病弱を装う王女ですが、弟の未来のためならどんな手でも使います【完結】

藤原遊

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その朝、王都に初雪が降った。

屋根の上に白い綿が積もり、城の中庭はうっすらと銀に染まる。
子どもたちが駆け出し、侍女たちは笑いながらスカートの裾をたくし上げた。

リリーナは、離宮の窓辺からその光景を見下ろしていた。
手には、白銀の糸で縫った小さな手袋。
リボンで結んだそれは、今日の主役──弟の手の大きさにぴったり合わせて作ったものだ。

「……さて。笑ってくれるかしら、あの子」

紅茶の湯気が立ち昇る。
もう片手には、ユリアンに贈るマフラー。薄い水色の毛糸で、一針ずつ編んだもの。

(戦死するなんて、そんな未来──見せたくない)

誕生日は、祝うためにある。
あの子の未来が、祝福で満ちるように。
たとえそれが、誰かの犠牲の上に成り立つものでも。

 

◆ ◆ ◆

 

「わぁっ……!」

扉が開いた瞬間、ユリアンの歓声があがった。

「すごい……! 雪みたいなケーキ!」

長いテーブルには、栗とナッツのケーキに、白い粉砂糖がふわりと積もっていた。
温かい林檎の蜜酒、焼きたてのパイ、リリーナが自ら選んだ贈り物が並んでいる。

「お姉さま、これ……ぼくの?」

「ええ。あなたのために用意したのよ。誕生日、おめでとう、ユリアン」

そう言ってリリーナが差し出したのは、手袋とマフラーの包み。
ユリアンはそれを受け取ると、ぎゅっと抱きしめた。

「……お姉さま、ありがとう。ずっと、ずっと一緒にいてね」

その言葉に、リリーナの胸が少しだけ、痛んだ。
何も知らない、守るべきこの子が、こんなにまっすぐに懐いてくるから。

(ごめんなさい。けれど、私はあなたの未来を奪わせない)

 

◆ ◆ ◆

 

夜──祝宴が終わり、余韻が残る離宮に、一本の封書が届いた。

灰色の封筒、蝋も印もない。
開封すると、粗雑な筆跡でこう記されていた。

「姫君。弟が次の冬を迎えられる保証は、どこにもない」

リリーナはそれを読んで、顔色ひとつ変えなかった。
だが手紙を持つ指先だけが、わずかに震えていた。

すぐにエドガーを呼び、封書を渡す。

「脅しね。今までの火遊びとは違う。これは“行動”の予告よ」

「……姫様、この手紙をばら撒けば、殿下への同情票が一気に増えますが?」

「まだ、早いわ。これは“私たちが警戒している”と悟らせるべき段階。
カミラに情報を流して、“書状を受け取った”という噂を出してちょうだい」

「了解。……それにしても、やり方が雑ですね。焦ってる」

リリーナは頷いた。

「こちらが動き始めたから、向こうも焦り始めた。
つまり──あと一歩で、王都は私たちの手の中」

 

そして、窓の外には、また新たな雪が舞い始めていた。
静かな夜の、白い誓いのように。

 
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