騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊

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第5話 帝国の決断

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国境を越えた瞬間、空気が変わった。

フローリア王国側の検問は形式だけのものだったが、グラディウス帝国の関所は違う。兵士たちの視線は鋭く、動きに無駄がない。だが、城門前に連なる馬車の列を見ても、彼らは騒がなかった。荷の量、人の数、そして同行者たちの立ち姿を一瞥しただけで、ただの難民ではないと判断したのだろう。

「責任者は?」

名乗る前にそう問われ、ヴァレリアは一歩前に出た。

「ヴァレリア・グランツ。元フローリア王国騎士団長です」

その肩書きに、関所の空気がわずかに引き締まる。兵士の一人が無言で奥へ走り、待たされた時間は長くなかった。

現れたのは軍服姿の男だった。高位の階級章を付けているが、威圧的な態度はない。

「事情は聞いた」

それだけ言うと、男はヴァレリアと列を一通り眺めた。

「追放された騎士団長に、同行者多数。武装あり……だが、問題にはならん。我が国では、まず能力を見る」

拒絶も、同情もない。淡々とした判断だった。

男が広げたのは、試験書類ではなく地図だった。国境付近で続く小競り合い、敵軍の動き、補給線の歪み。その説明が終わると、短く問いかけられる。

「どう見る?」

ヴァレリアは即座に答えた。敵の狙い、崩せる地点、動くなら今しかない理由。どれも、騎士団長として日常的に考えてきたことだ。

男は一度も口を挟まなかった。すべてを聞き終えると、短く頷く。

「分かった。受け入れる」

条件交渉はなかった。恩を着せる言葉もない。

「軍属として迎える。報酬は成果に応じる。危険は多いが、それは報酬で応える」

「構いません」

ヴァレリアは迷わず答えた。

「同行者も同様だ。戦える者は戦わせる。補給、整備、後方支援……使える者は、すべて使う」

人を理想ではなく役割で見る国。その冷静さに、騎士たちは安堵した。ここでは、評価されるのだと理解したからだ。

その日のうちに仮の宿舎が用意され、食事と水が配られた。警戒はあるが、侮りはない。それだけで十分だった。

翌日、正式な辞令が下る。

ヴァレリア・グランツ。
グラディウス帝国軍所属。

肩書きは簡素だが、その重みは明確だった。

「いいタイミングだったな」

例の軍人が、ぽつりと漏らす。

「君が来なければ、こちらが攻める側だった」

ヴァレリアは答えなかった。ただ一つ、確信する。

フローリア王国は、もう詰んでいる。

この国では、信頼を言葉にしない。力と結果だけが、静かに評価される。

それでいい。
そう思えた時点で、彼女の居場所は、すでにここにあった。
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