魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

35章 アーカナ遺跡

⑥

ローデンの街は三人の帰還を歓迎するかのように、どこか柔らかな雰囲気を漂わせていた。アリアたちはギルドに足を踏み入れると、次々と仲間たちが声をかけてきた。

「おかえり、アリア。今回も無事で良かった！」

「本当に、毎回肝が冷えるんだよな。大冒険の話、また聞かせてくれよ！」

アリアは少し照れながらも、一人一人に微笑みで応えた。イアンとルイスも後ろで控えていたが、ギルドの仲間たちが二人を見て口々に声を上げた。

「おいおい、イアンとルイスもいるじゃないか。今度こそギルドの伝説に新しいページが加わったんだな！」

ルイスが苦笑を浮かべながら肩をすくめる。

「まあ、派手な戦いだったのは否定しないけどね。」

イアンはその隣で軽く頷くだけだったが、その表情はどこか柔らかかった。



ギルドの奥にある書庫。アリアたちは持ち帰った巻物をユーゴに渡し、その内容を説明した。

「セイントリヴァーの聖域か……神聖魔法の源が存在するとも言われている場所だな。」

ユーゴは巻物に記された文字を一瞥し、その厳しい表情をさらに引き締めた。

「ヴァリオスが狙うには絶好の場所だが、お前たちにとっても決して簡単な試練にはならないだろう。特にイアン、お前には……」

ユーゴがイアンに目を向けると、イアンは静かに頷いた。

「理解しています。俺にとって神聖魔法の満ちた場所は毒のようなものだ。だが、避けて通ることはできません。」

その言葉に、アリアが強い声で割り込んだ。

「だったら、私がもっと頑張る！ イアンが苦しい時、私が前に出るから！」

その決意にユーゴは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

「お前たちなら乗り越えられるだろう。だが、準備を怠るな。セイントリヴァーはこれまでとは違う。魔族に加え、聖域そのものが敵になる可能性がある。」



アリアはギルドを出ると、いつもの武器屋と防具屋に向かった。ルイスとイアンも同行し、それぞれの装備のチェックを進める。

武器屋の店主はアリアの片手剣を手に取り、満足そうに頷いた。

「お嬢ちゃん、この剣はまだ十分使えるな。だが、これから向かう場所のことを考えると……」

そう言って、店主は店の奥から別の剣を取り出した。刃には細かな魔法刻印が施されており、アリアが目を見開く。

「これは……？」

「特注品だ。魔力を打ち消すお前の能力を最大限に生かせるよう、全ての魔力を完全に排除した純粋な鋼だ。これならどんな魔法剣にも負けないだろう。」

アリアは剣を握り、その重さとしっくりくる感触に感動を覚えた。

「ありがとう、大事に使うよ！」

一方、防具屋では、アリアの盾と防具の耐久性を確認してもらっていた。防具屋のレイナがアリアの装備を丹念に調べながら微笑む。

「お嬢ちゃんの装備は頑丈だけど、戦い方が丁寧だからこそ、傷が少ないのよね。もっと自信を持っていいわ。」

その言葉に、アリアは少し照れくさそうに笑った。



準備を終えた夜、三人はギルドの庭で語り合っていた。星空の下で、ルイスがふと呟く。

「本当にセイントリヴァーに行くんだな。神聖魔法の領域なんて、俺たちにとっても未知数だ。」

イアンは遠くを見つめながら答える。

「未知だからこそ、行く価値がある。ヴァリオスを止めるために、俺たちは進むしかない。」

アリアは二人の会話を聞きながら剣を握りしめた。その目は決意に満ちている。

「どんな場所でも、私たち三人ならきっと大丈夫だよ。」

その言葉に、イアンもルイスも微笑んだ。三人の間には確かな信頼が育まれていた。