魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊

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36章 セイントリヴァー

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ローデンの街を出発した朝、空は高く晴れ渡り、爽やかな風が野を駆け抜けていた。アリアたちは、ギルドの仲間たちやユーゴの見送りを受けながら、街の門を後にした。

「さて、次の目的地はセイントリヴァー。ここからは森を抜けて、川沿いの道を進むのが最短ルートだ。」

地図を広げながら、ルイスが旅の概要を口にする。その声にはいつもの軽快さが混じっていたが、どこか慎重な響きも感じられる。

「神聖魔法が濃密って言われてる場所だよね。……イアン、大丈夫かな?」

アリアが少し心配そうに横を見ると、イアンは静かに前を見据えたまま、短く答えた。

「心配するな。影響が出るのは聖域に入ってからだろう。それまでは問題ない。」

「そうだな。むしろ道中で何が起きるかの方が心配だ。」

ルイスが剣の柄を軽く叩きながら言った。その言葉に、アリアは気を引き締めるように頷く。

セイントリヴァーへの道は緩やかに下りながら、深い森へと続いていた。日差しが木々の間から柔らかく差し込み、森全体が穏やかな静けさに包まれている。

「なんだか、こういう静かな道を歩くのも久しぶりだね。」

アリアが剣を肩に乗せながら言うと、イアンが小さく頷いた。

「ああ。最近は戦いの場ばかりだったからな。こうして平和な時間を過ごせるのは悪くない。」

ルイスが後ろから軽く笑い声を漏らした。

「お前ら、本当に冒険者らしくない会話だな。もっと『危険が待ち構えているかもしれない』とか考えないのか?」

「……まあ、ルイスがいるから大丈夫かなって。」

アリアが肩をすくめて答えると、ルイスは苦笑いを浮かべた。

「それはそれで複雑だが、まあいい。俺の剣で守ってやるよ。」

その軽口に、三人の間にふっと和やかな空気が流れた。


昼過ぎ、森の出口近くで短い休憩を取ることになった。アリアが水筒を片手に木陰で一息ついていると、イアンが近づいてきた。

「疲れていないか?」

その問いかけに、アリアは軽く首を振った。

「ううん、大丈夫。でも、イアンこそ平気?」

「俺は慣れている。お前の方が心配だ。」

イアンの言葉に、アリアは少しだけ視線を落とした。

「イアンはいつも私のことばかり心配してるよね。」

「当然だろう。お前は俺にとって……大事な仲間だからな。」

その声に一瞬の躊躇が混じったのを、アリアは見逃さなかった。彼女はわずかに微笑むと、そっと言葉を返した。

「うん……ありがとう。でもね、私にとってもイアンは大事な仲間だよ。」

その言葉に、イアンは少し困ったような表情を浮かべたが、やがて小さく頷いた。


森を抜け、川沿いの道を進む頃、風が少しずつ冷たくなり始めた。セイントリヴァーに近づくにつれ、周囲の雰囲気が変わってきたのだ。

「この空気……少し変だな。」

ルイスが立ち止まり、周囲を警戒するように見渡す。その表情には、わずかな緊張が見て取れた。

「敵がいる?」

アリアが剣を手にしながら問いかけると、ルイスは慎重に首を横に振った。

「いや、そうじゃない。これは魔力だ。……おそらく聖域から漏れている影響だろう。」

その言葉に、イアンが静かに周囲を見回した。

「神聖魔法がこれほどまでに満ちているとは……。思った以上に強い力があるようだ。」

彼の言葉に、アリアは少し不安そうに眉をひそめた。

「でも、進むしかないよね。私たちが止めなきゃいけないんだから。」

その言葉に、ルイスが剣を握り直し、笑みを浮かべて答えた。

「その意気だ。行こう。」


夕方近く、ついにセイントリヴァーの聖域が見えてきた。巨大な石柱が連なる入り口は、威圧感すら感じさせる荘厳さを備えていた。

「ここが……聖域。」

アリアが息を呑むように呟く。その目の前には、青白い光を放つ結界が広がっている。

「この結界を抜けると、神聖魔法の濃度はさらに高まるだろう。準備を整えてから進むべきだ。」

イアンの言葉に、アリアとルイスも頷いた。

「どんな試練が待ってるか分からないけど、乗り越えようね。」

その言葉に、イアンとルイスも力強く頷いた。
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