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カミラとの対面を終えた翌日、リリーナは離宮の小広間にエドガーを呼び出していた。
格子窓から差し込む日差しは柔らかく、庭ではまだユリアンの笑い声が響いている。
「……姫様、噂の話、マジだったんですか?」
「ええ。ユリアン本人の口から聞いたわ。おぼろげながら、周囲の気配に気づいているのよ」
机の上には、簡素な地図と書簡の束。
リリーナは扇子を軽く振りながら、そのひとつをエドガーの方へ押しやった。
「“姫は無理をしている”という話が出回るのは構わないの。
それは私自身が意図的に作った印象でもあるから」
「けど、“誰かが姫様を狙ってる”って噂は別だ。これは放っとけない」
エドガーの声が低くなる。
リリーナは静かに頷いた。
内心ではすでにいくつかの可能性を絞っている。だが――情報が足りない。
(毒を盛られたように見せて、私を排除しようとする勢力。
私の“弱り”を利用して、宰相家かユリアンに揺さぶりをかけようとする者。
あるいは、何も考えていない“噂好き”の貴族か)
「調べるしかありません。……あなたの情報網を借りるわ」
「庶民筋のネットワークで良ければ」
エドガーは軽く肩をすくめる。
彼は“リリーナ様の護衛”として宮廷外でも頻繁に目撃されており、
慈善活動の中で庶民に広がった情報網の“顔役”のひとりだった。
「この数年で、あなたが築いた信頼は馬鹿にならないわ。
私が表に立つより、あなたが行動する方が自然でしょう」
「了解。じゃあ、うちの連中動かす」
彼はぽん、と指を鳴らして小声で続ける。
「……リリーナ様が庶民に“聖女”扱いされてるのは、顔見せが多いのも理由だけど、
何より、姫様が“目線を下げて会話してる”からなんですよ。
貴族ってのは普通、そんなことしません」
「演技でもね」
リリーナは、微笑と共に返す。
「慈善を偽善で終わらせない。それが弟の未来に繋がるのだから」
「お強いことで」
「当然でしょう? 私は“聖女”なんですから」
エドガーが吹き出す。
けれどその目は真面目だった。
「じゃあ、姫様。俺の方でも動きは逐一報告します。
何かわかったら、すぐ届けますんで」
「お願いするわ」
エドガーが部屋を去ると、リリーナは書きかけの帳面を広げた。
淡いインクで記された名前と、記号と、日付。
情報が集まるたび、彼女は冷静に“見えない地図”を描き続けている。
(王家の血を引く者は、“知らぬまま”でいてはいけない。
利用されるのではなく、選び、動かす側でなければ)
ペンを握る手が止まる。
リリーナは、窓の外の庭へ目をやった。
そこには、先ほどまでユリアンがいた――小さな命。
「……心配しなくていいのよ、ユリアン。
お姉様が、あなたを守るための“毒”は、すべて呑み干してみせるから」
陽光の中、帳面のページがふわりと風にめくられた。
格子窓から差し込む日差しは柔らかく、庭ではまだユリアンの笑い声が響いている。
「……姫様、噂の話、マジだったんですか?」
「ええ。ユリアン本人の口から聞いたわ。おぼろげながら、周囲の気配に気づいているのよ」
机の上には、簡素な地図と書簡の束。
リリーナは扇子を軽く振りながら、そのひとつをエドガーの方へ押しやった。
「“姫は無理をしている”という話が出回るのは構わないの。
それは私自身が意図的に作った印象でもあるから」
「けど、“誰かが姫様を狙ってる”って噂は別だ。これは放っとけない」
エドガーの声が低くなる。
リリーナは静かに頷いた。
内心ではすでにいくつかの可能性を絞っている。だが――情報が足りない。
(毒を盛られたように見せて、私を排除しようとする勢力。
私の“弱り”を利用して、宰相家かユリアンに揺さぶりをかけようとする者。
あるいは、何も考えていない“噂好き”の貴族か)
「調べるしかありません。……あなたの情報網を借りるわ」
「庶民筋のネットワークで良ければ」
エドガーは軽く肩をすくめる。
彼は“リリーナ様の護衛”として宮廷外でも頻繁に目撃されており、
慈善活動の中で庶民に広がった情報網の“顔役”のひとりだった。
「この数年で、あなたが築いた信頼は馬鹿にならないわ。
私が表に立つより、あなたが行動する方が自然でしょう」
「了解。じゃあ、うちの連中動かす」
彼はぽん、と指を鳴らして小声で続ける。
「……リリーナ様が庶民に“聖女”扱いされてるのは、顔見せが多いのも理由だけど、
何より、姫様が“目線を下げて会話してる”からなんですよ。
貴族ってのは普通、そんなことしません」
「演技でもね」
リリーナは、微笑と共に返す。
「慈善を偽善で終わらせない。それが弟の未来に繋がるのだから」
「お強いことで」
「当然でしょう? 私は“聖女”なんですから」
エドガーが吹き出す。
けれどその目は真面目だった。
「じゃあ、姫様。俺の方でも動きは逐一報告します。
何かわかったら、すぐ届けますんで」
「お願いするわ」
エドガーが部屋を去ると、リリーナは書きかけの帳面を広げた。
淡いインクで記された名前と、記号と、日付。
情報が集まるたび、彼女は冷静に“見えない地図”を描き続けている。
(王家の血を引く者は、“知らぬまま”でいてはいけない。
利用されるのではなく、選び、動かす側でなければ)
ペンを握る手が止まる。
リリーナは、窓の外の庭へ目をやった。
そこには、先ほどまでユリアンがいた――小さな命。
「……心配しなくていいのよ、ユリアン。
お姉様が、あなたを守るための“毒”は、すべて呑み干してみせるから」
陽光の中、帳面のページがふわりと風にめくられた。
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