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第2話 王城への召喚
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王城からの召喚状は、唐突だった。
騎士団長就任の挨拶だろう。
ヴァレリアはそう判断し、
いつも通りの装いで王城へ向かった。
道中、訓練場の音が遠ざかる。
あの音は、
この国が平穏でいられる理由の一つだ。
それを、城の中の人間が理解していない。
ヴァレリアは、そのことに慣れてしまっていた。
謁見の間には、
王と大神官、数名の側近が揃っていた。
そしてその中心に、
王子エドガーがいた。
彼の隣には、見覚えのない令嬢が立っている。
薄い色のドレス。
華奢な肩。
花を飾った髪。
守られることを前提に作られた人形のように、
彼女はそこにいた。
「来てくれたか、ヴァレリア」
エドガーは親しげに言った。
その声は、昔と同じだった。
婚約者として呼ばれた頃と。
けれど、
その目は彼女ではなく、隣の令嬢に向いている。
「こちらはマリエルだ」
「僕の――大切な人だよ」
ヴァレリアは瞬きを一つした。
側近たちの表情は固い。
王は何も言わない。
大神官は祈りの姿勢を崩さない。
この場で否定されることはない。
最初から、そう決まっている顔だった。
エドガーは満足げに続ける。
「君も知っているだろう? この国はもう戦を望んでいない」
「剣を持たず、互いを信頼し、平和を選ぶべきなんだ」
ヴァレリアは黙って聞いた。
「武力があるから争いが起きる」
「剣を持つ者がいる限り、火種は消えない」
その言葉を聞いても、
驚きはしなかった。
彼は昔から、
そういう言葉が好きだった。
「だから、騎士団を解体する」
ヴァレリアは、そこで初めて顔を上げた。
「……解体、ですか」
声は平坦だった。
王子の口調は、決断を告げるというより、
善行を披露するような軽さだった。
「兵力は恐怖を生む」
「恐怖が疑いを生み、疑いが争いを生む」
「なら、最初から武力を捨てればいい」
側近の一人が咳払いをした。
だが、止めはしない。
止める気がないのだ。
「騎士団員たちは、どうするおつもりで」
ヴァレリアが問うと、
エドガーは困ったように眉を下げた。
「必要な者は、城の警備に回せばいい」
「それ以外は……職を探せばいいだろう」
「平和な国なんだから、働き口はいくらでもあるさ」
ヴァレリアは何も言わなかった。
つい先日滅んだ国では、
働き口など、真っ先に消えた。
働き口どころか、生活すらなくなった。
守りが崩れた瞬間、
生活は順番に壊れていく。
それを、彼は知らない。
いや――
知ろうとしていない。
「ヴァレリア」
エドガーは、少しだけ声を柔らかくした。
「君には感謝している」
「君の家は長く国を守ってきた」
一拍置いて、
彼は笑った。
「でももう、必要ない」
その言葉が、
謁見の間に静かに落ちた。
ヴァレリアは唖然とした。
怒りが湧いたわけではない。
悲しみが込み上げたわけでもない。
ただ、理解できなかった。
この国は、
自分から潰れようとしている。
それを高潔さだと思っている。
「……承知しました」
返事は、それだけだった。
反論はしなかった。
説得も試みなかった。
ここで何を言っても、
この場の誰も聞かない。
ヴァレリアは、そう確信していた。
エドガーは、
承認されたと思ったのだろう。
満足げに頷き、
マリエルの手を取った。
「君は賢いね」
「だからこそ分かってくれると思っていた」
ヴァレリアは、その光景を見つめた。
嫌な予感が、
胸の奥でゆっくりと形になっていく。
これは、まだ序章だ。
本当に告げられるべき言葉は、
この後に来る。
騎士団長就任の挨拶だろう。
ヴァレリアはそう判断し、
いつも通りの装いで王城へ向かった。
道中、訓練場の音が遠ざかる。
あの音は、
この国が平穏でいられる理由の一つだ。
それを、城の中の人間が理解していない。
ヴァレリアは、そのことに慣れてしまっていた。
謁見の間には、
王と大神官、数名の側近が揃っていた。
そしてその中心に、
王子エドガーがいた。
彼の隣には、見覚えのない令嬢が立っている。
薄い色のドレス。
華奢な肩。
花を飾った髪。
守られることを前提に作られた人形のように、
彼女はそこにいた。
「来てくれたか、ヴァレリア」
エドガーは親しげに言った。
その声は、昔と同じだった。
婚約者として呼ばれた頃と。
けれど、
その目は彼女ではなく、隣の令嬢に向いている。
「こちらはマリエルだ」
「僕の――大切な人だよ」
ヴァレリアは瞬きを一つした。
側近たちの表情は固い。
王は何も言わない。
大神官は祈りの姿勢を崩さない。
この場で否定されることはない。
最初から、そう決まっている顔だった。
エドガーは満足げに続ける。
「君も知っているだろう? この国はもう戦を望んでいない」
「剣を持たず、互いを信頼し、平和を選ぶべきなんだ」
ヴァレリアは黙って聞いた。
「武力があるから争いが起きる」
「剣を持つ者がいる限り、火種は消えない」
その言葉を聞いても、
驚きはしなかった。
彼は昔から、
そういう言葉が好きだった。
「だから、騎士団を解体する」
ヴァレリアは、そこで初めて顔を上げた。
「……解体、ですか」
声は平坦だった。
王子の口調は、決断を告げるというより、
善行を披露するような軽さだった。
「兵力は恐怖を生む」
「恐怖が疑いを生み、疑いが争いを生む」
「なら、最初から武力を捨てればいい」
側近の一人が咳払いをした。
だが、止めはしない。
止める気がないのだ。
「騎士団員たちは、どうするおつもりで」
ヴァレリアが問うと、
エドガーは困ったように眉を下げた。
「必要な者は、城の警備に回せばいい」
「それ以外は……職を探せばいいだろう」
「平和な国なんだから、働き口はいくらでもあるさ」
ヴァレリアは何も言わなかった。
つい先日滅んだ国では、
働き口など、真っ先に消えた。
働き口どころか、生活すらなくなった。
守りが崩れた瞬間、
生活は順番に壊れていく。
それを、彼は知らない。
いや――
知ろうとしていない。
「ヴァレリア」
エドガーは、少しだけ声を柔らかくした。
「君には感謝している」
「君の家は長く国を守ってきた」
一拍置いて、
彼は笑った。
「でももう、必要ない」
その言葉が、
謁見の間に静かに落ちた。
ヴァレリアは唖然とした。
怒りが湧いたわけではない。
悲しみが込み上げたわけでもない。
ただ、理解できなかった。
この国は、
自分から潰れようとしている。
それを高潔さだと思っている。
「……承知しました」
返事は、それだけだった。
反論はしなかった。
説得も試みなかった。
ここで何を言っても、
この場の誰も聞かない。
ヴァレリアは、そう確信していた。
エドガーは、
承認されたと思ったのだろう。
満足げに頷き、
マリエルの手を取った。
「君は賢いね」
「だからこそ分かってくれると思っていた」
ヴァレリアは、その光景を見つめた。
嫌な予感が、
胸の奥でゆっくりと形になっていく。
これは、まだ序章だ。
本当に告げられるべき言葉は、
この後に来る。
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