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18章 選択の時
閑話
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険しい山道を進む中で、イアンは時折隣を歩くアリアに視線を向けていた。彼女の軽やかな足取り、そして疲れた時でも前向きな笑顔――その全てが、今の自分にとってかけがえのないものだと気づき始めていた。
イアンは杖を握り直しながら、無意識に小さく息を吐いた。彼の心に浮かんでいたのは、いつも笑顔で自分を支えてくれるアリアの姿だった。
(彼女は本当に強い。両親を失い、魔力を持たない不便な体質でも、ここまで前を向いて進んでいる。)
そんな彼女の強さに感心しながらも、イアンはどこか不安を覚えていた。彼女が無鉄砲に突き進むたび、自然と自分が前に出て守る役割を担おうとしている。
(守る、か。……俺がそんなことを考える日が来るとはな。)
自嘲気味に微笑みながら、イアンは再び前を向いた。しかしその視線の先には、またアリアが剣を振りながら陽気に進む姿が見える。
途中で一息つくため、二人は川沿いの岩場に腰を下ろした。アリアが剣を磨きながら何かを考えているのを見て、イアンはふと口を開いた。
「剣の調子はどうだ?」
「うん、すごくいい感じ!なんか、この剣が私をもっと守ってくれてる気がするんだ。」
アリアが嬉しそうに笑顔を見せる。その屈託のない表情に、イアンは一瞬だけ心が揺れた。
(……俺の力が彼女を守るものであるならいいが、彼女の剣は……代償を伴う力だ。それが彼女の負担にならなければいいが。)
杖を握りしめる手に力が入るのを感じながら、イアンは静かに息を整えた。
「ねえ、イアン。」
突然、アリアが自分に声をかけた。イアンが彼女を見やると、彼女は剣を膝に置いて、自分をじっと見つめていた。
「……どうした?」
「なんでもない。ただ、いつもありがとうって言いたくなっただけ。」
その言葉に、イアンは一瞬言葉を失った。アリアの純粋な感謝の言葉が、彼の胸にじわりと広がっていく。
「……俺は君を助けるためにここにいる。それだけだ。」
「それだけ、ね。ほんと、イアンって冷たいんだから。」
アリアが冗談めかして笑う。その笑顔が、自分の心にどれほど影響を与えているか――イアンはそのことを認めるのが少し怖かった。
夕暮れの光が二人を照らす中、野営の準備をしているアリアを見ながら、イアンは自分の中で起きている変化に気づき始めていた。
(俺は……彼女をただ守りたいだけじゃない。だが、それ以上の感情を持つことが、果たして許されるのか?)
イアンは、幼い頃に母ヴァレリアに置いて行かれた孤独を思い出した。自分が人間ではないことを強く自覚している以上、誰かと深く関わることに躊躇いがあった。
(俺が彼女を守ることで満足しなければならない。それ以上の想いを抱いても、彼女に迷惑をかけるだけだ。)
そう思いながらも、アリアが焚き火のそばで笑顔を見せるたびに、イアンの中の理性が揺らぐ。
「イアン、そっちの荷物取ってくれる?」
「……ああ。」
アリアの何気ない頼みごとにも、自然と応じてしまう自分に気づき、イアンは短く息を吐いた。
(俺は……アリアにどれだけ甘いんだ。)
それでも、彼女が笑顔を向けてくれるだけで、どこか安心する自分がいる。イアンはその感情を心の奥にしまい込み、目の前の焚き火に視線を戻した。
(俺が迷うべきではない。俺の役目はただ一つ、彼女を守り抜くことだ。)
そう心に決めるが、彼女の笑顔を見るたびに胸の中で揺れる感情に、イアンはまだどう向き合うべきか分からずにいた。
イアンは杖を握り直しながら、無意識に小さく息を吐いた。彼の心に浮かんでいたのは、いつも笑顔で自分を支えてくれるアリアの姿だった。
(彼女は本当に強い。両親を失い、魔力を持たない不便な体質でも、ここまで前を向いて進んでいる。)
そんな彼女の強さに感心しながらも、イアンはどこか不安を覚えていた。彼女が無鉄砲に突き進むたび、自然と自分が前に出て守る役割を担おうとしている。
(守る、か。……俺がそんなことを考える日が来るとはな。)
自嘲気味に微笑みながら、イアンは再び前を向いた。しかしその視線の先には、またアリアが剣を振りながら陽気に進む姿が見える。
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(……俺の力が彼女を守るものであるならいいが、彼女の剣は……代償を伴う力だ。それが彼女の負担にならなければいいが。)
杖を握りしめる手に力が入るのを感じながら、イアンは静かに息を整えた。
「ねえ、イアン。」
突然、アリアが自分に声をかけた。イアンが彼女を見やると、彼女は剣を膝に置いて、自分をじっと見つめていた。
「……どうした?」
「なんでもない。ただ、いつもありがとうって言いたくなっただけ。」
その言葉に、イアンは一瞬言葉を失った。アリアの純粋な感謝の言葉が、彼の胸にじわりと広がっていく。
「……俺は君を助けるためにここにいる。それだけだ。」
「それだけ、ね。ほんと、イアンって冷たいんだから。」
アリアが冗談めかして笑う。その笑顔が、自分の心にどれほど影響を与えているか――イアンはそのことを認めるのが少し怖かった。
夕暮れの光が二人を照らす中、野営の準備をしているアリアを見ながら、イアンは自分の中で起きている変化に気づき始めていた。
(俺は……彼女をただ守りたいだけじゃない。だが、それ以上の感情を持つことが、果たして許されるのか?)
イアンは、幼い頃に母ヴァレリアに置いて行かれた孤独を思い出した。自分が人間ではないことを強く自覚している以上、誰かと深く関わることに躊躇いがあった。
(俺が彼女を守ることで満足しなければならない。それ以上の想いを抱いても、彼女に迷惑をかけるだけだ。)
そう思いながらも、アリアが焚き火のそばで笑顔を見せるたびに、イアンの中の理性が揺らぐ。
「イアン、そっちの荷物取ってくれる?」
「……ああ。」
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(俺は……アリアにどれだけ甘いんだ。)
それでも、彼女が笑顔を向けてくれるだけで、どこか安心する自分がいる。イアンはその感情を心の奥にしまい込み、目の前の焚き火に視線を戻した。
(俺が迷うべきではない。俺の役目はただ一つ、彼女を守り抜くことだ。)
そう心に決めるが、彼女の笑顔を見るたびに胸の中で揺れる感情に、イアンはまだどう向き合うべきか分からずにいた。
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