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「毒筋の取引が、急に動いた?」
リリーナはカミラの差し出した帳面に目を落とした。
冬用のマントを羽織ったカミラは、離宮の客間で声を潜めて続ける。
「ええ。第一王子派の財務官が、薬師と“特殊試薬”の契約を結んでいるわ。分量は致死量寸前。儀礼用と言い張ってるけれど、時期が時期でしょう?」
「誕生日の直後……祝いの空気が緩むこの頃を狙うなら、毒は手軽ね」
「あなたが白魔法で削れているという噂が事実なら、解毒に耐えられないかもしれない……と広めれば、一石二鳥」
リリーナは帳面を閉じた。
そこへノックもなくエドガーが入ってくる。
「庶民筋の商人情報。城下の香料商が、“苦味隠し”の香草を大量に仕入れてた。納品先は宮廷厨房です」
「一致したわね」
リリーナは眉根を寄せた。
「狙いは晩餐か祝宴か……。兄上自身か、それとも私を介してユリアンか」
「どのみち危ない橋です。殿下に“お守り”忘れないよう言っておくべきです」
「ええ」
◆ ◆ ◆
ユリアンの私室には、暖炉の火がゆらめいていた。
リリーナは弟の首に手を伸ばし、銀鎖のダイヤをそっと確認する。
「お姉さま……?」
「大事なお守りだから、これからは眠るときも外さないで。いい?」
「うん。……でも、どうして急に?」
「寒くなったでしょう? 風邪より厄介なものが流行る季節なの」
リリーナは微笑んでそう言ったが、ユリアンの胸はざわめいた。
姉の笑顔の奥に、ひどく冷たい影が見えた気がした。
「ねえ、お姉さま……なにか怖いこと、起きるの?」
「起こさせないために、こうして準備しているのよ。だから心配しないで」
「……うん。でも、心配だよ。お姉さまのほうが」
「私は大丈夫。ほら、あなたのお付にも言っておくわ」
リリーナが侍童に目を向ける。
「明日から、殿下がお食事を召し上がる前に必ず私かエドガーを通すこと。いいですね?」
「は、はい、姫様」
ユリアンはそのやり取りを見て、胸の奥を寒風がなでるように感じた。
何かが押し寄せている。けれど、自分にはまだ何もできない。
(もし、お姉さまが……)
小さな手が、ダイヤをぎゅっと握った。
白い石は体温で温まり、かすかに光を返した。
◆ ◆ ◆
夜更け。リリーナは机に向かい、白魔法の祈りを小声で唱えた。
ダイヤの予備石にゆっくりと魔力を沁み込ませる。
胸の奥が焼けるように痛む。他ならぬ“毒”の反動。
それでも彼女はペンを取り、帳面に一行記す。
《毒対策:厨房・侍医ライン要監視 最優先保護対象=ユリアン》
蝋燭がぱちりとはじけ、芯が黒く焦げた。
「守るわ。どんな毒でも」
冬の静寂は、深く、重い。
初雪の夜に交わした姉弟の祈りが、白い息となって溶けていった。
リリーナはカミラの差し出した帳面に目を落とした。
冬用のマントを羽織ったカミラは、離宮の客間で声を潜めて続ける。
「ええ。第一王子派の財務官が、薬師と“特殊試薬”の契約を結んでいるわ。分量は致死量寸前。儀礼用と言い張ってるけれど、時期が時期でしょう?」
「誕生日の直後……祝いの空気が緩むこの頃を狙うなら、毒は手軽ね」
「あなたが白魔法で削れているという噂が事実なら、解毒に耐えられないかもしれない……と広めれば、一石二鳥」
リリーナは帳面を閉じた。
そこへノックもなくエドガーが入ってくる。
「庶民筋の商人情報。城下の香料商が、“苦味隠し”の香草を大量に仕入れてた。納品先は宮廷厨房です」
「一致したわね」
リリーナは眉根を寄せた。
「狙いは晩餐か祝宴か……。兄上自身か、それとも私を介してユリアンか」
「どのみち危ない橋です。殿下に“お守り”忘れないよう言っておくべきです」
「ええ」
◆ ◆ ◆
ユリアンの私室には、暖炉の火がゆらめいていた。
リリーナは弟の首に手を伸ばし、銀鎖のダイヤをそっと確認する。
「お姉さま……?」
「大事なお守りだから、これからは眠るときも外さないで。いい?」
「うん。……でも、どうして急に?」
「寒くなったでしょう? 風邪より厄介なものが流行る季節なの」
リリーナは微笑んでそう言ったが、ユリアンの胸はざわめいた。
姉の笑顔の奥に、ひどく冷たい影が見えた気がした。
「ねえ、お姉さま……なにか怖いこと、起きるの?」
「起こさせないために、こうして準備しているのよ。だから心配しないで」
「……うん。でも、心配だよ。お姉さまのほうが」
「私は大丈夫。ほら、あなたのお付にも言っておくわ」
リリーナが侍童に目を向ける。
「明日から、殿下がお食事を召し上がる前に必ず私かエドガーを通すこと。いいですね?」
「は、はい、姫様」
ユリアンはそのやり取りを見て、胸の奥を寒風がなでるように感じた。
何かが押し寄せている。けれど、自分にはまだ何もできない。
(もし、お姉さまが……)
小さな手が、ダイヤをぎゅっと握った。
白い石は体温で温まり、かすかに光を返した。
◆ ◆ ◆
夜更け。リリーナは机に向かい、白魔法の祈りを小声で唱えた。
ダイヤの予備石にゆっくりと魔力を沁み込ませる。
胸の奥が焼けるように痛む。他ならぬ“毒”の反動。
それでも彼女はペンを取り、帳面に一行記す。
《毒対策:厨房・侍医ライン要監視 最優先保護対象=ユリアン》
蝋燭がぱちりとはじけ、芯が黒く焦げた。
「守るわ。どんな毒でも」
冬の静寂は、深く、重い。
初雪の夜に交わした姉弟の祈りが、白い息となって溶けていった。
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