく、冷たく、潔く破滅の道を歩むはずだった。
けれど、王太子アーデルハイトは言った。
「君が沈黙を続けるなら、僕がその沈黙に意味を与える。
君が悪役を演じるなら、僕が君を英雄に仕立てる」
筋書きが崩れる音がした。
誰もが信じていた“物語”が、静かに終わりを告げる。
これは、“忠臣”と誤解された少女と、
“秩序”を壊してでも愛した青年王太子の、
誤解から始まる真実の恋。
――たとえ、それが世界を歪めるとしても。
文字数 19,037
最終更新日 2025.05.20
登録日 2025.05.04
その町は、雨が降るたびに匂いを変える。
土の湿り気、遠い記憶のなかの声、そして——忘れたはずの罪。
都会で暮らす三流ライター・朝倉透のもとに届いたのは、かつての同級生・佐伯芽衣の訃報だった。
葬儀をきっかけに25年ぶりに帰郷した彼は、封じられた旧校舎と、断片的な記憶の前に立ち尽くす。
そこには、最後まで返事の届かなかった交換日記と、「あなたに出会えてよかった」とだけ綴られた言葉があった。
忘れていたのではない。
思い出したくなかっただけだ。
償いなど、もう誰にも届かない。
それでも、あの匂いの中で、彼はようやく“自分”に出会っていく。
——雨は、すべてを洗い流してくれるわけじゃない。
◆
記憶と罪をめぐる、静かな心理ミステリー。
文字数 10,131
最終更新日 2025.05.13
登録日 2025.05.06
「仲間と紡ぐ冒険の果てに――君もこの旅を見届けて!」
魔王討伐の使命を胸に集まった、ちょっとクセのある5人の冒険者たち。
明るく優しい勇者カイルを中心に、熱血騎士、影を操る盗賊、癒しのヒーラー、そして謎多き魔法使いが織りなす物語。
試練と絆、そして隠された秘密が絡み合う旅路の中で、仲間たちはそれぞれの過去や葛藤と向き合っていく。
一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に未来を探す彼らが最後に見つけるものとは?
友情だけじゃない、すれ違う想いと秘めた感情。
仲間を守るための戦いの果てに待つのは、希望か、それとも……?
正統派ファンタジー×恋愛の心揺さぶる物語。
「続きが気になる」って思ったあなた、その先をぜひ読んでみて!
文字数 217,014
最終更新日 2025.05.12
登録日 2024.12.22
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
文字数 295,767
最終更新日 2025.05.12
登録日 2024.11.24
「神の声?──ええ、聞こえましたとも。聞こえたふりをするのは得意なんです」
神に選ばれし聖女として、祝福を授かる少女・エルナ。
だがその正体は、前任の聖女が急死したため急遽仕立て上げられた“影武者”にすぎなかった。
祈りを捧げ、笑顔で癒しをもたらし、奇跡を演出する──
そのすべてが嘘であり、操られた舞台の上での役割だった。
けれど、世界はその嘘に救われ、民は彼女を信じていた。
やがて彼女は思う。「この神は、果たして本当に存在するのか?」
偽りから始まった聖女の物語は、やがて“信仰そのもの”を覆す革命へと変わる。
その口から語られた最後の祈りは、神を裏切る宣言だった。
信仰とは何か。人はなぜ神に縋るのか。
──これは、嘘と知りながら祈った少女が、世界を変えてしまった物語。
文字数 31,994
最終更新日 2025.05.05
登録日 2025.05.03
「社畜なだけなのに異世界で悲劇のヒロインにされました」は、普通の会社員だった主人公エリが、異世界に転移したことで波乱万丈の人生を送ることになる物語。
突然「漆闇の髪の乙女」と呼ばれ、滅びかけた国の再建を任されることになった彼女は、勇者パーティや街の人々と力を合わせて、崩壊した国を復興していきます。でも、元社畜のエリは自己評価が低め。魔王軍に捕らえられていたという誤解や、求婚の話が次々と舞い込む中で、奮闘しながらも一生懸命前を向いていきます。
仕事も恋も真剣勝負!そんなエリの姿に勇者パーティも、街の人々も次第に惹かれていきます。そして、隣で彼女を支えるのは……?
コミカルなやり取りと胸キュン展開、さらに泣ける感動シーンも満載!読んだら止まらなくなる異世界復興ストーリー、ぜひお楽しみください!
※直接表現はしませんが、匂わせでR展開を示唆するものがあります。苦手な方は御遠慮ください。
文字数 133,147
最終更新日 2025.04.16
登録日 2025.01.28
小国イグニスの当主が討ち死にし、跡継ぎが絶えたとされた日。
城の奥から現れたのは、「レイナの息子」――のはずの、少女だった。
その正体は、誰にも知られていなかった第三夫人の娘。
彼女は名を捨て、性別を偽り、“エリアス・イグニス”として国を引き継ぐ。
魔法が癒しと生活に使われるだけの世界で、
彼女は母の魔導具をもとに、魔法の兵器化=“魔導兵”を創設。
衰退する領地、敵の侵攻、内乱、教会、皇帝――
革命の火は、誰にも知られなかった少女の手で灯された。
文字数 12,219
最終更新日 2025.04.09
登録日 2025.04.06
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
文字数 95,337
最終更新日 2025.03.08
登録日 2025.01.03