魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

18章 選択の時

閑話

街での穏やかな時間が続く中、アリアはギルドで日々の訓練や雑用をこなしながら、次の冒険への準備を進めていた。そんなある日、ギルドホールで女性メンバー数人に囲まれ、ある話題を振られる。

女性メンバーたちの質問攻め

「ねえ、アリア。」

明るい声で話しかけてきたのは、ギルドの受付嬢の一人、エレナだった。彼女はいつも親しげな笑顔でギルドメンバーたちと接している。

「何？どうしたの？」

アリアが手にしていた冒険記録の書類を置き、エレナに向き直ると、後ろから他の女性メンバーたちも顔を覗かせた。

「イアンとずっと旅してるんでしょ？どう？一緒にいて楽しい？」

エレナの問いに、アリアは一瞬きょとんとした表情を浮かべた。

「え、楽しいかって……普通だよ。頼りになるし、助けてもらうことも多いし。」

「あらあら、頼りになるだけ？ほら、イアンって顔もいいし、優しいし、結構女性に人気あるんだよ？」

その言葉に、アリアは思わず目を瞬かせた。

「えっ……イアンが？」

「知らなかったの？結構ファン多いんだから。冷静で頼れる感じがいいってね。」

「そ、そうなの？」

突然の事実に、アリアは動揺を隠せなかった。旅の間、イアンが周囲にどれほど注目されているかなんて考えたこともなかった。

エレナたちが笑いながら話しているのをぼんやり聞きながら、アリアの頭の中にはふと、誰かと一緒に歩むイアンの姿が浮かんできた。

（イアンが誰かと一緒にいる……例えば、ギルドの誰かとか、もっと大人の人とか……。）

その想像は、アリアの心に思った以上の違和感をもたらした。胸がチクリと痛むような感覚に、彼女は目を伏せた。

（なんで私、こんなに気になるんだろう……。）

思い返せば、イアンはいつも自分のそばにいてくれた。旅の間も街にいる間も、彼がいることが当然のように思えていた。しかし、その「当然」が誰か別の人に向けられる可能性を考えると、なぜか胸がざわついて仕方がない。

アリアが無言で考え込んでいると、エレナが意味深な笑みを浮かべながら口を開いた。

「ねえアリア、もしかして……。」

「え、なに？」

「……あんた、イアンのこと好きなんじゃない？」

その言葉に、アリアは耳まで真っ赤になった。

「そ、そんなことないよ！何言ってるの、エレナ！」

慌てて手を振るアリアを見て、周囲の女性メンバーたちは一斉に笑い始めた。

「えー、怪しい！そんなに慌てるなんて、図星なんじゃない？」

「まあまあ、無理に認めなくてもいいけどさ。旅をしてる間にもっと仲良くなれるんじゃない？」

「むしろ私たち全員で応援するから、早く何とかしちゃいなよ！」

あっという間に応援体制に入る女性メンバーたちに、アリアは顔を押さえてうつむいた。

「も、もう！そんな話やめてよ！」


その日の夕方、ギルドからの帰り道。アリアは一人で石畳の道を歩きながら、女性メンバーたちに言われた言葉を思い返していた。

（好き……私がイアンのことを？）

胸の中で静かに芽生えたその感情に、自分自身でもどうしていいか分からなかった。ただ、イアンが自分以外の誰かといる想像をすると、心がざわつく。それだけは確かだった。

「もしかして、本当に……。」

アリアは足を止め、少しだけ頬を赤らめながらため息をついた。