悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

6章 動き出す3人

④

ルシアン殿下が率いる兵士たちの働きで、魔石の密取引の現場は制圧された。しかし、オルフ公爵の本拠地や計画の全容までは掴めていない。捕えた男たちが口を割らない限り、真相にたどり着くにはさらなる調査が必要だった。

「殿下、本当にありがとうございました。」

兵士たちが撤収する中、私はルシアン殿下に深々と頭を下げた。彼が来なければ、私たちはここで命を落としていたかもしれない。

「礼を言うのは君じゃない。むしろ、君がこんな無茶をしなければ、俺がここに来る必要もなかった。」

殿下の言葉は穏やかだったが、その裏にある鋭さが私の胸を刺した。

「……すみません。」

私が小さく呟くと、殿下は溜息をついた。

「リリアナ、君は何か大きなものを背負おうとしている。だが、それを全て一人で背負う必要はない。」

「でも……」

「俺がここにいる。それを忘れるな。」

彼の言葉に、胸が熱くなる。それでも、私は彼の顔をまともに見ることができなかった。

エドガーとエリーナも無事に馬車に戻り、私たちは再びヴァレンシュタイン家へと向かっていた。車内では、エドガーが今回の出来事を興奮気味に振り返っていた。

「姉さん、本当にすごかった！でも、さすがルシアン殿下だね。あのタイミングで来るなんて、まるで英雄みたいだった。」

「……ええ。」

私は小さく頷くだけだった。ルシアン殿下の顔を思い出すたび、胸が締め付けられる。彼がどれだけ私のことを思ってくれているかを考えると、罪悪感が増していく。

（わたくしには、修道女になるという決意がある……。それなのに、彼の想いに応えることができないなんて……）

エリーナが心配そうに私を見つめていたが、私はただ曖昧に微笑むだけだった。

数日後、ヴァレンシュタイン家でルシアン殿下と再び会うことになった。今回の件を受けて、オルフ公爵への対策を協議するためだ。

「公爵の取引現場を抑えたことで、彼の計画にはかなりの打撃を与えたはずだ。」

殿下は冷静に状況を分析しながら言葉を続けた。

「だが、彼の本拠地や計画の全容を暴かなければ、また同じことが繰り返される。そこで、君たちにはこれまでの調査結果を詳しく教えてほしい。」

私はこれまでに集めた情報を殿下に共有し、これからの方針について話し合った。エドガーも積極的に意見を述べ、殿下は彼の言葉にも真剣に耳を傾けていた。

「エドガー、君はなかなかの洞察力を持っているな。」

「ありがとうございます！僕も姉さんのように、少しでも役に立ちたくて。」

エドガーの言葉に、殿下は微笑んだ。

「リリアナも君も、十分すぎるほど役に立っている。それに、君たちの存在が彼女の力になっていることは間違いない。」

「姉さんの力になれているなら、嬉しいです！」

エドガーの言葉に、私は少しだけ微笑みを浮かべた。彼が私を支えようとしていることが、どれだけ心強いかを改めて感じる。

その夜、殿下との話し合いを終えた私は、一人で部屋の窓から外を眺めていた。冷たい風がカーテンを揺らし、月明かりが床を照らしている。

「リリアナ様、大丈夫ですか？」

エリーナが静かに部屋に入ってきた。彼女の優しい声に、私は小さく頷いた。

「ええ、少し考え事をしていただけよ。」

「ルシアン殿下のこと……ですか？」

彼女の言葉に、私は驚いて振り返った。エリーナは申し訳なさそうに目を伏せている。

「すみません。ですが、リリアナ様の表情を見ていれば分かります。」

「……エリーナ、わたくしは彼の期待に応えられないのよ。」

私の言葉に、彼女は優しく微笑んだ。

「それでも、リリアナ様が大切な方だということは、殿下にも伝わっていると思います。」

エリーナの言葉に、私は少しだけ胸が軽くなるのを感じた。彼の存在が私にとってどれだけ大きなものかを、改めて実感した瞬間だった。