悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

6章 動き出す3人

③

「君は無茶をしすぎる。」

ルシアン殿下の言葉は、いつになく静かで、どこか弱々しい響きがあった。捕らえられた男たちを兵士が連行していく中、彼はその場に立ち尽くしていた。

「殿下……？」

彼の姿を見て、胸がざわつく。いつも堂々とした彼が、どこか疲れ切ったように見えた。

「……もし俺が来るのが少しでも遅れていたら、君はどうなっていたか分かるか？」

彼の言葉に、私は思わず目をそらした。心配をかけたことは理解していたが、彼がここまで動揺しているとは思っていなかった。

「わたくしは……ただ……」

言い訳を探す私の言葉を遮るように、彼が近づいてきた。肩に手を置かれた瞬間、思わず息を呑む。

「無事で……本当によかった。」

彼の声が震えている。それが私の胸を強く締め付けた。殿下の指先がわずかに力を込めるのが分かる。触れられている肩から、彼の温かさが伝わってきた。

「君が傷つく姿なんて、もう二度と見たくないんだ。」

その言葉に、私の鼓動が早まる。これまで毅然とした態度を崩さなかった彼が、私のためにこんなにも動揺している。それを目の当たりにした瞬間、胸が熱くなった。

「殿下……」

「……リリアナ。」

彼は私の名前を静かに呼び、顔を近づけてくる。その瞳は真剣で、私をまっすぐに見つめていた。目が離せない。言葉が出ない。私の心臓は、自分でも驚くほど激しく鼓動している。

「君が無事で本当に安心した……。でも、もしこれが最後だと思うと……俺は……」

彼が何を言おうとしているのか、分かってしまう。だが、その言葉を聞いてはいけない気がして、私は小さく首を横に振った。

「殿下、わたくしは……」

声が震える。修道院に入ると決めた時から、私は婚約を解消することを心の中で覚悟していた。その彼に、これ以上の期待を持たせることは罪深い。

「……ごめんなさい。」

それでも、私の口から出たのはそれだけだった。

「なぜ君が謝る？」

殿下が穏やかに微笑む。その優しさに、胸の痛みがさらに強くなる。

「君が何を選ぼうとも、俺は君を守る。」

「殿下……」

「それだけは信じてくれ。」

彼の言葉に、私は小さく頷くしかなかった。こんなにも私のことを想ってくれている彼に、どうして全てを告げられるだろう。

（わたくしは……何をしているの……？）

胸の中で罪悪感が膨らむ。それでも、彼の言葉と温かさは、私の心を揺らし続けていた。