騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊

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第3話 婚約破棄

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沈黙は、長くは続かなかった。

エドガーは一度、咳払いをしてから、
まるで話題を切り替えるように口を開いた。

「さて、もう一つ話がある」

その声音に、
ヴァレリアは既視感を覚えた。

決定事項を伝えるときの声だ。
相談ではない。
確認でもない。

「君との婚約を、ここで解消したい」

謁見の間に、
小さなどよめきが走る。

形式上、
騎士団長家と王家の結びつきは、
この国の抑止力の一つだった。

それを切るという意味を、
理解していない者はいないはずだった。

「理由は簡単だよ」

エドガーは、
ヴァレリアではなく、
マリエルを見ながら言った。

「僕は、もっとこの国に相応しい未来を選びたい」
「武力ではなく、信頼と優しさで成り立つ国を」

マリエルは、
困ったように微笑み、
エドガーの腕にそっと触れた。

守られることを前提に、
そこにいる仕草だった。

「君は強すぎる」

エドガーの視線が、
ようやくヴァレリアに戻る。

「剣を持ち、軍を率い、
 戦を前提に物事を考えてしまう」

それは、
彼女が騎士団長である理由そのものだった。

「君がいるから、
 周囲は警戒する」
「君が火種になるんだ」

ヴァレリアは、
一瞬だけ目を伏せた。

つい先日、
滅んだ国の城壁を思い出す。

守る力を失った街が、
どれほど簡単に踏みにじられたか。

それを知った上で、
彼は今、この言葉を選んでいる。

「だから、君には国外へ出てもらう」

その宣告は、
静かだった。

処刑でも、幽閉でもない。
ただの追放。

この国にとって、
一番都合のいい形だ。

「安心してほしい」

エドガーは、
まるで慈悲を与えるように続けた。

「命までは取らない。武力を持たない場所で、静かに生きてくれればいい」

――その言葉で、
ヴァレリアは理解した。

彼は、
自分がどれほど無知であるかを、
最後まで知らない。

「異議はあるか?」

王が、形だけの問いを投げる。

ヴァレリアは、顔を上げた。

謁見の間にいる誰もが、
彼女の言葉を待っている。

怒号か。
嘆願か。
それとも、涙か。

だが――
彼女は、何も選ばなかった。

「……いいえ」

短い答えだった。

「承知いたしました」

その言葉に、
側近の一人が息を呑む。

エドガーは、
安堵したように息をついた。

「分かってくれて嬉しいよ。
君なら、きっと理解してくれると思っていた」

ヴァレリアは、
一拍置いてから口を開いた。

「一点だけ、確認を」

場の空気が、
わずかに引き締まる。

「国外追放とのことですが、私の周囲の者が、共に行くことを望んだ場合、それを、拒む理由はありますか」

意外そうな顔をしたのは、
エドガーだった。

だが、その問いを
深く考える様子もなく、
すぐに肩をすくめる。

「構わないよ」

軽い返事だった。

「侍女や使用人は、
 普通、ついて行くものだろう?一人では不便だろうしね」

側近たちも、
それ以上口を挟まない。

“連れて行く物”の話として、理解したのだろう。

「ありがとうございます」

ヴァレリアは、それだけ答えた。

彼らは気づいていない。

彼女が想定しているのが、
単なる侍女や使用人ではないことを。

剣を共に取り、
命を預け合い、
この国を守ってきた者たちであることを。

エドガーは、
すでに興味を失ったように、
話を締めにかかった。

「準備は即日で進める。早い方が、お互いのためだ」

追放の準備は、
その言葉通り、即座に始まった。

形式的な書類。
最低限の荷。
護衛もつかない旅程。

それでも、
誰も疑問を呈さなかった。

騎士団長家を切り捨てることに、
この国の上層部は、
何の痛みも感じていない。

王城を出るとき、
ヴァレリアは一度だけ振り返った。

高くそびえる城。
花の国と呼ばれたフローリア王国。

その城壁が、
どれほど脆いかを、
彼女は知っている。

「……七日も、持たないわね」

それは、
誰に聞かせるでもない、
ただの事実だった。

ヴァレリア・グランツは、
そうして国を去った。

剣も、力も、何一つ失わないまま。
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